【第二十五話】冒険者チーム「ラビリンス」
【人間界:ルド村】
次の朝、ルド村の冒険者組合場にたくさんの人が集まっていた。集まっている人のほとんどが駆け出し冒険者だった。ルド村周辺に出るモンスターのレベルはとても低く、単体で出くわすことの方が多いため、初心者の冒険者向けの村だ。しかし、集まっている先には組合長と、初心者とは言えない冒険者チームが立っていた。そのチームのレベルは平均で30を超えており、中級クラスと言える。彼らが装備している武器・防具は駆け出し冒険者とくらべものにならない品ばかりだった。このチームは5人編成で、剣士の2次職であるナイトが1人、魔法使いの2次職ウィザード1人、格闘家の2次職モンク1人、シーフの2次職アサシン1人、僧侶の2次職ビショップが1人だ。そんなチームがこの村にやってきた理由を、組合長が話し出す。
組合長
「皆の者、今日はとあるダンジョンの調査を行う。噂を聞いた者もいると思うが最後まで聞いてほしい。これから話すことは全て事実だ。昨日、1つの冒険者チームがダンジョンの攻略へ向かった。しかし、そのチームは未だ戻ってきていない。おそらく全滅しただろう。」
集まった冒険者達がざわつく。
組合長
「全滅したチームはここに集まっている冒険者達より経験が多く、レベルも高かった。次の村へ移動しても良い実力があった。にも拘わらず誰一人として戻っ来ていないのだ。これは緊急事態だ。この村ではダンジョンから誰一人戻ってこなかったと言う事例は過去一度もない。この問題は非常に深刻だ。私は、早急に組合本部へこの事実を報告した。直ぐに本部からの返事があり、直ちに調査・攻略すべきと判断された。その為一番近くにいたこの中級冒険者チーム「ラビリンス」に依頼を出し、今ここに集まって頂いている。これからそのダンジョンへの調査、攻略へ行ってもらう。ここで皆に聞きたい。どんな些細な情報でも噂話程度でも構わん。何か情報を持っている者はいるか!?」
集まった冒険者達は隣にいる者と顔を見合わせた。しかし、チームが全滅した事以外の情報は持っていなかった。そんな中、一人の冒険者が手を挙げた。
組合長
「よし、そこの冒険者、情報を教えてくれ。」
冒険者A
「はい、情報というより思ったことです。このダンジョンの情報を提供した者が怪しいと思います。」
組合長
「うむ、それは調査した。どうやら初めは風の噂だったようだが、それを真に受けた組合員が、このダンジョンの掲示を行ったようだ。本来であれば事実確認をしたうえで掲示を行うものだ。その組合員は職務怠慢ということで首にした。他に何か気付いた事はあるか。」
冒険者達は沈黙で答える。
組合長
「そうか、詳細はないか。よし、これよりダンジョンの調査及び攻略を行う! お前たちでは足手纏いになるから近づかないようにしろ!」
ラビリンスのナイト、ルイスが組合長に話をかける。
ルイス
「これは魔物達の策でしょう。自ら情報を流し、ダンジョンに来た初心者の冒険者を狩る。若い芽を摘む作戦でしょう。ならそれほど強い魔物ではないでしょうな。」
組合長
「なぜそう言い切れる?」
ルイス
「考えてみてください。雑魚の魔物を狩るのに勇者クラスの人材を派遣しますか? 狩るのに問題ない程度の人材を送り込むでしょう。もし返り討ちにあってもさほど痛手はないですから。」
組合長
「うむ、そうであればよいがな。」
ルイス
「ではこれ以上の情報収集は無駄ということですね。我々はすぐ出発します。」
組合長
「そうか、よろしく頼むぞ。」
こうしてチーム「ラビリンス」はダンジョンを攻略すべく、村を後にした。
【人間界:レンタルダンジョン】
俺は今忙しい。そう、すごく忙しい。昨日アイシンからの提案があり、それに伴うトラップの変更だ。本来これは改修作業なので冒険者の来ない日で行うものだが、それはダンジョンを閉める必要があるからだ。
改修作業が間に合えばダンジョンを閉める必要がなくなるので問題ないと、勝手に判断したのだ。
