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「で、なんだよこの状況は……」

 エリオットの呆れとも困惑とも付かない声色がしんっとした厨房に響いた。

「……ちょっと、シューガッタ女王! なんでエリオットをそんな風に縛り上げてるのよっ!」

 ルシエラが厨房でボウルを構えながら叫ぶ。

 広間の中心ではエリオットがどろどろのキャラメルで出来た椅子に固定されていた。

 しかも、頭上には巨大な塩の塊が吊るされている。

「スイーツランドの誠意を見せてくれるのだろう? 無関係な男は不要なはずだ」

「ひどい言い草だな……。俺はただの付き添いでアンタらのイザコザには……」

「エリオットの手なんか借りなくても、私はちゃんとスイーツを作れるわよっ!」

「まー頑張ってくれよお嬢さん……。こんな所で塩漬けにされるのはゴメンだからな」

「ええ! 任せなさいっ! さあ、始めましょうか。魔女の国の、呪われた材料たち!」

 意気揚々とルシエラが、目の前の調理台へと向き合う。

 ルシエラが作るのは、砂漠で知った苦味と、魔女の凍土、そして奪われた甘さを一つに融合させた究極の逸品、氷結・抹茶フォンダンだ。

 先ずルシエラは、噴水から汲み上げたどろりとした極彩色のシロップを小鍋に取った。

「このシロップは、ただ不純物が多いだけね。まずはこれを浄化するわ」

 魔女の国特有の冷たい青い炎にかざし、あえて沸騰させずにゆっくりと灰汁を掬い取る。

 するとただ甘いだけの暴力的な液体が、ルシエラの指先ひとつで、透き通った黄金色の蜜へと姿を変えていく。

 次に、エリオットから託された抹茶の筒を開ける。

「抹茶は繊細なの。この冷え切った城の空気こそが、香りを閉じ込める最高の冷蔵庫だわ」

 と、知ったかぶりをしてみる。

 ボウルに、この城の壁から削り取った最高級の粉糖と、抹茶を惜しみなく投入し、ピムから学んだ比率を応用し、少量の水を加えて練り上げた。

 ダマひとつない、深く、底知れないほど鮮やかな緑色のペースト。

 それはまるで、枯れ果てた魔女の国に初めて芽吹いた、瑞々しい若葉の色のようでもあった。

 作り上げた黄金の蜜と、抹茶のペーストを、魔女の国の冷たい氷の泡立て器で一気に混ぜ合わせていく。

「甘さは苦さを支え、苦さは甘さを高める。どちらが欠けても、これは完成しない……!」

 お菓子作りを見つめていた魔女たちがヒソヒソと囁き声を上げ、ルシエラの手元を凝視していく。

 普通なら分離してしまうはずの水と蜜が、魔女の国の魔力によるものなのか、なめらかなエメラルド色の生地へと変わっていく。

 仕上げにルシエラは、生地を小さな氷の器に流し込み、あえて強火の青い炎で外側だけを急激に冷やし固めていく。

「外はパリッと凍りつき、中はとろりと熱い。相反する二つの温度が、貴女たちの凍えた舌を叩き起こすはずよっ!」

 最後に、ルシエラは出来立ての温かな抹茶のソースを、氷の殻に閉じ込めた。

 見た目は、魔女の国を象徴するような冷徹な緑の宝石。だが、その内部にはルシエラの意志という名の熱が秘められている。

「これが氷華の抹茶・ルシエラ・スペシャルの完成よっ!」

 ルシエラは、エメラルド色の光を放つその皿を手に、ゆっくりとシューガッタの前へ進み出た。

「シューガッタ女王。さあ、これを……」

 立ち上がる抹茶の清冽な香りが、不気味な甘い匂いに満ちていた広間を一瞬で清めた。

 魔女たちはその香りを嗅いだだけで、魂を奪われたように呆然と立ち尽くしている。

 そうして魔女たちが、恐る恐るその緑の塊を指で掬い、口へと運ぶ。

 広間に、カサリ、と乾いた音が響く。

「……ッ!?  コレ……ハ……」

「苦イ……苦イノニ……後カラ……甘サガ……追いかけてクル……」

「喉ガ……焼ケナイ……。心ガ……静かニ……ナル……」

 魔女たちの目に宿っていたギラついた飢餓感が、霧が晴れるように消えていく。

 魔女たちが求めていたのは、暴力を振るうような甘さではない。自分たちの失った静寂を埋めてくれる、深い安らぎだったのだ。

「さあ、次は貴女の番ですよ。シューガッタ女王」

「……いただくとしよう」

 女王の長い指が伸ばされる。

「どうぞ。毒なんて入っていないわ。……代わりに、あなたが捨てたはずの誇りが入っているけれど」

 



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