【第二十六話】冒険者チーム「ラビリンス」の奮闘
【人間界:レンタルダンジョン】
パーティー全員の強化魔法が終わったアリアは、足止めの魔法「ホールド」をアイシンに放つ。
アイシンの足元の床に1メートル程の魔法陣が出現し、そこから鎖がいくつも召還され足に絡みついた。
アイシン
「え!? なになに!? なにこれ!?」
鎖が絡みついた足をキョロキョロと見ているアイシンの懐へ瞬時に入り込んだガーラは、最速で放てる技の中でもっとも威力の高い正拳突きを腹部に放つ。
アイシン
「え!? やだっ! 殴るの!?」
アイシンはガーラの攻撃を回避しようとするが、ホールドで動けなかった。
正拳突きが見事に命中する。磨き上げられた正拳突きの威力はまるで大砲と遜色ないレベルた。
アイシン
「っ!」
アイシンは若干顔を歪めた。
想像を超える正拳突きの衝撃でアイシンは後方に3メートルノックバックした。
そこに詠唱が終わったアベルの魔法「エッジウィンドウ」が追撃する。
アイシンは咄嗟に両腕でガードする。カッターのような小さい無数の風がアイシンを切り刻む。
アイシン
「んもうっ! 痛いじゃないっ!!」
アイシンは気合で魔法を打ち消した。
背後から殺気を感じたアイシンはすぐに目をやる。
するとシュウがアイシンの背中に襲い掛かろうとしていた。
シュウ
「気付いた!? だが遅い!」
シュウはスキル「ウィークネススタブ」を放つ。
この技が完璧にヒットすれば自分より高レベルの魔物も一撃で始末できる。正しく一撃必殺だ。
仮に倒せなくてもクリティカルが発生し、大ダメージを負わす事が可能だ。
ガキィイイイン
激しくぶつかり合う金属音がダンジョン内に響き渡る。
アイシンは体の向きを変えずに右手の爪で短剣を防いだ。
シュウ
「ば、馬鹿な!?」
シュウはすぐに後ろへ下がり、間合いをとる。
アイシン
「今のはあぶなかった~。もう! 当たったらケガするじゃない!」
冒険者達の連携攻撃を全て受けきったアイシンを見て、信じられないという顔をしていた。
ガーラ
「ま、まじかよ。俺の正拳突きをまともに食らってピンピンしてやがる。なあ、何か防御系の魔法かスキルを発動したのか?」
ルイス
「いや、そういった挙動はなかった。はずだ。」
アベル
「魔法を気合で消すか普通・・・・・・。そんなの聞いたことないぞ。」
アリア
「シュウの背後からの一撃を防いだわ。そんなのあり得ない!」
ルイス
「落ち着くんだ! こいつの危険度を最大に引き上げる。」
ガーラ
「おい、マジかよ。ドラゴンや巨人相手と同じレベルかよこいつは。どう見ても小娘にしか見えないぞ。」
ルイス
「お前も見ただろ。あいつの先ほどの戦闘能力を。はっきり言ってずば抜けてる。しかし油断せずに戦えば必ず勝てるはずだ。各自アイテムの準備をしろ。惜しみなく使用するんだ。」
アベル
「やる気かよ。逃げたほうがいいんじゃないか?」
アリア
「私も逃げたほうがいいと思うわ。あの魔物、おそらくまだ本気を出していないと思うわ。」
ルイス
「退却は許さない。我々の任務を忘れたか? 調査及び、攻略だ!」
ルイスはスキル「挑発」を発動させた。
ルイス
「貴様の相手は俺だああああっ!!」
アイシンは叫んだルイスに怒りを感じた。
アイシン
「むっ! なんかあの人ムカつくわねっ!」
アイシンはルイスに攻撃を仕掛けようとしたが、魔法「ホールド」の効果はまだ切れていなかった。
アイシン
「もう! これ邪魔!!」
アイシンは右足で地面を思いっきり踏みつける。
アイシンの足元で大きな爆発が起きた様な音と衝撃が発生し、床はバキバキと隅々まで亀裂が走り、足元の地面は粉々になっていた。発動していた魔法陣も地面同様粉々になり、消えていった。
ルイス
「・・・・・・え?」
アリア
「・・・・・・え?」
アリアは目の前の出来事、力だけで魔法を解除された事に唖然とする。
ルイスはこの後、我が身に襲いかかるであろう攻撃を見て驚愕する。
ガーラ
「来るぞ!」