何か問題が発生したらアイシンが、パパにお願いしてもみ消すと言っていた。権力って恐ろしい。
アイシン
「タルトー? 作業は終わったー?」
タルト
「だああ! まだ終わらんよ! 話かけないで!」
アイシン
「つまんなーい。」
そもそも今日冒険者が何時に来るかわからないし、そもそも今日来るの?って話だ。
しかし準備や用意はしておいて損はない。今ある仕事をきっちりやる。今日来なかったらダンジョンの儲けは無いが、それ以外の問題はないからね。
アイシン
「そういえば、下僕ちゃんから何も情報が届いてないよね。どうしちゃったんだろう。」
タルト
「あいつらサボってるな! この作業が終わったら怒鳴りこんでやる!」
アイシン
「はは、それ楽しそう!」
そんな話をしながら作業を進めて1時間、ようやくトラップの変更が完了した。我ながら天晴だ。
この素晴らしい仕事っぷりは誰かに褒めてもらいたいくらいだ。
タルト
「準備完了したぞ。俺は一度下僕達に会いに行くから、アイシンはお留守番よろしく。」
アイシン
「えー、私も行きたいよー!」
タルト
「誰が来るかわからないから見張っててくれ。冒険者じゃなくても魔族が来て、ダンジョン内の宝を持っていかれても困るしね。」
アイシン
「むー! それも困るわね。じゃあ今度下僕達をいじめる時は、私がやるからね!」
別にいじめに行くわけじゃないんだが。
タルト
「はいはい、その時はよろしく頼みますね。」
ほっぺを膨らましているアイシンをダンジョンに残して俺は下僕に会いに村へ向かった。
村に着いた俺は早速村内の下僕達を探す。外には出歩いていないようだ。次に下僕達の家に向かった。
下僕の家に到着したので扉をノックする。家の奥から声が聞こえた。どうやら下僕達は家にいる様だ。俺は扉を強く何回も叩いた。
下僕A
「はいはい、今でますよ。ドンドンうるさ・・・・・・ハヒッ!タッ、タルト様!」
下僕Aは驚いた勢いで扉を閉めた。俺は少しイラッとしたので扉を蹴り壊した。
下僕A
「ひぃ! きょ、今日はどうしたんですか!?」
タルト
「冒険者の情報が届いてないのだが、今日はダンジョンへ向かうパーティーはいないってことかな?」
下僕A
「い、いえ。今日もダンジョンへ向かうパーティーはいます。」
タルト
「ん? いるなら連絡しなさい。そのパーティーについて情報はないのか?」
下僕A
「情報はありますが、おそらく今回でそのダンジョンは攻略されると思います。なのでタルト様には攻略されて、ダンジョンの宝が何かわかってからでも良いかなと思いまして。」
攻略される? 今回のチームは強者なのか?
タルト
「俺は冒険者の情報も送れと言ったはずだ。勝手な判断は困る。なぜダンジョンを攻略されると言い切れるんだ?」
下僕A
「前回のパーティーはダンジョンで全滅したようです。冒険者組合は事態を重く見て、早急な攻略を行うことを決めました。今回のパーティーは「ラビリンス」という中級クラスの冒険者チームです。ラビリンスは中級の中でも上位に入る程の実力があります。そのチームがこのダンジョンの攻略に向かいました。」
これはアイシンが危ないんじゃないか。アイシンは強いが、本気がどれくらいの実力か不明だ。中級クラスの冒険者相手に1人での戦闘は不味いんじゃないか。しかも今日の罠は設置場所を変更しており、アイシンとの遭遇前で冒険者を屠る事はない。
タルト
「なぜすぐ早く知らせなかった? 得た情報は全て流すように言っただろう。」
下僕A
「な、なぜ少し怒っているのですか!? これは今日の朝わかった事です。すぐには無理ですよ。それにタルト様は宝の中身が知りたいはずでしょ!? 冒険者の情報がそれほど重要ですか?」
タルト
「もういい! 急用ができた! また後で来る!」
そういって下僕Aを思いっきり投げ飛ばし、ダンジョンに向かってダッシュした。自分でも信じられないくらいの速さで走り抜けて行く。しかしダンジョンまでは距離があり、到着するまで時間がかかる。
