【第十二話】暁亭の一日
【人間界:ルド村暁亭】
マスター
「はい、今日からこの暁亭で働くことになった
タルト君とアイシンちゃんだ!!
人手不足の中、仕事をしながら新人を
教育するのも大変だと思うが
よろしく頼むぞみんな!」
暁亭の仕事が始まるとホールに
スタッフ全員が集まり朝礼を始めた。
まずは俺達の紹介からだった。
スタッフ達
「アイシンちゃん!! よろしく!!」
あれ? あのぉ、
俺も一応いるんですけど・・・・・・
マスター
「タルト君はキッチンの方で教育していく。
アイシンちゃんはホールで教育していく」
ホールスタッフ達
「ひゃっはー! はいよろこんでー!!」
キッチンスタッフ達
「・・・・・・ぺっ」
何ですかこの反応の違いは?
なんか唾吐かれた気がするんですが
大丈夫ですか?
俺、歓迎されてるよね?
マスター
「では早速時間になるから各自作業に
取り掛かるように! 以上!」
仕事の朝礼が終わり、
俺とアイシンは持場についた。
アイシンはホールスタッフ達に囲まれて
自己紹介をされていて、みんな楽しそうだ。
一方俺の方は、誰も話をかけてくれない。
それどころか各自作業に取り掛かっていて
完全に俺を無視している。
俺はここでやっていけるのかと
不安でしかなかった。
何をしていいかわからない俺は
その場で立ち尽くしていた。
それを見かねた一人のスタッフが
声をかけてくれた。
キッチンスタッフ
「タルト君、挨拶は後だ。
キッチンは準備が大変なんだよ。
この時間みんな苛立っているんだ。
許してくれ」
俺は声をかかけてくれたこのスタッフから
仏かと思ってしまうほどのやさしさを感じた。
よし、この人から色々学ぼう。
タルト
「邪魔にならないように頑張ります!
何かお手伝いできることはありませんか?」
キッチンスタッフ
「そうだな、まずはあそこにある全ての樽に
水を汲んでくれないか?
水は店の裏に井戸があるから
そこから運んでくれ」
俺は言われたままに裏の井戸へ向かい、
水を汲み始めた。汲んだ水を樽へ移す。
もちろん一回じゃ満杯にならないので
何度も何度も繰り返す。
全ての樽が満杯になるまで繰り返す。
お店の開店時間になったが、
まだ全ての樽が満杯ではない。
先ほどのキッチンスタッフには、
そのまま継続して水汲みをしてくれと
指示があったので黙々と作業を繰り返す。
凄い重労働だ。肉体労働は得意ではないので
余計時間がかかる。
元いた世界では蛇口をひねれば水が出る。
当たり前過ぎて考えた事もなかったが
蛇口は凄く便利だなと思った。
一方ホールの方ではすでに
客がいっぱいになっていた。
新しい定員に可愛い子が入ったと言うウワサが
村全体に流れ、人目見ようと村中の男どもが
集まって来たのだ。
村人A
「うわ! すげー可愛いじゃんあの子!
新人さんなのか?
名前はなんていうんだ!?」
村人B
「名前はアイシンちゃんと言うらしい。
これは毎日会いに行きたくなるな」
村人C
「こっちに注文取りに来てくれんかな?」
アイシンは今日が初めての仕事なのに、
見事にこなしている。
お客の誘導、オーダー、片付けや清算など
全て完璧である。
その完璧な仕事っぷり、
そして何より可愛いアイシンは
その日のうちに暁亭の看板娘にのし上がる。
客への笑顔は絶えず、コミュニケーションも
抜群で客も笑顔にする。
そして丁寧な対応はまさにサービス業の鏡だった。
俺は水汲みの他に食器洗いや床清掃など
基本的な雑務をこなしていく。
この辺の仕事は普段の生活で
やっていたことなのですぐにできた。
そんな俺をキッチンスタッフは新人だから、
初日だからと優しくしてくれる事はなく、
これでもかと言わんばかりに
これ洗って、あれ掃除して、あれ捨ててと、
指示を出してくる。
他の雑務スタッフより仕事を
振られている様な気がする。
俺は不満や文句も言わず黙々を指示通りに働く。
俺の使われっぷりはまさに社蓄の鏡だった。
時間はあっという間に過ぎ
初日の仕事は終わった。
俺とアイシンは合流して終礼が始まった。
終礼と言ってもそんなたいした事ではない。
マスターのありがたいお話と
明日のスケジュール確認だ。
そして最後に疲れを取る体操を行うらしい。
マスター
「では最後にラディヨン体操を行う。
みんな広がってー!」
ラディヨン体操?
