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1.5『君の音』

梅雨。その季節は私をどこまでも陰鬱な気分へと導く。

綺麗に終わった物語でも、先を先をと読み続ければいつかは悲劇が待ち受けている。

少なくとも、私はそうだ。


「あなたはどうして生きてるの?」

「どうしてあの時、マールはあなたの目の前で死んでいたの?」

「ダメだよ」

「犯した罪があるならば」

「罰を受けなきゃ。」

「その罰を与えるのは、」

「██トじゃないと。」


雨の日に思い出す想い人。

それは梅雨になると1層激しく主張してくる。

幻聴が、聞こえる程に。


この幻聴が正しいのか、今の私には分からない。

幻聴が聞こえる時点できっと今の私は正常ではないから。


だから、だからこそ。


「五月蝿い!!!!!!!」


そう声を張り上げる。

ただ、少しばかり叫びすぎた。

喉が痛くなってしまいそうなほどの大声を出してしまったから。


まあ、周りに迷惑はかからないだろう。

ここは自分で買った一軒家で。

今、私が1番私であれる場所だから。


気晴らしに私は外へ出る。

あの日の紅と、似てる色の傘をさして。

ザー、ザー、雨の音はあの日と変わらずうるさかった。


「_クロト、ねえクロト。こっちに来て?素敵なモノを、見つけたの。」


嬉しそうに喋りかけてくるマールの幻聴。


「着いていきなよ」

「貴方の愛した人の言葉でしょ?」

「ついて行かなきゃ」

「貴方の役目でしょ?」


胸を煽るのは、誰ともつかない私の罰。

数分硬直した後、傘を持ってない手で頭を掻きむしった私は、マールの言った方へ行く。


「仕方ないな。お前が言うなら、着いていってやるよ。」


私はあの頃へ戻ったかのようにマールの気まぐれに付き合う。


「次は右よ」

「このまままっすぐ。」


そして、そして。

最終的に連れてこられたのはあの日の場所。

どれだけそこにある建物が変わっても忘れない。そこは、ずっとマールと放課後に行っていた思い出の場所だった。

そして、マールが、そこで、死んだ、場所。


「お前は...また....」

「俺は...私に、どうして欲しいんだ...」


傘はぽとりと落ちる。

私の目の前は真っ暗。

正確に言えば、私が自分で顔をおおってる。


雨が私の体を濡らしていく。

声は途絶えることなく聞こえ続ける。


「貴女のせいね。」

「自業自得」

「信じてついていった貴方がバカなの」


五月蝿い、五月蝿いよ。

手のひら返しで煽る声はどこまでも冷静になりたい私を嘲笑うかのようにただ不安を刺激され心臓が跳ねる事しか言わない。


ただゆっくりと、私は膝から崩れ落ちる。

すると_


「もう...濡れちゃってるじゃない。アンタの体も、服も...」


何してるの?とでも言いたげな声が聞こえてきた。

嘘だ。嘘だ嘘だ。そんなの、あるわけない。

マールが声をかけてくるなんて。

だって、幻聴ならこんなに距離を感じるわけがない。


私は、ただ前を向くことしかできなくて。

目の前を見れば白いワンピース、クリーム色の髪。間違いない、あの日のままのマールが俺の傘を取って、さして、そこにいた。


「ま、ある....?」


私がそんな声を出せばマールはクスリと笑って私に手を差し出す。


「そうよ?ワタシがここにいるのはそんなに不思議なの?クロト。」


嗚呼、間違いない。マールだ。

私はマールの手を取って立ち上がり、そのままマールとどこか、行く宛なんて決まってないけど、どこまでも歩いていく。


「死がふたりを分かつまで、死がふたりを分かつことになっても永遠に!…クロトには、愛を誓ってあげる。」


「…え。」


口から漏れ出た音の続きを考えるよりも先に、私の意識は落ちていった。


目が覚めれば、パステルピンクとパープルを基調とした部屋。

だが、その部屋の主は私じゃない。


「起きたんだね。」


従姉妹のクイナだ。いつも通りの表情で、声で、そう呼びかける。

そういえば、とあの場所とクイナの家が近かったということを思い出す。


「...俺またぶっ倒れてたってことでいいか?」


「御名答さ。また幻聴かい?キミも飽きないねえ…」


「あんなのに飽きるもクソもあるかよ。生理現象みたいなモンだ。」


そう言って、私は自分の手元を見る。

紅。一瞬ソレが見えた気がして、目を見開くがそんなものはただの幻視だ。

気にすることでも無かった。絶対に、気にするところはそこではなかった。


「マールのこと、そんなに好きなのかい?」


突然、そんな言葉が投げかけられた。

私は迷わず、すぐに答える。


「当然だ。」


クイナはジッと目を細めてから、私を嘲笑した。


「キミも、中々最低だね。」


そう言った後はふふ、ふふふ。なんて気味悪く笑い出す。

それが酷く不快で。不快で不快でたまらない。


「うるせえんだよ、クソ女。」


私が怒気を孕んだ声でそういうと、クイナは口を開いた。


「そう怒らないでくれよ。ボクら、見た目だけは双子みたいにそっくりじゃないか。」


作られた満面の笑みの中にある八つ当たりの目はきっかりと私を捉えていた。

その”目”を私は知っている。幾度となく行っているクイナの鬱憤はらし。


「…お前、俺のどこに元彼の影を捉えたんだよ。」


私は静かに聞いた。


外の雨はまだ止まない。

私の罪もまだ終わった訳じゃない。

ただ永遠に、続いていく。


ふと窓に、私を待つマールが見えた。

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