第12話 魔法の箱と読書感想
ごはん屋さんからお店に戻って、師匠から本を渡された。
「この本、めっちゃおすすめなのよ。1週間で読んで、読書感想文を書いてきて。A4で3枚分くらい」
「3枚って、まあまあな分量じゃないですか? 正直、気が重いです。私、読書感想文は苦手で……これは苦な事、です」
「いけるいける、問題ない。今のミサキちゃんが、この本を読んで心がどう動かされたか、正直に書いてくれたらいいから」
「心がどう動かされたか? ……わかりました。やってみます」
「学校の課題やないし、きれいに体裁整える必要ないしね。ほんまに、ただ読んで感じた事のみ書いてね」
その本は、少し古びた本だった。
茶色に変色している部分もある。
何度も読み返された跡を感じる。
師匠が買った本なのか、もしかして師匠も誰かからもらったものなのか。
大事にしている本を貸してもらえるのは、信用されているようで嬉しい。
感想文は面倒だけど。
「本って、魔法の箱よね」
「え、っと?」
「この小さい箱に、情報が詰まってるやん。そして、時間や場所や立場や国を越えて、あちこち行き来できる、すごい仕掛けよ。ページをめくるだけで、違う世界につながってる」
「違う世界……」
「そやし、ちょっと異世界探索に行こか、みたいな気持ちで楽しんで」
「異世界探索……。そんな風に考えた事なかったです」
「フフッ。そう考えると、この世のなかは不思議が溢れてると思わへん? 何事も、見方、受取り方、切り取り方で、いくらでも変わる」
「……確かに、そうかもしれません」
師匠は頷く私を嬉しそうに見てから、また少し悪そうな笑顔になった。
「とは言うものの、ミサキちゃん。私の言う事、鵜呑みにせんといてや」
「はい、いったん受け取ってから、咀嚼して、必要なものだけ中に入れるようにします」
「ちょっと! 咀嚼なんて言葉、どこで覚えたん?」
「魔女さ、いえ、師匠に言われて、色んな角度から情報を得るよう調べてたら、なんか出てきたワードです」
「素晴らしいわ、ミサキちゃん。 おおきに! まさに、あなたは魔女の弟子に相応しい。あなたに出会えて良かったわ」
「あ、ありがとうございます。こちらこそ、いつもありがとうございます」
あんまりにも師匠が嬉しそうに褒めてくるので、気恥ずかしい。それと同時に、なぜかわからないけれど、胸にモヤッした不安を感じた。
師匠が、一瞬、透けて見えたような……。
急にいなくなってしまう気がして、そんな訳ないと思いながらも、戸惑いの感覚はしばらく消えなかった。
部屋に帰って、本を机の上に置く。
シャワーを浴びて、お湯を沸かし、濃いめのミルクティーをつくる。ミルクをたっぷりめに入れるので、ぬるくなるのでちょうどいい温度になる。
お気に入りの、いちご模様のマグカップに、砂糖ではなく蜂蜜をいれる。それだけで、豪華で、特別な飲み物になる気がする。
めちゃめちゃ、美味しい。
扇風機の風を浴びながら、本を開いた。
魔法の箱。
確かに、こんな小さいものに、色んな情報がつまっている。大昔の、文字を知らない人が見たら、本当に魔法にみえるかも。
今のスマホだって、100年前の人からしたら、きっと魔法そのものだ。
不思議だ。師匠の話を聞いていたら、世界の見え方が変わってきた。それこそ、本当に師匠は魔女なのかも、って思う時はある。
でも、そんな事言ったら、またこんな風に返されるかも。
『あんな、ミサキちゃん。そういう手口の詐欺とかもぎょうさんあるねん。簡単に言葉を信じたらあかん。その人は信じられても、その人の言葉の内容はまた別もんや。必ず、自分の目で見て、精査してから、受けとめてや』
「うわ、すごい。ほんまに言いそうなセリフを想像できちゃった! 私も魔女レベルが上がってきたのかも」
驚きのあまり、つい声に出してしまった。
私のなかに、脳内魔女さんがいる。
そう思うと、すっごく面白くなって、また声を出して笑ってしまった。
「あははは……脳内魔女さんって、何なん? おかしい……」
心が、ふわふわポカポカとあたたかくなる。
ああ、私、本当に師匠と出会えて良かったと思う。
気は進まないけど、感想文を書こう。
正直に、感じた事を書こう。
異世界を探索して、楽しもう。
そう思いながら、ゆっくりとページをめくった。
-----------------
感想文
『魔女に憧れた少女』
本当にタイム・マシンで、中世の時代に連れていってもらったような気分になりました。
一番感じたのは、悲しみ。少女の気持ちが痛いように伝わってきました。
でも、その次には、大きなあたたかさ。少女を包み、守っている、おばあさんの愛情が、とても印象深いです。
今と全然違う社会のなかで、辛い生活をしてきて、それでも笑顔で他人に優しいおばあさん。その豊富な知識を、魔法だと勘違いして自分も魔女になりたいと願う少女の純粋さ。
何気ないやりとりが、少女を元気づけ、前向きにしていく様子が、読んでいて私も嬉しくなりました。
運命、巡り合わせ。正直、途中から読むのがしんどくなりました。
人間の恐ろしさ、愚かさ、醜さが描かれていました。
おばあさんと少女は、二人とも何も悪くないのに。なぜ、こんな目にあわないといけないの?と何度も思いました。
とても、感情を揺さぶられます。
大人になった少女がおばあさんを思い出しながら歌う場面で、泣いてしまいました。
少女も、泣きながら歌います。
おばあさんに感謝しながら、あの出来事を悲しみながら、後悔しながら。
それでも、運命に感謝していると告げる彼女の強さに、おばあさんがちゃんと彼女のなかにいるんだと感じました。
私は、この本を、読むことができてありがたいと思います。
読む機会をもらえて、私にとっても、運命的なことです。
まだ理解できていない部分もあるので、自分で書いたこの感想文を今後も読み返していきます。
もしかしたら、未来の私は、今はわからない事に気づくかもしれません。
魔法の箱として読んだ、初めての本です。
何か知らないうちに、魔法にかけられたような、少し賢くなったような、不思議な感覚を感じます。