仕事終わりに体操とか凄くだるい。
余計に疲れるんじゃないか。
マスターが前に立ち、ラディヨン体操を始める。
スタッフ達はマスターと同じ動きを始めた。
俺も面倒だが周りに合わせて体操を始めた。
あれ? この体操ってラジオ体操に似ているな。
少し違う部分もあるがほとんど同じじゃないか?
人間、どの世界でも考える事は同じなんだな。
俺は懐かしい気持ちでラディヨン体操をした。
そんな中、アイシンが気になったので見てみたが、
超テキトーに体操をやっていた。
テキトー過ぎて全然あってないのですが。
誰か注意しろ。
そのまま第一、第二体操まで行い終礼が終わった。
俺とアイシンはそのまま自分達の部屋まで戻った。
流石に疲れた俺はそのままベッドに横たわる。
アイシンは椅子に座り、俺に話かけてきた。
アイシン
「思ったよりこの仕事が簡単でよかったわ。
少し疲れちゃったけどこれなら問題ないわ。
ねぇ、タルトの方はどうだった?」
タルト
「俺はもうだめです、
疲れすぎてもう歩きたくない。
肉体労働反対だ」
ぐったりしている俺を見たアイシンは
クスっと笑い、お風呂に行くと言って
部屋を出て行った。
俺はこのままベッドで寝てしまいそうなので
一度体を起こして座り込む。
今日の給料は10ゴールド、
アイシンは何故か40ゴールドだった。
この差は一体なんだと思いつつも、
二人合わせて一日50ゴールドだ。
この計算で行くと一か月で
目標が達成できそうだ。
思ったより早く目標金額に
到達できそうなのでホッとした。
食事も思った通り無料で食べられる。
お風呂などの施設もタダで使わせてくれる。
これは早い段階でダンジョンの
運営へ移行できそうだ。
ダンジョンは購入とレンタルの二種類ある。
元いた世界で考えると
家を買うか借りるかの違いだ。
当然最初は借りて運用していくつもりだ。
借りた後、トラップとか魔族の配置とか
色々考えておいた方だよさそうだな。
俺も疲れを癒すため、お風呂へ入ることにした。
【人間界:暁亭三階部屋】
寝る準備を終え、部屋に戻るとアイシンが
髪を梳かしていた。魔族なのにこういった習慣は
人間と変わりないのだなと思った。
そういえば、頭につけてたカチューシャを
外している姿は初めて見る。
流石にお風呂まであの派手なカチューシャは
つけないようだ。
ん? 何か頭にくっ付いていないか?
少し気になったのでアイシンに聞いてみる。
タルト
「アイシン、頭にう○こついてね?」
次の瞬間、鉄のクシが時速150kmで飛んできた。
飛んできたクシは俺の頬をかすめ、
後ろの壁に見事刺さった。
かすめた頬からは流血した。
俺はちょっと冗談が過ぎたと反省する。
これ以上は命に関わると悟った。
アイシン
「そんなのついてるわけないでしょ!」
アイシンはムスッとして、俺に自分の頭を
見られないように後ろを向いた。
タルト
「じゃあなんだそれ? よく見せてくれ」
アイシン
「えー、やだ」
タルト
「やだじゃない、見せろ」
アイシン
「なんでそんな見たがるの!?
タルトのエッチ!」
はい? それを見ることはエッチなの?
