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京都・白川町商店街の魔女   作者: 高瀬 八鳳


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21/23

第21話 新しい生活

 生活が変わった。

 新しい職場、新しい環境。

 毎日、覚える事に必死であっという間に過ぎていく。


 最初は、週に一度魔女さんの店にきていたのが、月に一度になり、二ヶ月間が空き、となっていった。


 制服の白ブラウスに黒のパンツ。

 おろしたての黒のローファーはまだ、足になじんではいない。

 研修生と書かれた名札をつけて、売場に立つ。


 正直、広いデパートの従業員通路では何度も迷子になった。


 緊張の連続だが、少しずつ仕事を覚え、お客様と接していくうちに、どんどん楽しくなってきた。


 食器の販売は、私が思っていたより奥深いものだった。 これがほしい、ありがとうございます、だけではない。


 その素材、扱い方、手入れ方法。

 料理と器の合わせ方、季節の演出。

 販売しているブランドの歴史、特徴、こだわりなど。


 ご自宅用なのか、贈り物なのか、どのようなシーンで使用する器をお探しなのか。


 お客様との会話の中からそれらを拾い出し、最善・最適だと考えるものを、場合により提案する。


 勿論、デパートだからそれなりの接客マナー、ホスピタリティが要求される。

 その為の、社内マナー研修にも参加した。


 さらに、デパートとしてのルールや、お会計についての決まりなど、覚える事は山ほどあった。


 最初は何がなんだかで、その場その場に対応するのに必死だった。

 少し慣れてくると、お客様の顔や、周りの状況が見えてきた。

 同じ売場の方だけでなく、周囲の他ブランドの方達とも挨拶を交わすようになった。


 失敗したり、クレームもらって怒られたりもするけれど、波長が合うお客様に出会い、おすすめの食器が売れた時の嬉しさは、予想以上の感動だ。


 はじめて、リピーターさんが来店され、「宮谷さんなら、どれを選びます? この前買ったお皿が、とっても良かったの」と聞かれ、それをご購入いただいた時の喜びは、ずっと心に残っている。


 シフトは早番と遅番にわかれている。

 デパートのオープン前に出勤して準備から担当する早番と、閉店まで勤務してクローズ処理をしてから帰る遅番。


 売場、ブランドによっても、シフトは違うらしい。

 色んな事を、周りの方から教えてもらう。


 家に帰ったら、疲れているので本当にシャワー、ご飯、寝る、の繰り返し。

 休みの日も、ゆっくり寝て勉強しての繰り返しで、なかなか余裕がもてなかった。


 がんばった甲斐があって、私は3ヵ月の研修期間を終了し、試験にパスして、契約社員になった。

 名札から、研修生の文字が消えた。


 と同時に、クリスマス、年末年始へと向け、怒涛の日々に突入した。


 12月のクリスマス商戦を終え、二月ぶりに商店街に来た。

 あちこちに顔を出し、色々と買い物をする。


 商店街を吹き抜ける風は凍えるように冷たい。


 そう言えば、商店街の冬を体験するのは初めてな事に気がついた。

 

 もう、何年もここに通っている気がしていたので、不思議な気分だ。


 自分が販売する側になって、はじめてわかった事があった。


『お店を応援する』って事は、『買物する』という事なのだ。


 買物は、お店を存続させるために、とても大切で必要不可欠。

 私は、修行させてもらっていた時には、わかってなかった。


 師匠は一円も私からとらず、色々とお世話してくれたのに、私はそれに甘えていたのだ。


 恩送りで他の人へあげたらいい、とは言われたものの、心の底にずっと、何かをしなくてはという気持ちはある。


 でもまあ、長期スパンでいいか、とも思っている。


 師匠のお店をのぞく。

 幸いにもお客様はいなくて、師匠は一人だった。

 机の上には、いつものティーカップと本が。この後、すぐ来客者はなさそうだ。

 私はホッとして、軽くノックをしてからドアを開けた。


「こんにちは。お久しぶりです。これ、少しですがお土産です」


 私は商店街で買ったお菓子と、デパートから買ってきた洋菓子を渡す。

 店の中は、そんなに暖かくはなかった。

 椅子に座ると、師匠がぷよぷよの布袋を膝にのせてくれた。充電式の湯たんぽだそうだ。


 温かくて、一気に幸せな気分になった。


「あらためて、久しぶりやね。めっちゃ元気そうやん! ミサキちゃん、自信が顔にあらわれてるで」


「いえ、まだまだですけど、うん。すごく楽しいです。私、今の仕事、好きです。あ、無事、契約社員になれました!」


「おめでとう! よかったなあ。ほんまに充実してるんや。その本気の笑顔見れて、私も嬉しいわ」


 タロットカードで来年の運勢をみてもらう事にした。

 このお店で、初めてお金を支払った。

 未来の位置に、私は星のカードをひいた。


「ええやん、みさきちゃん。来年はますます、飛翔の年になりそうね」


「嬉しい、よかったです。もう少し落ち着いたら、ちょくちょく顔だしますね。師匠のお話もゆっくり聞きたいです」


「ふふっ、そうね。また次に会った時に、色々話しましょか。聞かれた事に、全部答えるわ」


「ありがとうございます。楽しみにしています」


 穏やかな時間だった。

 私も師匠も、お互いにリラックスしているのを感じた。


「今日はありがとうね、ミサキちゃん。ほな、また。どうぞ良いお年を」


「ありがとうございます。あの……翔子さん、も、良いお年を」


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