二十三話 見舞い
12月9日ー未明ー
渡部は一人海兵団宿所から用事を伝え午前中非番を取り呉海軍病院へと足を進めていた。足を交互に出すたびに彼の口からは白い息が小刻みに出ては消えていった。
だがその歩みは宿所から離れ第二倉庫の前で止まってしまった。そこにはまだおびただしいほどの誰のか分からない腕や足が無造作に集められシートをかけられており、その倉庫の窓には機銃痕が残っていた。
先述したとおり市民には被害は無かったが軍需関係施設、軍事施設には大打撃を受けていた。
呉方面海軍では296名が戦死、1500名ほどが重軽傷を負っているとのことである。話を戻そう。
渡部は血の匂いで昨日の出来事を思い出してしまっていた。もしかすると神野は・・・そう思う気持ちを捨て切れなかった渡部は今日見舞いにいくとしていたのだ。彼は再びその足を動かせ始めた。
渡部はようやく坂を上りきり玄関へと向かった。
受付で済ませると二階へと案内するとのことで受付人に案内した貰った。廊下を進むたびに血の匂いが鼻にこびりついてしまう。
自分もこれから戦争に行くのなら何度も嗅がねばならないのだが渡部は吐き気を催してしまった。
特に『第三治療室』と書かれた部屋は特にひどかった。
全身をほぼ包帯で巻かれ「水、水」とうめき声の変わりにしきりに上げていた声と何も治療できず栄養剤を与えている医者を見たときなどは悲しみとともに死への恐怖が芽生えてきたのだ。
途中途中手で口元を押さえながら渡部は神野の病室へと歩んで行った。
「ここでございます、中は十人部屋になっておりますので・・・騒がれませぬように。では」
そう無愛想に言い受付人はもと来た道を帰ってしまった。
渡部はゆっくりと木製の引き戸を開けた。一歩足を踏み入れると消毒液のきついにおいがツンッと鼻についた。
どうも渡部には医療用の薬品の匂いは好ましくなかった。
「渡部!渡部やないか!」
声のするほうを向くと自分が探していた人がいた。
「おお!神野!元気やったか」
先ほど受付人に静かに、と釘をさされていた渡部だったがそんな事は気にもとめず純粋に神野の無事な姿に喜んでいた。
「今日は非番か?」
「ああ、見舞いのためにな。これ班長からの菓子や」
すまんな、と神野は言って班長からの菓子を旨そうに食べた。
食べ終わった後神野はベッドの近くの台から号外を取り出した。
「渡部・・・聞いたか?欧米列強と全面戦争や・・・」
そう神野は言った。
「ああ、聞いた。まさか一番の仮想敵国のアメリカだけじゃなくイギリスもとは・・・さらに驚いたんは・・・、これや」
渡部は神野が見ている記事よりも下に書かれた「今上天皇、御皇室の財産を戦費へ回される」という記事を指差した。
「全くや・・・天皇陛下も全力でこの戦争のために戦っているゆうのに・・・俺は・・・除隊や。頭に破片をうけたから脳、視力に問題ありやと」
神野は窓に顔を向けた。そこからは呉の港が一望できた。そこからは以前には栄えある大日本帝国海軍連合艦隊の強者たちの姿があったが・・・今は何も無かった。渡部からは神野が流した涙は見えなかった。
「そうか・・・除隊か・・・」
そこから先、渡部は神野に掛ける言葉が見つからないでいた。
神野が戦争に行かず生きていてくれるのを嬉しいと思うとともにこれからは2人一緒に行動できなくなり悲しいと思う気持ちが渡部にあった。
だが時間は有限である、渡部は悩みながらあることを告げた。
「俺、配属艦決まったんや。空母赤城の機銃科に配属や」
「そうか、いつ出発や」
「明後日や」
「いつもの波止場やな?見送り・・・行くわ」
その後ニ、三語交わして渡部は病院を去った。
配属が決まったなどと言わなければ良かったと後悔をしていた。
そしてその後悔は後日更に深まったのだった。
大変遅くなりました。
当分模試、校内考査などがたちこみ編集投稿が遅くなりました。申し訳ございません。毎度読んで頂きありがとうございます。これからもご愛読のほどをお願いいたします。