そういわれると嫌でも見たくなるのは
元人間の性ではないだろうか。
俺は自分の欲求を叶える為、少し考える。
物は試しと、アイシンに嘘をつく。
タルト
「なあアイシン、さっきから気になることが
あるんだが、足元に下着落としてないか?」
アイシン
「え! うそ? やだ!」
アイシンは慌ててこちらを向いて
自分の足元を探し回る。
よし、アイシンの頭が良く見えるようになった。
俺はそのまま歩いて近づきアイシンの頭を
覗き込み手を伸ばす。
アイシンはまだ下を見ている。
タルト
「何だこれ? 二つついてるな。
ふむふむ、これ硬いな」
俺がアイシンの頭を触ると、アイシンは
ビクッとして硬直する。
俺は気にせず頭についた何かを触り続ける。
タルト
「これ頭にくっついてるじゃん。
あーなるほど、そういうことか。
ドラゴンだから、これ角か!!」
角も翼や尻尾と同じで完全に消せないようだ。
流石に髪の毛を前頭部に
盛るのはおかしいので
このカチューシャで隠してた訳だ。
俺は一つの謎を解き明かした
達成感で喜んでいると、
アイシンは右手を鋼鉄の拳に変え、
俺の顔面目掛けて打ち放った。
俺はそのスピードに反応することはできず、
右顎にクリーンヒット、そのまま
部屋の隅まで吹っ飛ばされた。
アイシン
「いつまでも触ってんじゃないわよ!
この角角変態!!」
角角変態とはなんだ!?
ニュアンス的に角フェチという認識でいいのか?
まあ、そんな事はどうでもいいか。
俺は足腰がしっかり立たないうちにベッドへ入る。
俺はアイシンに寝る! と一言だけ伝えた。
仕事で疲れているのと、先ほどのダメージで
俺はすぐに寝てしまう。
数分後、俺のベッドになぜか
アイシンが入ってきた。
異変に気づき目が覚めた俺は、
何故ここに入って来たのか不明だったので
アイシンに話しかける。
タルト
「お前のベッドはここじゃない、向こうにあるぞ。
邪魔だからあっちで寝てくれ」
アイシン
「いいじゃない、二人の方が暖かいよ?」
タルト
「別に寒くないし、
ベッドが狭くなるから向こうに行け。
お前の頭についたう○こが当たって痛いだろ」
アイシン
「角よ! 角!! この角角変態!
寝る時は一緒の方がぐっすり眠れるの!
私寝るときはいつもパパの横で寝てたから
この方が落ち着くのよ。減る物じゃないし
いいじゃない」
タルト
「良くないわ! 俺はぐっすり眠れませんな!
余計疲れるからあっち行った。シッシ!」
しかしアイシンはすでに眠っていた。
この寝付きの良さはの〇太君と同レベルだった。
俺はこいつを蹴り落としてしまおうかと思ったが、
アイシンの方が稼ぎが良かったのと、
一応仕事を頑張ってくれたので
今回は諦めてこのまま寝ることにした。
実に窮屈で身動きがうまく取れなかったが
すぐに寝付くことができた。
・・・・・・三時間後
暁亭の三階の窓が外部から開けられる。
ここは三階なので窓に鍵などは
付いていなかったので
簡単に開けることができた。
開いた窓から男が三人、次々と部屋へ入る。
三人が向かった先は俺達が眠るベッドだった。
アーク
「おい、お前らビンゴだ。この部屋で正解だぞ。
あいつらこのベッドでぐっすり寝てらあ」
ラッツ
「なんだこいつら、一緒に寝てやがる。
この旦那、羨ましいかぎりですな」
ベイド
「無駄な話はそれくらいにしておけ。
俺らの仕事はこの女をさらって売りさばく事だ。
起きたら面倒だからすぐに仕事に取り掛かるぞ」
アーク
「しかしもったいねえな。こんな美少女はもう
お目にかからねえぞ。売るのをやめて
俺達で飼いならさねえか?」
ベイド
「馬鹿言え。こいつを売っただけで一生遊んで
暮らせる金が手に入るんだぞ。傷を付けてみろ、
それこそ商品価値がガクッと下がるからな。
お前ら慎重に扱えよ」
ラッツ
「この男はどうする?
売りさばいても二束三文にしかならないぞ。
一応連れて帰るか?」
ベイド
「そいつはいらん。ここで殺してしまえ。
いいか、騒ぎになると面倒だから確実にだぞ」
アーク
「任せておきな、一撃で首を落としてやる」
アークが俺の首を切り落とそうと近づく。
しかし足元にあったコップに気付かず
蹴り倒してしまう。
俺はその物音に気付き、
目を覚ますことができた。
タルト
「貴様ら何だ!?」
アーク
「ちっ、失敗した。速攻で仕留める」
アークは手に持ったナイフで
俺の首を突き刺した。
俺は横へ回り攻撃をかわし、
前蹴りでアークを突き飛ばした。
俺はすぐに立ち上がる。
部屋を見ると見慣れない男が二人、
武器を持って戦闘態勢になっている。
これは不味いな。
下手に動くとアイシンが狙われる。
こいつらの目的はなんだ?
