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「奪い、奪われ、それらを煮詰めるだけでは、一生本当の味には辿り着けません。シューガッタ女王、私にこの城の厨房を貸していただけないかしら? 私をここまで案内してくれた、飢えた魔女たちに…抹茶を振る舞うと約束しましたわ。…そしてシューガッタ女王に、今のキャンディー王国にはない、真実の口直しを振る舞いたいのです」
「ククッ……ハハハハハ! 厨房だと? 我らから全てを奪った民の娘が、この呪われた地で何を作ると言うのだ!」
「甘さです」
迷うことなくルシエラは答える。
「今の貴女たちが貪っているのは、奪い取っただけの歪な甘さです。そして、苦さも知っている。それでお腹は膨れても、心は乾く一方でしょう? 私が持ってきたのは、甘さを引き立て、魂を鎮める緑の至宝。これを使って、あなたたちが忘れてしまった甘さの真髄を思い出させてあげますわ」
懐から抹茶の筒を取り出し、ルシエラの顔には凛とした微笑が浮かんでいた。
「仮に……もし私の料理がシューガッタ女王の心を動かせなかったなら、その時は私のこの舌を、煮溶かしてキャラメル細工にでも何にでもしてくださって構いません。……いかがかしら、女王?」
シューガッタは暫く黙り込んでいた。
ルシエラの瞳の奥にある不敵な光を値踏みするように見つめ、氷の玉座がミシリと小さな音を立てる。
「ハッ……! 無意味な謝罪だ。たかが小娘の一言で、何世代にもわたる我らの氷結した年月が溶けるとでも思っているのかっ!」
シューガッタの怒声と共に、広間に氷の礫が舞う。彼女の煮詰まったカラメルのような瞳が、嘲笑を込めてルシエラを射抜いた。
「貴様らキャンディー王国の民は、常にそうだ。口先だけで美辞麗句を並べ、その実、腹の中では我らを見下している。謝罪など、強者が弱者に与える甘い施しに過ぎん!」
「いいえ、シューガッタ女王。これは施しでも、ただの慈悲でもありませんわ」
だが、ルシエラは動じなかった。彼女はゆっくりと右手を掲げ、その薬指に宿る、月光よりも静かな輝きをシューガッタへと突きつける。
「ご覧なさい。これは我が国の王子、クラウスとの誓いの印誓いのシュガーリングです。キャンディー王国の次期王妃となる、私自身の覚悟の証よ」
シューガッタの笑いが止まる。魔女たちの囁きも一瞬で消え、静寂が広間を支配する。
「私は将来、あの国の王妃として、この世界のすべてを飲み込み、統治する責任があります。先祖が犯した過ちを清算し、負の連鎖を断ち切る……。その未来を確約するために、私は今ここに立っているのです。私が王妃になるということは、王国とこの魔女の国、双方の甘さに責任を持つということよ!」
「王妃、だと……? そのようなちっぽけな歪な絆に縋るか」
「縋っているのではありません、利用するのよ。この指輪は、私がどれほど過酷な運命に晒されても、決して溶けなかった。王妃となる私が自ら厨房に立ち、あなたたちに料理を振る舞う。これ以上の誠意がどこにあるというのかしら?」
ルシエラは不敵に微笑み、シュガーリングを撫でた。
「面白い。その傲慢な舌、どちらに転んでも絶望の味に染まることになるだろう。……連れて行け。ただし、細工は無用だ。我らの影が常にお前の背後で見張っていると思え」
「光栄です、シューガッタ女王」
ルシエラはエリオットを振り返り、不敵にウィンクしてみせた。
「気に入らなかったら焼くなり溶かすなり好きにしなさい、私も、この男もついでにね」
「ついでかよ……」
「さあ、行くわよ」
ルシエラはドレスの袖を力強く捲り上げ、魔女たちの視線を背に、呪われた厨房へと颯爽と歩き出した。




