第19話 面接
私は、岩真さんに研いでもらったピカピカの包丁の素敵さを知り、生活を彩る器に興味をもった。
というか、思い出した。
私は、食器が好きなんだ、って。
高価ではないけれど、可愛いマグカップやお皿を集めていた。
赤やピンク色の苺や花模様、鮮やかな緑色の茎や蔦、繊細な線や模様。
楕円形のお皿や、大きめのマグカップ、ちょっと気取ったティーカップ。
一人暮らしにしては、数が多すぎる食器たち。
それらを見ながら、私は決心した。
今度の仕事は、事務じゃない。
接客という新しい冒険にチャレンジするのだ。
前職は事務職だったけど、商店街で人と話す楽しさを知った。
私も、対話することで、何か人の役に立つ事がしてみたい。
そして、私はデパートの食器売り場の求人に応募した。
最初の三ヶ月はアルバイト、そこで認められれば、後に契約社員への道があるみたい。
社員じゃなくてバイト、敷居の高そうなデパート、そして経験なしで採用してもらえるのかと不安はあるけれど、久々に、やってみたい!って気持ちになった。
面接は、40代の女性店長さんがして下さった。 濃紺のパンツスーツで、髪は後ろでまとめている。
派手ではないが、かっちりメイクで、商店街にはいないタイプの女性だ。
店長さんは師匠と同年代っぽくみえたので、わりと落ち着いて受け答えができたと思う。
デパート内にある、スタッフ用のカフェは、制服姿のスタッフさんでいっぱいだ。
店長さんは、私の持参した履歴書と職務経歴書を見てから、私に視線を向けた。
「この度は、求人にご応募くださりありがとうございます。宮谷さんは、どうして、この売り場を希望されたのですか?」
「お時間をいただき、ありがとうございます。私の人生は、いつも食器に助けられています。お気に入りの食器で食事をしたり飲んだりすると、とても元気がもらえます。たくさんの方に、その方のお気に入りと出会う橋渡しをすることができる、この販売職にぜひつきたいと考えて応募いたしました」
彼女は、私の顔をまじまじと見た。
「……橋渡し、ですか?」
「はい。マグカップや一枚のお皿は、日常生活の豊かな時間を過ごすサポートをしてくれます。お客様がまだ知らない、素敵な食器の世界の案内役として、お役に立ちたいと思います」
「……あなたの言いまわしは面白いわね。以前は、事務職だったのですね。販売職は、特にデパートでのお仕事は、覚えていただく事もたくさんあります。接客も、様々なお客様がいらっしゃいますが、そのあたりは不安はありませんか?」
「正直に申し上げると、不安がない訳ではありません。ですが、私にとってこのお仕事は、心がワクワクする、とてもやりがいのあるものです。接客は初めてではありますが、人と話す事は好きなので、一生懸命努力してまいります」
私は、今自分のもてる全ての力を出し切るように、熱意をこめて話した。
店長さんはその私の言葉に、にっこりと笑ったように見えた。
面接から数日後、合格の電話をもらった。 私は来月から、アルバイトシフトに入ることが正式に決まった。
良かった。本当に良かった!
節約生活から抜け出せるのも、正直嬉しい。
私は、ひとり部屋でガッツポーズを決め、声に出さずに雄たけびを上げた。
仕事が決まってから、はじめて実家の母に挨拶だけじゃない、内容のあるメッセージをおくった。
いつもは、元気にしてるの、変わりない?というメッセージや電話に、「うん、元気。けっこう忙しい。また連絡する」とだけ返事をしていた。
今回は、実は仕事を辞めていた事、彼とは終わりにした事、新しい仕事をデパートで始める事を、簡単に書いて送った。
疎遠になっていた友達にも連絡をとった。
ちゃんと連絡してなくてごめん、と言って。同じように事情を説明した。
今まで親や友達に、元カレの事や、仕事を辞めた事を話せなかった。
話す気力がなかったのだ。
色々聞かれたり、気を遣われたりするのも嫌だった。
でも、もう大丈夫。
みんなに、正直に伝えた。
正直に話すって、こんなにも楽なんだって思った。
恥ずかしいとか、もう気にするのはやめよう。
あんまり隠さなくってもいいんじゃない?
私は私だし、良く見せる必要も、悪く見せる必要もないんだ。
そんな風に思えた。
心配して電話してきた母には、こう伝えた。
「今は、次の仕事が決まってワクワクしているので、問題ないよ。本当に私は大丈夫だから。また、仕事はじまったら報告するね。ありがとう。お母さんも、体に気をつけて。お父さんたちにもよろしくね」
自分で言うのもなんだけど、私、だいぶ『大人』になったんじゃないかな。
『ほんまに、ミサキちゃん、この3ヶ月で急成長したな。たいしたもんや。自分をもっと褒めたげてええんちゃう?』
脳内魔女さんに褒められた私は、ニヤニヤしながら、ノートを開けた。
途中まで書いたものに、書き加えていく。
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更新版:幸せ&なりたい私
楽しく仕事の出来る私になる
・販売する食器ブランドの知識を覚える
・なんでも聞いたら答えてくれるできる販売員さんを目指す
・先輩達と仲良くする
・契約社員になる
弟子継続
・師匠への恩返しに何をするかを考える
・商店街には、ちょくちょく行く
・商店街を宣伝する手伝いをする
ゆっくり待つけれど
・お互いに信頼できるパートナーをみつける
・ちゃんと話を聞いてくれて、話を聞く相手
・一緒にいると、心がポカポカする人
・いつか二人で商店街を歩く