ルイスとアリアはガーラの一言で我に返った。ルイスはすぐにスキル「鉄壁」を発動した。
攻撃力と回避力が大きく下がるが、一時的に防御力を大幅に増加させるスキルだ。
続けてアリアはルイスに魔法「プロテクトボディ」を唱えた。これは最初の一撃だけダメージを無効にする魔法だ。しかしこの魔法は連発できない。普段は敵の必殺技に合わせて使用する魔法だが、相手の攻撃力が未知数だったため最初に使用した。
アイシン
「見ているだけでムカムカするわ! 殴り飛ばさないと気が済まない!」
アイシンは一瞬でルイスとの間合いを詰める。そのスピードに冒険者全員が反応しきれていなかった。
ルイス
「え? 早っ!」
アイシンはガーラと同じように、ルイスの腹部に正拳突きを打ち込んだ。
先程のガーラとはレベルが違う。信じられない程の衝撃がルイスの全身を襲う。
ルイス
「ぐっおおっ!」
あまりの衝撃にルイスは言葉にならない声を上げる。
アリアの魔法「プロテクトボディ」とスキル「鉄壁」のおかげでアイシンの攻撃で吹き飛ばされずに済んだのだ。
アイシン
「あれ? あなたもしかして強い?」
アイシンは一度ルイスと距離を取る。
アイシンは自分の攻撃を正面から受けきったルイスを強者だと勘違いする。
ルイス
(ちょっ、ちょっと待て! あり得ないだろこの攻撃力!! こんなの無理だって、無理無理無理! こんな衝撃今まで受けたことないって! これ、スキル無しなら防御しても死ぬんじゃね? え? 防御しても死ぬ? は? こいつやばいって! 絶対無理だって! 死ぬ死ぬ死ぬ!)
ルイスは顔から大量の汗を流しながら何かぶつぶつ言っている。
アイシン
「ちょっと手加減しすぎたのかな? これはどうかな?」
アイシンは次の攻撃に移る。その動作は早すぎて消えたように見えた。
だが、正面に向かってきたアイシンをルイスだけは見えていた。
ルイス
(え? なんで背中向けてこっちに飛んで来てるの? ん? 足がこっちに? げげっ!! ローリングソバットじゃねこれ!? やばっ!! これ死ねる!! き、切り札使うか!? 鉄壁だけで耐えれるか!? 無理だろこんなの! 使うしかない!)
ルイスは切り札のスキル「アルティメットディフェンス」を使用した。
数秒間だけだが、防御力を極限まで引き上げる事が出来る。しかし1日1回が限度だ。
ルイス
「ぐああああぁっ!」
ルイスはアイシンのローリングソバットも防ぐ。その衝撃は先ほどの正拳突きの比ではない。鉄壁とアルティメットディフェンスの2重防御でも相当なダメージを負った。
アイシン
「これも防ぐの? ならっ!」
アイシンは回転する体の勢いを利用してそのまま回し蹴りを放つ。
ルイス
「ちょっおま、無理っ!?」
回し蹴りを食らったルイスは吹っ飛ばされ、壁にめり込んだ。
ルイス
(は、反則だ・・・ろ・・・・・・。)
ルイスは壁に埋もれたまま、ピクリとも動かなかった。
ガーラ
「ば、ばか!? 鉄壁を使って防御しろ!! こいつは只者じゃない!」
ルイス
(あ、あの、鉄壁どころか、アルティメットディフェンスも使用してましたが・・・・・・)
ガーラ
「アリア! 早くルイスを回復させろ! その間俺とシュウで時間を稼ぐ!」
アリアは急いでルイスの近くまで駈け寄り、回復魔法を唱える。
アリア
「ルイス大丈夫!? 今助けるわ!」
ルイス
(このまま寝かせてくれた方が助かりますアリアさん・・・・・・)
ガーラ
「アベル、一番威力の高い魔法を放て! 俺とシュウでこいつに攻撃し続ける!」
アベルは急いで詠唱を始める。それに続いてガーラとシュウの2人掛かりでアイシンに攻撃を仕掛ける。
アイシンはゆっくり一歩一歩下がりながら2人の攻撃を難なく回避する。
アベル
「準備OKだ2人とも! 離れろ! ヒートハリケーン!」
透かさず2人はアイシンから離れる。それと同時にアベルから放たれたヒートハリケーンがアイシンに直撃する。凄まじい熱風がアイシンを中心に竜巻を起こす。竜巻が発生している間持続的に大きなダメージを与え続け、熱によるダメージも追加で与える。アベルが使用できる最高の魔法だった。
