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京都・白川町商店街の魔女   作者: 高瀬 八鳳


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17/23

第17話 自分で立つということ

 今日は、修行はお休み。


 そして、一日中、雨予報だ。

 そんなわけで、今日は自分をもてなす日にした。


 商店街で買った厚切りデニッシュパンを軽くトースターで焼く。

 バターがたっぷり入ったそのデニッシュに、さらにバターを贅沢に塗る。


 濃いめのミルクティーと、八百屋さんで買ったトマトときゅうりのサラダ、そして本阪さんの所の新鮮卵で目玉焼きを。京都産ブランドのソースをかける。


 岩真さんに研いでもらった包丁は、切れ味抜群。

 その包丁で切ったトマトときゅうり、いつもより美味しい!気がする。


 デニッシュも、サクサク感とジュワっと濃厚なバターの匂いと甘みが、口の中いっぱいに広がる。


 ああ、もう最高。


 外は強い雨が降っていて、ザザーッという音が続いている。

 太陽は見えず、窓から見える景色も薄暗いし、湿気も多い。


 それでも、ご飯が美味しい。


 もぐもぐと食事を楽しみながら、師匠と会った日からこれまでを、ゆっくりと思い出す。


 あの日、商店街で『魔女いてます』の看板を見つけた。


 予想外の出会い。


 正直、師匠のこと、最初は怪しい人かもって思った。

 金銭授受なし、って言われて安心したけど、それでもまだ怪しさは残ってたよね。


 なんとなく手帳に書き留めていた師匠の名言を眺めてみる。


『あなた、運命を信じる?』

『ミサキちゃん、私の言う事、鵜呑みにせんといてや』

『商店街を神聖視せんといてね。完璧な場所なんて存在しない』

『一国一城の主が集まるから、カオスで面白いんよ』

『本って、魔法の箱よね。ページをめくるだけで、違う世界につながってる』


 本当に、師匠の言葉って、よくわからないものが多い。

 でも、それがなんだか、響く気がする。


 けっこう強引なところもあるし、でもそのお陰で、商店街の人達とも話せるようになった。


 白川清掃に参加し、井戸端会議に加わり、のんちゃんさん夫婦と話をしたり。


 岩真さんみたいな職人さんと話したのは初めてだった。研ぐときはプロって感じなのに、普段はほんわかしていて、みんなにいじられるキャラなのもおもしろい。


 ひいるさんファミリーも、あんな生き方があるって驚きだった。家族で、町家の宿に、日本人も海外からのお客様も受け入れてて。サラちゃんが英語で挨拶しているのもすごいって思う。


 なつこさんと鈴林さん。まちづくりの会社とか、存在を知らなかった。今も、実際にどんな仕事をしているのかイメージできないけど。商店街や地域の事を一生懸命考えているのはわかる。


 辻山さんみたいなおじいさん、いいなあ。最初はちょっと緊張したけど、めっちゃ良い人で、商店街のみんなとも親戚みたいな関係で。ボランティアの大学生とも、楽しそうに話をしてたな。


 のんちゃんさん夫妻は、憧れる。仲良しだし、ちゃんと仕事もして、ボランティアの川掃除にも参加して。ああいう大人になりたいな。


 もとさかさんや、ごはん屋さんに、いつも商店街を歩いているおばさま、おばあ様方。


 この短期間で、たくさんの人と出会って、名前を覚えた。


 そして、師匠の修行。

 アシスタントとしてお客様とのセッションを直接みることもできた。


 まだ、3ヶ月もたたないのに、もう以前の自分が思い出せない気もする。

 ここでの体験は、それくらい、ものすごいインパクトがあるのだ。


 そして、今、これから。

 私はどう生きていくのだろう。


 ちゃんと、自分で考えて行動したい。

 商店街のみんなみたいな、大人になりたい。


 みんな、自立している、でも、まわりとつながっているという感じが、とても素敵だと思う。


 自分で考えて、自分で決めて。

 でも、人の話も聞いて。


 もう少し落ち着いたら、友達とお母さんにも連絡しよう。

 でも、元彼の話と仕事を辞めた事、色々聞かれるとまだしんどいかも。

 もう少しだけ、待っていてほしい。


 そして、師匠のこと、もっと知りたいな。


 京都弁だし、京都出身なのかな。

 結婚、は今はしてなさそうだけど。

 以前はどんな仕事してきたんだろう?

 どうやったら、魔女いてます、って店をする気になったのか気になる。


 友達や家族との連絡は、手紙?

 公衆電話を利用している?

 友達はどんな人なんだろう?

 

 考え出したら、どんどん謎が出てくる。


 『ミサキちゃん、私のことより、こないだのアシスタントの感想まとめるのが先じゃない?』


 うーん、脳内魔女さんに注意を受けてしまった。

 自分で考えてるんだけど、自分じゃないっていうか。


 また、ひとりで笑ってしまう。


 最近、こうやって一人笑いする回数が増えてきた気がする。


 師匠の影響って、なんだかすごい。


 食べ終わったら、感想をまとめてみようかな。

 あのアシスタントは本当に貴重な体験だった。


 人のプライベートな相談事を見るって、なかなか経験できないよね。


 本当に師匠にはお世話になってばかりだ。


 仕事をはじめたら、ちゃんとお礼しないと。師匠の事だから、お金は受け取ってくれなさそうだし、こういう場合、どうするのが正解なのかな?


 いや、普通の正解は当てはまらないかもしれない。

 師匠が喜ぶお礼を考えていこう。


 私、師匠に会えて、幸運だった。


 そう考えると、心がポカポカした。


 雨は一日止まずに降り続けたが、ちっとも憂鬱にならなかった。

 充実した休日は、静かな幸福感で私を満たしてくれた。


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