俺は走りながらアイシンに連絡を取ろうとしたが繋がらなかった。
タルト
「あいつ何やってんだ!? 何故連絡が取れない?」
俺はぶつぶつ言いながら何度も連絡するがアイシンとは繋がらなかった。
【人間界:レンタルダンジョン】
アイシン
「あーあ、留守番つまんないなぁ。今日は平和ね。冒険者は来ないのかな。」
留守番のアイシンはやる事がなく暇だったので、ダンジョンの入り口近くの岩に座り、歌を唄い始めた。
♪あーるーはれたーひーるーさがりーいちばーへつづーくみちー♪
暇つぶしに唄っていると、ダンジョンに近づいてくる人間に気付いた。それも1人ではなく5人だった。アイシンはすぐに唄うのを止め、ダンジョンの岩陰に隠れて様子を見る。
アイシン
「あれ? 誰かな? 5人ともしっかり装備しているわね。たぶん冒険者ね! 下僕ちゃんから連絡ないから今日は来ないのかと思ってたわ。あ、そうだ! このまま昨日の事をやってみましょう。早くダンジョンの中に隠れなきゃね♪」
アイシンはルンルン気分でダンジョン内へ入っていった。
そしてチーム「ラビリンス」はダンジョン前に到着した。
ナイトのルイスはLV31、装備は兜からブーツまで鋼で出来ており、防御力が非常に高い。そして装備している盾は120センチと大きく、何より鋼ではなくミスリルで出来ている。鋼より防御力は高く、鋼より軽量だ。なので敵の素早い攻撃にも難なく対応ができる。
ウィザードのアベルはLV30、特に風の魔法に特化しており破壊力重視の魔法使いだ。装備している杖には大きめの魔法石が埋め込まれており、魔法の威力を増加させてくれる効果を持つ。
モンクのガーラはLV33で体力と攻撃力が高い。その高い体力と攻撃力で、ナイトの代役も務められる。
アサシンのシュウはLV32で敵の急所を狙う。クリティカルヒットした相手はほとんど一撃だ。
ビショップのアリアはLV29と低いが、ビショップならではの回復力が高く、体力の高いガーラもすぐに回復できる。
ルイス
「ここがあのダンジョンの様だ。道中に危険な罠とかなかった。やはりこのダンジョン内で全滅したと考えられるな。」
アリア
「ダンジョン内も特に怪しい雰囲気を感じられないわ。弱体化の魔法とかもなさそうよ。」
ガーラ
「ふむ、このダンジョンに出入りした魔物の痕跡は2匹だな。しかし、人間の足跡にとても似てるぞ。大きさも同じくらいだ。」
シュウ
「犯人は魔物じゃなくて人間?」
アベル
「そんな事はないでしょう。チームを全滅させるほどの実力者なら、ここにいるより別の村へ行って活躍した方が良い暮らしができるでしょう。」
ガーラ
「犯罪者がここを寝床に隠れているのかもな。」
アリア
「それもあり得ないわ。強者が犯罪者になった場合はすぐに連絡がくるはずよ。」
ルイス
「とにかく情報が少ない。敵を勝手に想定して判断するなよ。もしかしたら何かの策の可能性もある。油断せずに中に入るぞ。」
ルイス達はダンジョンの中へ入っていく。先頭はナイトのルイスで続いてシュウ、アベル、アリア、ガーラの順番だ。ルイスはダンジョン内に罠がないか慎重に確認しながら進んでいく。一つの道を進んだ後、大きな部屋に出た。ルイス達はすぐに陣形を組み、どこから敵が来ても対応できるようにした。
ルイスは部屋の奥を見ると、中央に宝箱が置いてあるのに気付いた。
ルイス
「皆、宝箱が中央に置いてある。すごい不自然だ。これは罠だな。」
アリア
「そうね、罠ね。」
ガーラ
「あぁ、罠に違いない。」
シュウ
「まて、何か気配を感じる。」
シュウの一言で全員に緊張が走る。進む足を止め、辺りを警戒した。すると宝箱の近くに1人いることに気が付いた。チーム全員がそこにいる人間を見る。
ルイス
「こんなところに少女1人・・・だと?」
ガーラ
「何だ? 魔物に拉致された人間か? なら助けたほうがよさそうだな。」
アベル
「まて、あの少女、拘束されている様子がない。これも罠の可能性があるぞ。」
ルイス
