1.『君が消えた音』
幼馴染のマールと俺は、とても仲が良かった。
いつだって、何をするにも常に一緒。
仲のいい2人組。
それが俺達だった。
「なあマール。」
「なあに?クロト。」
「俺はお前が好きだよ。」
「ワタシもアンタが好きよ。」
二人ではにかみながら"愛の誓い"を行っては、絵本で、アニメで見るようなお姫様の踊りをしているようにクルクル回る。
小学3年生になってもその行為はいつまでも変わらなく続いた。
そう、少し2人共背が伸びた。
たったそれだけ。
他は変わらない。知識を蓄えた。他は変わらなかった。
マールとの絆は、何一つ変わってない。
小学4年生になっても、5年生になっても、6年生になっても、変わらない。
私とマールは中学生になって、沢山のことを覚えた。
マールはダンスとメイクにハマった。
「ねえ、クロト。口紅を塗らせて?」
薔薇のように真っ赤な口紅を、私の唇に塗って。
その口紅を、マールも使って。
「...嗚呼、幸せだ。」
その瞬間を形容するなら、これに尽きる。
幸福。ただの、幸福感で満たされた。満たされた気になれた。
なのに...中学2年生から、変わってしまった。
ほとんど全てがおかしくなった。
おかしくなったのは、私だったのかもしれない。
「アンタって、努力家よね。ワタシ...そういうかっこいいアンタが大好きよ。」
「お前は天性の才能持ちだよな。俺もそういうかわいいお前が大好きだぜ」
どこか、お互い必死だった。
お互い焦っていたのかもしれない。現実というものが迫りつつある状況に。
中学校という場所での立ち位置や振る舞い方に。
それを愛しているという言葉で覆い隠して、ただ満たされていたかったのかもしれない。
ただずっと、ずっと大好きだと。愛していると言い続けていたから。
隠した本音と、依存と、無垢な気持ちの境目がわからなくなってきて、感情がぐちゃぐちゃに混ざりあったんだ。
いくら理屈らしい言葉を並べても、腑に落ちはしない。
だって私は気づいているから。初めから、私はマールに依存していたことを。
ただ、マールが依存し返したからもっともっとおかしくなったんだ。
「あのね、クロト。」
「どうした?マール。」
「ワタシがアンタに殺してって言ったら...どうする?」
「俺も一緒に死んでやる。」
沢山そんな狂ったやり取りは繰り返された。
あの昔の"愛の誓い"と共に。
「死がふたりを分かつまで。いいえ、死がふたりを分かつことになっても。」
笑顔でそういいながら私の膝の上で寝たマールを忘れることは決してない。
私の、たった一つの宝物。
「なあマール。」
「どうしたの?クロト。」
「俺がお前と肉体関係を持ちたいって言い出したらどうする?」
「もちろんいいわ?でももし本当にしてしまうならクロトの目、頂戴?」
「フッ...なんでだよ。俺の目なんて綺麗でもなんでもないだろ?」
「いいえ?綺麗よ。クロトの目はとっても綺麗。」
「.....ありがとさん。」
順当に、私とマールの中学校生活は終わりを迎えようとしていた。
勉強をして、放課後に誰もいない教室でマールと喋って、帰ったらマールに化粧をしてもらって。
転機は、いつだったか。
卒業式が近かったことだけは覚えている。
だが、ほかの事はほとんど覚えていない。
覚えているのは、マールが私の前から離れていこうとしたこと。
そして、雨が降り止まない日にマールの紅が頭から垂れていたこと。
私の持つ包丁に、マールの紅色がとっても沢山着いていたこと。
「マールのタマシイ、きっと今までの何よりも美味しいだろうな。」
持っていたハートを、握りつぶさないようにして食べたのを覚えている。
口周りまで紅色に染まって、嫌に車の音がうるさかった。
ただ、鉄の味がするソレは。
やっぱりマールで、とても美味しかった。
ぴーぽー、ぴーぽー。
あたしは一体、だれだったのだろうか。
マールがすきだった。
ならあたしはクロトか?
そう、あたしは、クロト。
俺がクロトだから。
マールは俺と共にすごした。
ただ、それだけ。
私は、大丈夫だ。大丈夫、大丈夫。
私のナカで、マールは永遠になったから。
消化されるなんてこと、無い。
それが、大体15年ぐらい前の話。
今の私は正常だ。
正常に、生きている。
なのに雨の日は決まってマールのことを思い出す。
「俺はお前の中でかっこよくあれ続けたか?マール。」
愛しかった者の名前を、その存在を、そこに居た事実を、確かめるように呼んで私は傘をさした。