ガーラ
「よっしゃあ! ヒットしたぜ! ざまあみろ!」
アベル
「流石にこれを気合で消し飛ばすのは無理でしょう。」
シュウ
「今のうちに態勢を整えよう。これでやつを倒せるとは思えない。」
冒険者達は一度態勢を整える為、アイテムを使用してMPを完全回復させる。
回復し終わったルイスも壁から出て来て合流する。魔法で回復したとはいえルイスは少しふらついている状態だった。そんなルイスは今まで見たことがないような険しい表情をしている。
ルイス
「皆、今のうちに逃げるぞ。」
ガーラ
「ん? ルイス、今なんて言ったんだ?」
ルイス
「今のうちに逃げるんだ! 急げ!」
シュウ
「ルイス、どういう事だ? わかりやすく説明してくれ。」
ルイス
「説明する暇はない! 皆即時撤退だ!」
アイシン
「何この魔法! もう最低っ!!」
凄まじい高熱を発する竜巻の中、ゆっくりと歩いて来る影が見えた。
アベル
「何!!」
出てきたアイシンは裸になっていた。この魔法で服は焼かれて灰になり、体に付着した灰は竜巻によって全て飛ばされていた。
アイシン
「あぁ! 私の服が台無しじゃない! どうしてくれるのよ!」
裸になったもアイシンは羞恥心の欠片もなく、隠そうともせず堂々としている。
ルイスは食い入るようにアイシンを見て、若干鼓動が早くなる。
ガーラ
「ルイス、お、お前まさか・・・・・・?」
ルイスの変化にいち早く気付いたガーラから軽蔑の眼差しを受ける。
ルイス
「ば、馬鹿野郎! お、俺はバリバリだ!!」
よくわからない反論にガーラは無視する。他の冒険者達もルイスの発言を無視する。
ルイス
「いいか、あいつは無理だ、我々では絶対倒せない。」
ガーラ
「どうしたルイス、頭を打っておかしくなったのか。しっかり防御スキルを使用していれば問題ないだろう。」
ルイス
「そうか、何も見てないのか。ガーラ、スキルは・・・・・・使用していた。」
ガーラ
「何だと!? あれでスキルを使ってたのかよ!? ぶっ飛ばされてたじゃないか!」
ルイス
「すまんが事実だ、アルティメットディフェンスまで使用したが見ての通り、瀕死状態だ。」
冒険者達が撤退の話を進めている中、アイシンはアリアに指をさしながら話した。
アイシン
「この冒険者の中で一番面倒なのはあなたね! 足止めと回復役のあなたから片付けるわ!」
アイシンに差されたアリアは恐怖を感じ、後ずさりする。
ガーラ
「ルイス! あいつはアリアを狙っているぞ! 早く挑発を使え!!」
ルイス
(バカか! 自殺行為だぞ! 挑発したら確実に俺が死ぬぞ! くそっ! 俺に死ねって言ってるのか!? どうしたらいい!? またホールドで足止めしてその隙に逃げれるか? 無理だ。すぐに解除される。そのままアリアを囮にして逃げるか!? バカか! そんなことできるか!? あぁ畜生! どうすれば・・・・・・。)
アイシンはゆっくりと歩いてアリアとの間合いを詰める。
ガーラ
「ルイス!! 何やってる!? くそがっ! シュウ!! アリアを守れ!!」
死に物狂いでガーラとシュウがアイシンに襲い掛かる。しかしアイシンは簡単に回避し、飛んできた蝿を手で払うかの様に軽く腹部にパンチを放つ。ガーラとシュウは吐血しながらゆっくりと崩れ落ち、その場で蹲る。
ガーラ
「ぐぅっ、ば、化け物め!」
ルイス
(くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!くそっ!
逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げたい!逃げたい!)
アイシン
「あれ? 戦わないの? 死んじゃうよ?」
アリアの目の前まで近づいたアイシンは爪を伸ばし、アリアの首に爪をゆっくりと近づける。
アリアは恐怖のあまり動けなかった。
ルイス
(くそっ!逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ!)
