路地裏の死闘
公都の路地裏で行われていた私闘――。
それが死闘に変わった。
俺、もしくはヴェロニカ、あるいは双方を狙う第三勢力が介入してきたからである。
そしてその第三勢力はなかなかに厄介であると推察できた。
見れば傀儡兵は全員、魔法を付与した武具で武装している。
それにその魔力のオーラを見るからに、傀儡兵を操っているのはひとりの魔術師だと推測できる。
俺たちを狙っている魔術師は少なくとも同時に12体の傀儡兵を使役できる魔術師なのだ。
なかなかに厄介な存在である。
通常、第9階級の魔術師でもこれほどの数の傀儡を同時に動かすことはできない。
俺たちが相手にしようとしているのは、相当に等級の高い人形使いか、あるいは賢者と呼ばれる実力の保持者かもしれない。
「――いや、もしかしたら、賢者ではなく、大賢者かもな」
先ほどまで見事な動きで俺を翻弄していたヴェロニカが苦戦している姿を見るとそういった憶測も生まれる。
ヴェロニカの魔法剣士としての腕前はなかなかのものだ。
等級にすれば第7階級の魔術師に匹敵する。
そのヴェロニカが押されているということはやはりこの傀儡たちの主は相当な大物ということになる。
防戦一方になっているヴェロニカを援護する。
古代魔法言語を唱える。
ここは公都の路地裏。しかもヴェロニカが人払いをしてくれていたおかげで人の気配はない。
強大な魔法を使っても市民を巻き込む心配はないだろう。
遠慮することなく禁呪魔法を解き放つ。
ヴェロニカの後方から襲いかかろうとしている傀儡兵3体に向かって巨大な火柱を突き立てる。
何十メートルもの高さに燃え上がる火の柱、魔法の武具はそれに耐えられても、中の人形はそうはいかなかった。
高温に耐えられなくなった傀儡は活動を停止し、そのまま燃え尽きる。
活動を停止した人形は魔法抵抗がゼロになり、ただの燃えるゴミと化すのだ。
その光景を見ていたヴェロニカはきょとんとした顔で言う。
「す、すごい」
あっけにとられているようだが、呆然と立ち尽くすのは戦闘が終結してからにして欲しかった。
ヴェロニカに生まれた隙を狙って湾曲刀を振り上げる傀儡兵に《衝撃》の魔法を飛ばす。
俺が手を加えた固有魔法だ。
通常の《衝撃》よりも何倍も速度と威力を強化し、また、任意の物体を透過する。
ヴェロニカをすり抜けた《衝撃》はそのまま傀儡兵に当たり、壁にめり込ませる。
その壁の家主はさぞ腹を立てることであろうが、目の前にいるのは皇女様、頼めば何倍も立派な建物に立て替えてくれるであろう。
そんなふうに次々と傀儡兵どもを屠っていく。
12体いた傀儡兵を壊滅するのに掛かった時間、8分と40秒。
代償は皇女ベロニカ様の手の甲と膝小僧の裂傷であった。
紳士を自称する俺としては即座に回復魔法で傷を治してやりたかったが、その暇はなかった。
敵兵を壊滅させると同時に俺はヴェロニカに言った。
「ヴェロニカ殿に俺の秘密がばれている、ということは、俺たちを襲った連中にもばれている、という可能性が高いということですよね」
ヴェロニカは真剣な面持ちでうなずく。こくりと。
「我はカイト殿の娘がホムンクルスであると疑っている。いや、ホムンクルスだと確信している。我は皇位継承権を得るためにホムンクルス創造の手がかりをえるためにカイト殿に近づいた」
「ならばこの傀儡どもの主も娘がホムンクルスであると知っている可能性は高い、と見た方が無難か」
「合理的に判断すれば」
「そして理論的に判断すれば、その敵は直接娘を狙うはず。なにせ娘はこの世界にたった一人しかいないフラスコの外へ出ることのできるホムンクルスなのだから」
そう結論づけると、俺は娘のもとへ向かうことにした。
精神を集中し、娘の居場所を探知する。
娘には簡単に探知できるように護符を携帯させている。
それに娘の向かっている場所も分かる。簡単に探知できた。
フィオナは冒険者ギルドにいた。周囲にはハーモニアやクラスメイトたちもいる。
先ほど時間稼ぎをしてくれと命じたクロエもいた。
その光景を《遠視》の魔法で確認した俺はほっと胸をなで下ろす。
当面の安全は確保できると思ったからだ。
敵も馬鹿ではない。
冒険者ギルドの前で娘を襲撃すれば、即座に熟練の冒険者に取り囲まれるだろう。
それにすぐ側にクロエがいるのも幸いであった。
クロエはただの機械仕掛けのメイドではない。その腕は並の戦士の比ではない。
今し方倒した傀儡兵ならばひとりで3体は倒してみせるだろう。それも汗ひとつかかずに優雅に――。
このような状況下ならば万事、急ぐ必要もないのだが、なぜだか悪い予感を覚えた。
妙な焦燥感が心臓を鷲づかみするのだ。
あるいは娘可愛さのために過剰に心配しているだけかもしれないが、急いで娘のもとへ向かうことにした。
俺はヴェロニカに、
「先に娘のもとへ向かっています。皇女殿下はあとから追ってきてください」
と言った。
よくよく考えればヴェロニカが娘を救う理由などないはずであるが、彼女は快く同意してくれた。 いきなり決闘を申し込み、実力を計ろうとするとんでもない皇女であったが、根は悪い人物ではなさそうだ。いや、むしろ善良な娘に分類されるであろう。
そのことを確認した俺は、呪文を詠唱する。《飛翔》の呪文である。
ここから娘のいる冒険者ギルドは目と鼻の先であるが、今はともかく、一秒でも早く娘の顔を見たかった。




