1.『君と同じ色』
中学に上がってはや一年。ボクはきっと最初で最後の恋をした。
相手は、同じクラスの美鈴くん。
彼は押しにも、自分に向けられる好意にも弱くて、ボクなんかでもスッと付き合えるほど…チョロい。
「夏休みの前に付き合って良かった。だって、この夏休みを美鈴くんとの思い出で埋めれるんだろう?これほど幸せなことはないじゃないか!」
そういうと、美鈴くんはボクを愛おしそうな目で見て頭を撫でてくれた。
その優しい手つきが、表情が、ボクにはとってもかっこよくて、どこか大人びたようにすら見えてしまう。
「クイナは可愛いね。そう思ってくれてありがと。」
昼も、夜も、どちらも包みこんだ夕日の色をした美鈴くんの髪はくくるほどではないけれど少し長くて、僕のみかんのようなインナーカラーと比べるとどこまでも美しかった。
「キミの体は、きれいな夕日でできているんだね。」
ついポロッと漏れ出た一言は、美鈴くんを困惑させるのには十分だった。
そりゃそうだ。脈絡ってものがないんだもの。
「…忘れてくれ。思っていたことがつい言葉に出てしまっただけだから。あっでも決してキミの話を聞いていないわけじゃないんだ!ちゃんと聞いてる!それだけは安心してくれ!」
言葉を重ねれば重ねるほど、ボクがいかに子供らしいかが可視化されているようで恥ずかしい。
ただにこやかにボクの話を聞いている美鈴くんの態度も相まって単にボクが馬鹿なだけな気さえしてくる。
自分では年相応だと思っているのだけれど…
「なんで僕が夕日で出来てると思ったの?」
コテンと首を傾げて美鈴くんはボクにそう聞く。
ご尤もな意見だ。ボクの心を見透かしていない限り美鈴くん的にボクは突発的に変なことをいいだした子という認識だろうからね。
「その、美鈴くんの髪は昼から夜に変わる境目のオレンジできれいだと思ったんだ。目も赤色で、夕日の時にきらきら光る太陽に似ていて…すごく…なんていうんだろう。美しいっていうのかな…」
ただ、拙くてもいいからキミを褒めたくて。
一生懸命理解できる形に内容を言葉にしていく。
「えへへ…そっかぁ、ありがとう。」
その嬉しそうに笑う顔がなによりボクの宝物だと思ったから。
「…ボクらの関係、どこまで続くかな。」
ボクは知っていた。学生の恋愛にはいつか終わりが来ることを。
経験としてというよりは、知識として。
そして、彼はどこまで続ける気があるのかな、なんてことを思ったからこの言葉を吐き出した。
「うーん…少なくとも結婚するまで続けるよ。」
笑顔でそう答える彼は、どこまでも現実を見ていなくて、純粋だ。
「キミは本当にきれいな人だね。」
後ろの汚いボクの心だけを置き去りにして、今ある幸福を飲み干した。
置き去りにされた汚い感情が、その幸福に紛れているとも知らず。
完全な幸せはいつまでも続かない。
動画でも沢山見たんだ、ラブラブな方が結局すぐに関係が壊れるって。
ボク達はほとんど毎日喋っていた。会って、会えないならメッセージで、メッセージが長続きしてしまいそうなら通話をして。
始めはお昼から夜までずっと通話していたのに、今は夕方から夜までになっていた。
美鈴くんは、お昼を自分の時間にし始めた。
「少し、飽きられてる…?」
怒りのピークは6秒という話は有名だ。そのピークを過ぎたら出来事を思い出したとしてもピークより怒ることはない。
それが恋愛にだって当てはまるということを、ボクは知らなかった。
『飽きられているかもしれない。』ただその事実に漠然とした不安が募って仕方がなかった。
そして、”飽きられている自分”に酔いしれていたかったのかもしれない。
「…ボク、は…悲劇のヒロインでいたいのかな。」
悲劇のヒロインは、ボクの内にある劣等感と承認欲求を満たすにふさわしい称号。
自分は悲劇のヒロインなんだと思うだけで可哀想な自分がとても愛おしく感じて、そこに自分で自分に寄り添うことでただの一人芝居と変わらないのに自分の承認欲求が満たされてしまう。
ただ、自分を悲劇のヒロインだと思うには可哀想な出来事が必要だ。けれど、恋人はどこまでも可哀想な出来事を作り出だすに容易い。
相手の意図はどうであれ、受け取り手がそう思ったなら可哀想が作れるから。
「じゃあボク、美鈴くんのことを」
あ、駄目だ。これ以上口に出すとそれが現実になってしまいそうで、それが本当のことだと認識してしまいそうで、言えない。いや、言いたくない。
それが本当になったらボクはきっと、確実に長くとも一年でこの関係は終わる。
「忘れよう。そう、ボクの悪い癖だ。現実に起こっていないのに仮定で話を進めてしまう。それに今は美鈴くんとの電話が終わって、深夜だもの。少しおかしくなっただけさ!うん。そうに違いない。」
その1年後、ボクは美鈴くんと別れた。
言い出しっぺはボクでした。ごめんなさい。