決死の覚悟でスキル「挑発」を使用した。
ルイス
「くそったれえええええっ! かかってこいやあああ!!このアパズレ女がああああああ!!!!」
アイシン
「アパズレって何よ!? 意味わかんないけど何故かすごくムカつく!」
アイシンはアリアに向けていた爪を引っ込め、ルイスにターゲットを変更した。
ルイス
「馬鹿野郎!!てめーら今のうちに早く逃げろ!!」
一目散にアベルがダンジョンの出口に向かって逃げ出した。ルイスの大声でハッと我を取り戻したアリアも走り出す。
ガーラ
「ちくしょう、ルイス、すまねえ・・・・・・。」
ガーラはルイスの決死の覚悟を理解した。それに応えるべく腹部の激痛を必死に我慢し、立ち上がる。シュウもガーラの助けを借りて立ち会がり、そのまま肩を借りて2人は懸命に逃げて行った。
アイシン
「あれ、逃げちゃうの? それはちょっと困るから逃がさないよ!」
アイシンはルイスから目をそらし、出口の方へ向かおうとした。
ルイス
「な!? どこへ行く!? お前の相手は俺だって言っただろうがあああ!かかってこいやあああ!!」
ルイスは続けてスキル「挑発」を使用する。
が、アイシンはそれに抵抗した。
アイシン
「あなたは強いから、最後にお相手するね。先に逃げた冒険者を追ってくるから待っててね。」
友達に話すような軽い感じでルイスに話したアイシンは、瞬く間にダンジョンの外へ出て行った。
誰もいなくなったダンジョンで、ルイスは糸を切られた操り人形のように崩れ落ちる。
ルイス
「挑発に抵抗した? そんなの聞いたことねえよ。こんなのどうしようもできねえよ・・・・・・。」
ダンジョンの出口の方から叫び声が聞こえた。また1人、また1人と新しい叫び声が増える。しかし同じ声を2回聞く事はなかった。合計で4回の叫び声が聞こえた後、しばらくダンジョン内は沈黙が走る。ルイスはダンジョンの外で何が起きているのか考えなくても想像できた。少しするとダンジョンの出口から1人だけ姿を現した。
アイシン
「お待たせ! じゃー早速戦いましょ!」
アイシンの体は返り血で全身真っ赤になっていた。浴びたのが血ではなく、ただの水だったら、お風呂上りの少女と変わらない程だ。ルイスは戦う気力もなく死を覚悟していた。
ルイス
「はは、お前は強すぎる。俺はもう戦わない。すまないが人思いにやってくれないか?」
アイシン
「え? なんで? まだ私たち戦ってないでしょ?」
アイシンの発言を聞いて驚いたルイスは大笑いする。アイシンも何故笑われたのか理解できなかった。
ルイス
「そうか、お前はまだ戦っていなかったのか。お前にとってこれは戦いにすらなっていなかったのか。ははは。最後に一本取られたな。さて、俺を殺してこの戦いは終わりだ。お前の望む戦いが出来なくて申し訳ない。」
ルイスはその場で胡坐し、アイシンに首を差し出した。アイシンは少し不満そうな表情で、右手の爪を伸ばして腕を振り上げた。
ルイス
「なあ、死ぬ前に最後に一つ聞いてもいいか? お前はいったい何者なんだ?」
アイシンは少し考えてから答えた。
アイシン
「んー、どうせ死んじゃうから特別に教えてもいいよ。あなた、ゴールドドラゴンって知ってる?」
ルイス
「あぁ、その伝説は小さい頃よくおじいちゃんに聞かされてたよ。とてつもない強さでこの世界を破壊し尽くす凶悪な存在だと。確かドラゴンの中の王様だろ?」
それを聞いたアイシンは少し笑った。
アイシン
「ふふ、パパはそんな変な事しないわよ。何かの間違いね。」
ルイス
「何故そう言い切れる? この話は有名だぞ。てかパパってなんだ? 援助でも受けて交際してるのか?」
アイシン
「バカねー、パパはパパ! 私のパパはそのゴールドドラゴンなの。」
ルイスは驚きで一瞬目を見開く。
ルイス
「え? はい? うそ!? ホントに!?」
アイシン
「冗談言ってどうするの? 私はこう見えてもゴールドドラゴンです!」
ルイス
「い、いやっ、ちょっ、ちょっと待て! ドラゴンが人の姿をしているはずないだろ!?」
アイシン
「はい、話はここまでよ。さようなら冒険者さん。」
ルイス
「どういう事か説・・・・・」
サクン
アイシン
「ふぅ、つまんなかったなぁ。さて、まずはお風呂に入って体の汚れを落とさなきゃ。またタルトに臭いとか悪口言われちゃうからね。ホントタルトって、すぐ私を揶揄うからムカつくのよね!」
中級冒険者チーム「ラビリンス」は全滅した。




