4.『音のウラガワ』
ずっと、見ていた。ずぅっと見ていた。
クレアより、マールより近く、亡くなったクロトより遠い場所で事の顛末を、愛で招いた狂気を、バッドエンドの先の話を。
クロトが死んだのも、マールが狂ったのも、クレアが壊れたのも、全てのきっかけは俺にある。
だが、クロトに関してだけは俺が干渉せずともいずれクレアに殺されていたが…タイミングが早くなっただけだ。
「これで変わったな。」
リップを渡した。包丁を渡した。
できっこなかったはずのことをできる状況にした。
これで確実に、元ある未来は消された。俺は満足げにそう呟くが、その呟きは近くに居た魔女と代弁者に聞かれていた。
「ふふ、どうだろうね?僕の気分次第で元に戻してしまおうかな。」
魔女は口元を抑えてクスクス笑うものの、目からその性格の悪さがにじみ出ている。
汚らしい獣の目。狩られることのない捕食者の目だ。
だが、確実にできる力を持っている。俺が止めようとしても無駄な絶対的力がそいつにはある。
だからこそ、こいつは厄介だ。
「んー、完璧じゃないですかぁ?クレアは前と違って完全に壊れましたよぉ。アッハハハ!ヒトってこんな壊れ方するんだぁ、おもしろーい!」
対してこの代弁者の目はどこまでも濁ったまま、綺麗さを保って壊れていた。
というか代弁者も人間の癖に何を言ってるんだろうか。阿呆なのか?
まあ、一つ確実なことを言うとすると魔女も代弁者も、どちらもイカれている。
「それにしてもすごいですねぇ!渡した物にどんな効果をつけたんですかぁ?」
アハ、アハハ!とどこか楽しげに笑う代弁者の声に、感情は見当たらない。
つくづく気持ち悪いやつだ。
「そうだなぁ〜…言わない♡あぁ、でも一つ教えるとするなら思考が鈍くなる効果だな。お前も気づいてると思うが。でも使用するか否かは本人しだいだぜ?ま、包丁は強制的に手元に置いたがな。」
俺のその返答に、代弁者は満面の笑みを浮かべた。
うん。しっかりとキレている笑顔だ。
「トリックスターといえどもぉ、自分の見た目をちゃんと見てはいかがですぅ?いい歳してるくせに語尾にハート?ふざっけんじゃないですよぉ!きっっっっっしょ!」
それ語尾伸ばしてるお前にも返ってきてるだろ。ほぼブーメランじゃねえの?とでも言おうとしたが、先に魔女が発言をした。
「ちょっと悪魔。その声耳に響くからやめてくれないかな?大声で喋られると気分が悪くなるんだけど。」
魔女は不満げに代弁者へと苦言を呈す。
だが、苦言を呈された代弁者もどこか不満げだ。
「私はぁ、あくまで悪魔の”代弁者”であって悪魔本人ではありません!」
「あーはいはいわかったから。」
魔女は面倒くさそうに代弁者を適当にかわし、こちらに話しかけてくる。
代弁者にこれ以上喋ってほしくないのだろう。自分の意見だけを押し通したいといったところか。傲慢にも程があるな。
「というか、クレアにとって現実にいるように見えるマールってどうなっているんだい?」
「企業秘密だ。と、言いたいが…どうせお前言うまで粘着してくるだろ。こんのネチネチニストが。理屈はわりかし簡単だ。雨の日にランダムで本格的に精神も頭もぶっ壊れる物をあいつの身近なところに置いてるだけ。」
魔女は自分のことをきちんと理解されていて満足そうに俺の話を聞く。
「君とは長い付き合いだからね。僕のことをわかってくれているようで嬉しいよ。で、ネチネチニストって何かな?撤回するなら今のうちだよ?」
こいつに罵倒の類は地雷か。いやまあ知っていたが。
世界の中心は自分とでも思っていそうだしなあ…と思いながら撤回はしない。
「早く次のところに行きましょうよぉ!暇ですぅ。」
代弁者が俺達に呼びかける。
俺はそれを待っていたかのようにそそくさと次の準備を始めた。
後一秒でも遅れていたら確実に魔女は俺の首を跳ねていただろう。代弁者のタイミングには感謝した。
「まあでもとりあえず…あと4人、か。」
俺の発した声だけがその場に残った。




