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最強賢者の子育て日記 ~うちの娘が世界一かわいい件について~ 作者:羽田遼亮

第三章

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皇女ヴェロニカ

 この公都には冒険者ギルドが複数ある。ここから一番近いギルドは徒歩で10分ほどであろうか。

 フィオナたちがそこに行くのは疑いない。
 俺は彼女たちよりも早くギルドに到着するため、近道を選ぶことにした。
 裏通りを使うのである。
 公都の裏通りは人気がない。
 裏通りなのだから当然と言えば当然だが、あまりにも人に出くわさない。
 まるで公都の住人がすべて消失してしまったかのような静けさに包まれていた。
 異変に気がついたのは裏通りに入ってすぐであった。

 あまりに静かすぎる環境に不信感を感じた俺が、表通りに出ようとしたとき、表通りに通じる道に薄い膜のようなものがあることに気がつく。

 黄色に輝く薄い膜のようなカーテン。
 即座にそれが《障壁》の魔法であると察する。

 どうやら人っ子一人いないのはこの区画が魔法によって封鎖されているのだと悟ることができた。

 狙いは誰であろうか。

「――俺である可能性が一番高いかな」

 トラブルに巻き込まれることにかけては定評がある俺、それに数十メートル先にいるフードをかぶった戦士はフードの奥から一心に俺を見つめていた。

 あの戦士がこの区画を封鎖しているのだろう。そして十中八九、荒事に巻き込む気のようだ。

 フードの戦士は声を発する。
 腰にぶら下げた剣を抜き放ちながら声高に叫んだ。

「貴殿は魔術師カイトに相違ないか?」

 意外にも女の声であった。
 甲高くなく、流麗で凜とした響きの声の持ち主だ。

 およそ闇討ち不意打ちとは無縁そうなまっすぐな声の持ち主だったが、実際、彼女は卑怯者ではないようだ。

 こんな宣言をする。

「貴殿に尋ねたいことがあり、このような不躾な真似をさせてもらった。貴殿を傷つける気はない。ただ、真実を話してもらい、協力を願いたい」

 卑怯者ではなさそうだが、思い込みが強く、押しが強そうな女性であった。

 なぜ俺が見ず知らずの女の、それも剣を突きつけるような相手に協力をせねばならないのだろう。

 そう思って断ろうかと思ったが、女は見計らったかのように剣に魔法を付与する。

「魔法剣士か」

「左様。だが、安心しろ、付与した魔法は衝撃系だ。斬撃を受け手も死にはしない」

「死なないけど、死ぬほどびりびりするやつだろう、その魔法は」

「たしかに、でも大丈夫。貴殿が我が見込んだ通りの人物であるのならば、我ごときの斬撃など当たるはずがない」

「君はなにがしたいんだ。俺を倒したいのか、斬りたいのか」

「まずは実力を見極めたい。それに双方の抱えている秘密を共有できるか、一緒に背負っていけるか、確認したい」

「――秘密」

 その言葉に思わず反応してしまう。

 もっかのところ俺の抱えている秘密はひとつ、娘の件である。それ以外にも秘密はあるが、娘の件以外、世に露見してもなんら問題はない。

 逆に言えば娘の秘密だけは守り通したかった。

 目の前の女は娘の秘密を知っているのだろうか、知っているとしてどこまで知っているのだろうか。その秘密を知ってどういう行動に出るのだろうか。

 最初は軽くいなそうと思っていたが、ここまで聞かされたからにはそういうわけにもいかない。

 目の前の魔法剣士を倒し、彼女から情報を得るべきだろう。
 そして場合によっては可及的速やかに対処せねばならない。
 そう思った俺は杖に魔力を込める。
 彼女と同じで衝撃の力のみ込める。

 向こうに殺意がない以上、こちらも殺意を込める必要性は感じなかったし、それになんだかこの女は悪党ではない気がする。そんな予感があった。

 なのでなるべく怪我をしないように踏み込んだ。

 《加速》の魔法でスピードをアップすると、その勢いを利用し、杖を振り下ろす。
 魔法剣士はそれを颯爽と交わす。
 魔法剣士が避けた場所に大きな穴がうがたれる。
 その光景を見た女は漏らす。

「さすがは大賢者イリス・シーモアの弟子。その魔力は師匠譲りか」

「そこまで調べてあるのか」

「ああ、貴殿が千年ほど生きた賢者であり、数年前、死を偽装して帝国を出奔したことまでは調査済みだ」

「なるほど、そこまでばれているとなると、俺がなぜ、出奔したかも調べ尽くしているのだろうな」

「理由はおおよそ察している。あとは物証が欲しい」

「ならばなぜその物証ではなく、俺自身に尋ねる? その物証の方を調査した方が早いし、的確だと思うのだが」

「理由はふたつあってね。ひとつはまだ言えないが、ふたつ目なら言える」

 彼女はそう言うと一歩踏み込み、横薙ぎの一線を加えてきた。
 なかなか見事な斬撃だ。
 一目で正規の訓練を受けたと分かる太刀筋であった。

「ふたつ目の理由は簡単だ。賢者カイトは娘のためならばこの公都を炎に包み込むことさえ躊躇わない。娘に手を出すやからはその命さえ奪うだろう。これから協力して貰おうという相手にその手は愚策だ」

