↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
京都・白川町商店街の魔女   作者: 高瀬 八鳳


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/23

第20話 就職お祝い会

 翌日、面接に受かったことを、さっそく師匠に報告しに行った。

 商店街への道は、溶けそうに暑かった。


 師匠は満面の笑みで喜んでくれた。


「ミサキちゃん、おめでとう! 大冒険のはじまりやね。楽しみやん!」


「はい、とっても嬉しいです! ありがとうございます」


「いつから?」


「来月からシフトに入ります」


「そぉかぁ。ミサキちゃんが、食器売場の販売員さん。うん、ぴったりや思うで」


「苦でないかはわかりませんが、食器は好きなので、楽しみです」


「……よかったなあ、ほんまにおめでとう」


 私と師匠は、しばらく見つめ合った。

 お互いに、なんとも言えない表情をしている。


 今の気持ちは、ひと言では言えない。


 私は、師匠がいつの間にか大好きになっていた。

 師匠もまた、私という弟子を本当に可愛がってくれているんだと感じる。


 来月からいよいよ新しい職場で働き始める。

 今の生活がかわる。

 いろんなものが大きく動き出すのだ。


「ミサキちゃんの就職お祝い会しよか。来週あたりでいつがいい?」


「え、私のお祝いですか? そんな、いいです。まだ就職って言っても、まだバイトですし」


「そんなん関係ない。仕事先がみつかったんやもん。それはお祝いせんとあかんやん? ここで、いろんなお店の美味しいもん買うてきて、みんなに声かけて、ちょっと顔だしてもらお」


 師匠の、あの『めちゃめちゃ良い事言っている顔』を見て、とっても嬉しくなった。


「……ありがとうございます。はい、じゃあ、金曜日あたりどうでしょう?」


 師匠はパソコンの予定表を確認しながら返事をくれた。


「OK、金曜日ね。うん、大丈夫。16:00~19:00くらい開場で、みんなには都合のええ時間にきてもらうよう伝えるわ」


「ありがとうございます。正直、とっても嬉しいし、楽しみです」


「私も。お祝い会、楽しみ」


 仕事が決まって嬉しいけれど、大丈夫かなあ、私やっていける?という不安がない訳じゃない。

 でも、こんなに私のことを応援してくれる人がいると思うと、たいていの事はできそうな気がしてきた。 

 

 師匠から学んだ『冒険にでる勇者』気分でのりきろうと思った。


 金曜日。私のお祝い会の日。

 ラッキーな事に、いつもより少し気温が低く風がある。


 商店街のお店で買った総菜、焼き鳥やお菓子や麩饅頭、コーヒーやサイダーを机に並べる。少しだけ、ビールも置いた。


 店内に入りきらない人用に、店の表に借りた椅子を3脚並べた。

 なつこさんが、鈴林さんと一緒に、まちづくりの事務所から持ってきてくれたのだ。


 入口近くに、蚊取り線香をつけておいておく。


 岩真さん、辻山さん、のんちゃんさん夫妻。理事長さんをはじめ、お惣菜屋さん、ごはん屋さん、もとさかさんも、顔を見せてくれた。


「おめでとうさん、よかったなあ」

「ミサキちゃん、おめでとう! でも寂しくなるわ」

「おめでとう。まあ、でもちょいちょい顔だしてや」


 みなさんから、お祝いの言葉をもらうのが、照れくさい。

 ただ、アルバイトが決まっただけなんだけど。

 みなさんの親切で温かい気持ちに、本当に感謝の気持ちが湧いてくる。


「ありがとうございます。皆さんには本当にお世話になってばかりで。お祝いしてもらえて、とても嬉しいです」


「何にもたいしたことしてへんで。気にせんと、また来たらええで」

「はい、ありがとうございます」


 店内から店外と動きまわりながら、色んな人と話をした。

 ひいるさんファミリーも来てくれた。


「ミサキさん、これ、私がかいたの。プレゼントです」


 ひいるさんの娘さん、サラちゃんが、画用紙にクレヨンで描いた絵をもってきてくれた。


 絵には、私と『魔女さん』と書かれた師匠も並んで立っている。

 2人の記念写真みたいだ。


 カラフルに描かれた私達は、口を大きくあけて笑っていた。


「サラちゃん、ありがとう! 本当に嬉しい! 宝物として家に飾るね」


 サラちゃんは少し照れくさそうに、絵と一緒に最高の笑顔もプレゼントしてくれた。


 みなさんからと、可愛い花束もいただいた。

 嬉しくてありがたくて、涙が少しこぼれた。


 こんな場所があるなんて、知らなかった。

 こんな風に、人とつながれることが、心も体も嬉しくなるって、初めて知った。


 言葉にできないけれど、私はとても大切で、貴重で、幸運な時間をここで過ごしたのだと思った。


 師匠だけでなく、商店街の店主さん、地域の住民の方、この商店街にいる方達との『今、この場所で、この瞬間』というエネルギーが、私達を包んでいる。

 そんな気がした。


「みさきちゃんは、私の弟子として3ヶ月を過ごした。そして、商店街や地元民のみなさんと出会った。もう、元には戻れないわよ。あなたの細胞は変化したんだもの」


「……私、本当に今、この場にいれて嬉しいです。あの日、師匠に声をかけられた時、逃げなくて良かった。お世話になりありがとうございました。これからも、魔女の弟子は継続したいです。そして、師匠や商店街のみなさんに、ちょっとずつ御恩返ししていきたいです」


「フフッ、お気持ちはありがたくいただきます。そやけど、私は恩返しはいらんので、ミサキちゃんは恩送りを心がけて。ポイントは長期スパンで考える。まあ、考え方としては半分はご本人に返して、半分は後輩に渡す。それ位でええと思うで」


「恩送りって何ですか? ご本人に返さないんですか?」


「恩送りは、もらった善意を、他の人にまわす。まあ言うたら、お隣さんからもらったお菓子をお客さんにおすそわけしたり、別の方にもらったお土産をお隣さんにあげたりを、色んな人とあげたりもらったりして、親切を循環させる、みたいな事ちゃうかな」


「親切を循環させる……」


「英語で言うと、pay it forward. また、調べといて。そやし、ミサキちゃんが有難いと思てくれたなら、それをまた、後輩にプレゼントしてあげて。そういう私も、たくさんもろてきた。まだまだ、返しきれてへんよ。一生かけて、返したり、もろたり、あげたり。ミサキちゃんも、その輪に入ったって事」


「師匠も、たくさんもらってきたんですね」


「そう、ほんまに、ぎょうさんもらってきた。生きてる人からも死んでる人からも……」


 そう言って、師匠は懐かしむような表情をして笑った。

 その瞬間、師匠が透き通ったような、不思議な空気の揺らぎを感じた。


「師匠……」


「ん?」


「私も、長期スパンでいくので、長生きしてくださいね」


 私は、師匠の目を見ながら、真剣に言った。


「アハハハハ。わかった、がんばって長生きするわ」


 師匠は大笑いした。


 19:00までの予定だったお祝い会は、何度も追加の買い出しをして、真っ暗になるまで続いた。


 まるで、夏休みの特別なお祭りのような、ずっと心に残る時間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。