「皆迂闊に動くなよ。そのまま戦闘態勢を維持。何かあってもすぐに行動できるようにしておくんだ。」
パーティーの全滅があったこのダンジョンで少女が1人、明らかに不自然だ。ラビリンスのメンバー全員が警戒を怠らない。そんな緊張感の中、少女が笑顔で冒険者達に話しかけた。
アイシン
「初めまして冒険者の皆様。今日はよろしくお願いします。」
アイシンは冒険者達にカーテシーで挨拶をした。それに対してルイスは剣を抜き、アイシンに剣先を向ける。
ルイス
「君みたいな可愛い少女が何故ここにいるんだ? ここのダンジョンで冒険者達が全滅したことは知っているかい? 君は何故そこに立っている? 誰かの指示かい?」
ルイスは優しい口調でアイシンに問いかけた。優しい口調だが、剣先には殺意が込められており、いつでもアイシンを切り殺す覚悟を持っていた。
アイシン
「んー、特に指示とかは受けてないよ。やりたいことがあってここにいるの。冒険者が全滅した事? うん知ってるよ。だって、1人は私がやったもの。あまり覚えてないけどね。」
さらっと言い切るアイシンに恐怖を覚えたルイス。その恐怖を吹き飛ばすかのようにメンバーへ叫ぶ。
ルイス
「抜刀おおおおおおおおお!」
ルイスの指示で冒険者達が一斉に抜刀する。すぐにアリアはメンバー全員に強化魔法をかけていく。
続けてアベルは攻撃魔法の詠唱を始めた。シュウはアイシンの背後へ回る。
ルイス
「こいつは人間じゃない! たぶん魔物だ! 最初から全力で叩くぞ!」
アイシン
「あ、まだ答えてない質問があったよね。何故ここにいるか、うーんと、私の腕試しかな。」
アイシンは舌を出してテヘと笑顔で答える。
・・・・・・昨日の夜・・・・・・
アイシン
「ねぇタルト?」
タルト
「何?」
アイシン
「次冒険者が来たら、ダンジョンでやってみたいことがあるの。いいかな?」
え? 何ですか? 何か怖い。
アイシン
「私、一度冒険者と戦ってみたいの。だから次来る冒険者とダンジョンで戦わせてほしいの。」
タルト
「え、ちょっとまって。本気で言ってる?」
アイシン
「うん、本気だよ。ねぇタルト、お願い!」
タルト
「それは危険な気がするよ。どんな冒険者が来るかもわからないのに。もう少し様子みてからでも遅くないんじゃない?」
冒険者と戦わせて、アイシンが傷ついてしまいましたとパパに報告したら、殺されるかもしれない。
アイシン
「大丈夫、危ないと思ったら全力で逃げるから! 約束するからお願い!」
タルト
「今日の冒険者程度なら問題ないと思うけど、予期せぬ出来事もあると思うし。やっぱりしっかり調査してからの方がいいと思う。だからそれは後日にしないか?」
アイシン
「タルトお願い! お願いします!」
う、頭を下げてお願いとは余程だな。ここまでされると断り切れない。
タルト
「わかった。戦ってよし。その代わり、トラップはしっかり設置するからね。でもそれはアイシンの逃げる時間を稼ぐ為だから期待はしないでね。」
アイシン
「やったー! タルトありがとー!」
タルト
「もし逃げることがあったら、俺の指示通りに逃げてくれ。そうすれば安全にダンジョンの外まで行けると思うから。」
アイシン
「はぁーい、守りまーす。」
タルト
「じゃあ、ダンジョンに戻ったら一回罠を設置場所を考えなおさないといけないな。となると、一度ダンジョンを閉めないとダメだな。」
アイシン
「なんで? 別に閉めなくてもいいなじゃない?」
タルト
「改修には一度ダンジョンを閉める必要があるだろ?」
アイシン
「それは時間がかかるからでしょ。タルトなら明日の朝までには完成できるよね!? そしたら問題ないじゃない!」
マジですか・・・・・・徹夜確定ですか。
アイシン
「タルトならできるよ! 私、信じてるから! 何かあったらパパに言ってもみ消してもらうから!」
うん、パパはやめて。関わりたくない。問題が発生しないように全力で取り掛るしかないか。
こうしてタルトは夜通し罠の再設置を行っていたのだ。