「賢明だ。――俺が協力するかはともかく」

「我に協力した方が得だ、と説得する材料は揃えてきたつもりなのだがね」

 そう言うと彼女の剣と俺の杖が交差する。
 飛び散る激しい火花。

 魔力を付与した武器がつばぜり合いをするときに発する独特の音と魔力の波濤(はとう)が飛び散る。

その光景は季節外れの花火のようで美しかったが、いつまでも鑑賞しているわけにはいかなかった。

 目の前の女はフィオナがホムンクルスであると感づいている。
 まだ物証はないようだが、このまま放置していい相手ではないだろう。
 早期に決着を付け、なんとかしなければならない。
 そう思って呪文を唱えようと思ったが、それもとまる。
 代わりに出たのはこんな皮肉であった。

「帝国の皇女殿下はぶっ飛んだ性格をしているが、卑怯とは無縁の女性だと思っていたが、それは俺の買いかぶりすぎだったかな」

「卑怯者とは聞き捨てならない。――が、その前になぜ、我が皇女だと分かった」

「その宝刀を見れば分かる。それは皇室に伝わるティルファングという宝剣だ」

「なるほど、さすがは賢者カイト殿。博識だ」

「卑怯者だと思ったのは、一騎打ちを仕掛けてくるのかとみせかけて小賢しい真似をしてくるからだよ」

「どういう意味だ?」

 と、皇女は眉をひそめる。どうやら彼女は周囲にいる人物の存在に気がついていないようだ。

俺は周囲を見渡すように注意する。

 一瞬、隙を見せてもよいものだろうか、皇女殿下は迷ったようだが、視線を周囲に配るとやっと俺たちが包囲されていることに気がついたようだ。

 その美しい眉目をしかめた。

「な、いつの間に」

「その顔は演技ではなさそうですな」

「どういう意味だ」

「いや、最初から複数人で取り囲む算段だったのかと」

「このヴェロニカ・フォン・ミラディンはそのような卑怯な振る舞いはしない」

「ならば話は簡単ですな。俺たちの周りを取り囲んでいる傀儡兵どもは敵だ」

「傀儡兵?」

「魔法で操られている兵のことですよ。人形に魔力を込めて兵士にする術だ」

「なるほど」

「魔法は得意なように見えましたが」

「魔術学院には通っていない。高名な魔法剣士に師事を受けただけだ。なので魔法に関する知識は期待しないで欲しい」

「ならば宮廷内の知識に期待しましょうか。この傀儡兵は俺を狙ったものか、それとも貴女を狙ったものか、どちらだと思います」

「――五分五分、というところだろうか。宮廷内は魑魅魍魎がひしめいている。我の命を狙う輩は枚挙にいとまがない」

「なるほど、きらびやかな見た目に反して、宮廷という世界も生きにくそうだ」

 そう言うとヴェロニカに背中を見せる。

 ヴェロニカは一瞬戸惑うが、すぐに俺の意図を理解してくれたようだ。

「ここは一時休戦といきましょう」

「――そうするしかないか」

 ヴェロニカはそう言うと、こう続けた。

「もとより、カイト殿と争う気などなかった。カイト殿の実力を確かめたかっただけだ。そして見聞も十分おこなった」

「なるほど、それでカイトという魔術師はどうでしたか?」

「その魔力、判断力、決断力、申し分ない。特にその魔力は特筆に値する。本気を出せば我程度の魔法剣士など、一払いで倒せるのに手加減をしてくれた。武人としては口惜しいことであるが、淑女としては素直に敬意を持てる。この御仁は決して女を傷つけるタイプではないと分かった」

「例外もありますよ、家族、特に娘を脅かすものを容赦しません」

「覚えておこう。とりあえず我はカイト殿の娘に危害を加えるつもりはない。ただ、カイト殿の賢者としての力を借りにきただけだ」

「まあ、その辺はおいおい聞きましょうか。とりあえずこの傀儡兵どもを倒さないと」

「承知。2、4、6、いや、8体か」

「いえ、地中に4体ほど潜んでいます」

「ならば我が前衛を引き受ける。カイト殿には後衛とサポートを願う」

「了解」

 俺はそう言うと呪文を唱えた。サポートといっても目の前の皇女は立派な魔法剣士、サポート魔法は不要であろう。俺は攻撃魔法を中心に敵を攻めることにした。

 帝国の第16皇女のヴェロニカ。

 それに賢者カイト。
 こうしてふたりは即席のタッグを組み、傀儡兵と対峙することになった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

宝くじで一等を当てた少年が聖剣を買いダンジョンの最深部を目指すお話です。

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