俺らを殺しても何の得にもならないはず。
二人とも俺を狙っている様子だ。
なるほど、俺を殺してアイシンを奪う気だな。
気持ちはわからんでもないが。
そういえばアイシンがベッドにいない。
こんな時にどこへいった?
ラッツ
「しょうがねえな、
ばれちまったから作戦変更だ。
ベイド、アーク後は頼んだぞ」
ラッツがそう言うと窓から出て行った。
俺は全部で三人いたことに今気づく。
この状況で一人だけ逃げるのはおかしい。
しまった!
アイシンはあいつに連れて行かれたのか!
いくらアイシンでも寝ている状況では
抵抗ができない。そして寝起きも悪そうだから
運ばれていても起きないなあいつ・・・・・・
とにかくアイシンを追いかけなければ!
その時、ベイドは手に持っていたアイテムを
発動させた。その瞬間部屋中に虹色の
オーラの様なものが広がり
壁や床など部屋の隅々まで張り付いた。
ベイド
「助けを呼ばれても面倒だから
この部屋を外と遮断させてもらった。
これで騒いだりしても誰もこないぜ。
この効果を無くすには5分間経過するか、
使用者が解除、もしくは死んだときだ。
あの娘を追いかけたければ
せいぜい頑張るんだな兄ちゃん」
なんて都合のいいアイテム!
そして効果の説明ありがとう!
非常に不味い状況だ。
武器もない俺がこいつらを殺せるのか?
何とかしてアイシンを追いかけなくては。
アーク
「おっと、考え事する暇があるのかな兄ちゃん」
アークが俺に攻撃を仕掛ける。
俺は紙一重でかわす。
反応できるスピードではあるが、
かわすだけで精一杯だ。
アークは連続で攻撃を仕掛けてくる。
俺は反撃もできずにただ避ける。
ベイド
「相手は一人じゃないぜ兄ちゃん!」
俺の横腹から鈍い音が聞こえた。
ベイドから横腹に回し蹴りをくらったのだ。
アークの攻撃をかわす為、
一歩下がった所を狙われた。
がはっ!
俺は吹き飛ばされ、その場でのたうち回る。
なんて攻撃力だ。
こいつはおそらくモンクだろう。
蹴りの重さが尋常ではない。
苦しんでいる姿を見て喜んだベイドは
俺の頭を掴み、そのまま持ち上げる。
ベイド
「おや、もうおしまいか?
お楽しみはこれからだぜ?」
ベイドは掴んだ頭を離した後、
飛び膝蹴りで攻撃する。
飛び膝蹴りで浮いた俺に
ベイドは拳を打ち込む。
ベイド
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラ
ウォラよっ!!」
最後に前蹴りを放つ。
俺は壁まで吹っ飛び、壁にたたきつけられ、
そのまま倒れこんだ。
俺はベイドに叩きのめされ虫の息となった。
アーク
「おー決まったねぇ、いつ見てもすげぇぜ
ベイドのコンボはよ!
飛び膝蹴りで浮かす事事態神業なのに
連打でキープさせちゃうんだからな。
これ食らった人間は大抵あの世行きだぜ」
ベイド
「あっけない相手だった。
もっと楽しませてくれると
思ったんだがな。おや?
まだ生きていたか。
見た目によらずタフだなお前」
生きてるとはいえ、もう虫の息だ。
意識はすでになくなっている。
ベイド
「あまり苦しませるのも悪い。
アーク、とどめを刺せ」
アーク
「了解。ベイドのその美学みたいなものも
かっこいいぜ!」
瀕死状態な俺にとどめを刺す為近づくアーク。
俺はすでに死人と同じ、動かない。
アークの武器が振り上げられる。
その時、部屋の一部から
ひび割れのような音が聞こえた。
アークとベイドはこの異変に気づき辺りを見渡す。
ベイドは亀裂が入った場所を見つけ指を指す。
亀裂はどんどん大きくなり、
虹色の壁が一部分剥がれ落ちる。
その隙間から何かが入ってきた。
アークとベイドは入ってきた者を凝視する。
そいつは金色の髪、青い瞳に翼に尻尾があった。
そう、侵入したのはアイシンだった。
ベイド
「ば、ばかな。外から侵入だと!?
どうやって入ってきた!?
何者だ貴様!!!」
アーク
「お、お前・・・・・・翼に尻尾、
ま、魔物か貴様!!」
アイシンは左手に持っていた物を
アークとベイドの足元に投げ捨てた。
捨てられた物をアークとベイドは見る。
それは先ほど窓から逃げたラッツの頭だった。
ベイドとアークの戸惑う姿を一切無視し、
一直線に俺の所へ歩いてくる。
そして俺を優しく抱きかかえる。
アイシン
「タルト? よかった、まだ生きてる」
アイシンはため息をついて安堵する。
アイシン
「私、昔から起きるのが苦手でさ、
目が覚めるのに時間がかかっちゃった。
だから、助けに来るのが少し遅れちゃった。
もっと早く来れたら
こんな事にならなかったのに。
私が早起きできない子だから
こんな目に・・・・・・
私、ちゃんと早く起きれるように
練習するから。
何かあったらすぐに起きれるように
練習するから。
タルトをちゃんと助けれるようにするから。
だから許して······」
アイシンは嘆き悲しむ。
アイシンは俺が瀕死になったのを
自分の責任だと思っている。
しかし瀕死になった原因は俺の弱さにある。
そして今回の一番の問題は連れ去られた時に
アイシンを助けられなかった俺だ。
アイシンは何も悪くない。
意識があるならアイシンにそう伝えるだろう。
しかし今俺は瀕死の状態で意識すらない。
アイシン
「もう大丈夫だから。
もう傷つけさせないから。
もう少しだけ休んでいて」
アイシンは泣き笑顔で、
柔らかい声で俺に話かけた。
抱き抱えてる俺をゆっくりおろし立ち上がる。
そしてアークとベイドに対し、
無表情で呟く。
アイシン
「殺す」
アークは叫びながらアイシンに襲いかかる。
アイシンに剣を振り下ろしたが
容易に腕を捕まれる。
アークは捕まれた腕を振り払おうとするが
ビクともしない。
そして捕まれた腕を、握り潰された。
アーク
「があああああああああああ!!」
しかしアイシンは表情一つ変えず右手で
アークの首元を掴みそのまま壁まで押し込んだ。
アーク
「がっ!」
アークは地に足がつかずバタバタしている。
呼吸もできないせいか、声もでない。
アイシン
「まず一匹」
アイシンは左手でアークの心臓を貫き、
とどめを刺した。
ベイド
「くそがあ!」
アイシン
「二匹目」
ベイドは破れかぶれで攻撃を仕掛けようとしたが
アイシンはすでにベイドの背後に回りこんでいた。
ベイド
「なっ、に・・・・・・?」
アイシンはベイドの背中から心臓を貫いた。
貫いた手を引き抜くとベイドは倒れ死ぬ。
アイシンはそのまま血振るいをし、
俺の所へ戻り、ひとつのアイテムを取り出した。
アイシン
「タルト、もう大丈夫だから」
使用したアイテムは対象者の体力魔力、
全異常状態を即時回復させる。
そんな規格外のアイテムは普通手に入らない。
大きな代償を払い、初めて手にできるアイテムだ。
そんなアイテムを躊躇うことなく使用する。
アイテムにより俺は、瀕死状態から復活した。
······次の日
朝になり、俺は普通に目覚める。
暁亭の三階部屋のベッドから起き上がり
昨日の事を思い出す。
あれ? 昨日ここで戦っていたような?
俺サンドバックになった後、気絶したよな?
特に部屋が荒らされた形跡もないし
俺の体に異変も傷などもない。
んー? あれは夢だったのか?
俺が混乱しているとアイシンが
部屋に入ってきた。
アイシン
「おはよータルト! いい朝だよ!
早く起きないと仕事始まるよ!」
なに!? もうそんな時間か!
仕事二日目で遅刻は不味い!
俺は慌てて支度をする。
そんな姿を見ていたアイシンは
心なしか嬉しそうな顔をしている。
アイシン
「先に行ってるよー!」
タルト
「え? 待ってくれないんかい!
起きてるならもっと早く起こせこのヤロー!」
アイシンは笑いながら先に仕事へ向かった。
こうして変わらない平和な日常が始まる。
しかし、ひとつだけ変わったことがある。
俺はこの朝を境に、アイシンより
早く起きることは二度となかった。




