二十二話 彼ら
投稿が遅れました。申し訳ありません。
野村は帰りのタクシーの中にいた。等間隔で道端に置かれた街灯の光がタクシーが進む度に野村の体をつたって後ろへ抜けていく。
その光は野村の手に握られていた一枚の紙を映し出すかのように照らし出しては消えていく。
野村と栗栖は確認のためホワイトハウスへ急行したが、謁見は許されず唯一渡されたのは宣戦布告文書の写しを一枚貰っただけだった。
そしてそのまま現在に至るというわけである。
栗栖とタクシーの運転手は先ほどから流暢な英語でなにやら話をしている。英語を専攻として学んでいた栗栖とは反し、ドイツ語を専攻をしていた野村には聞き取れない英語もたくさんあった。
だがその口調からは恐らく楽しげな話をしているのだろう、そう野村は思った。もしここで『貴方の国はわが国に宣戦布告した。貴方と私達は敵なんですよ。』と言ったらなんと反応するだろうか。
そんな突拍子も無いことを野村は考えていた。
彼が宣戦布告を知るのは恐らく朝になってからだろう。
そうこう考えているといつの間にか大使館に着いた。
野村はタクシーの運転手に礼を言い代金を払った。
運転手は一言片言ながら『アリガト』と言ってタクシーは去って行った。
「ほう、日の出か」
栗栖がポツリとつぶやいた。
野村の沈む気持ちとは反対にいつの間にか朝日は昇ろうとしていた。
「栗栖君、先ほど何を話してたんだい?」
野村はふと、栗栖に聞いてみた。栗栖は悪びれずさらっと答えた。
「わが国日本とアメリカが戦ったらどちらが正義かね?と聞いたんだ。彼はこう答えたんだ『それは分からない。だが、正義と思いそれを貫けばそれが正義となるんじゃないのかね?』とね」
野村は思わず苦笑してしまった。
しかしその言葉は野村を勇気付けてくれる物だった。
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「なるほど、そのようなことが・・・」
昭和天皇は眼鏡を取り顔を左手で覆った。以前から右手は怒りを押さえ込むかのように固く握られていた。
「余は・・・何も知らなかった」
昭和天皇はゆっくりと語り出した。
「アメリカは大国である・・・だがわが国はまだ未発達の分野や貧しき者たちが多くいると聞く、そのような国がわが国に・・・いや国たちがわが国に攻め込んでくるとは・・・・」
「陛下・・・もうお休みになられては・・・御身体に障ります、高松宮様も今日は・・・」
百武侍従長は陛下の身を案じた。
「よい、よいのだ」
裕仁はその言葉を強く断りを入れた。
「高松宮よ・・・一つ聞く。わが国は勝てる事が出来るのか?」
裕仁は一番聞きたかったことを吐き出した。高松宮は背筋をスッと伸ばし、裕仁の目を見た。
「恐らく"勝ち"はございません」
「では、やはり」
裕仁は一層悲壮感を漂わせた。
「ですが!」
高松宮のはっきりとした声が部屋に響いた。
突然張った声に裕仁や百武侍従長は驚いていた。
だが一番驚いていたのは高松宮本人だった。
「ですが、”勝ち”ではなく”勝たず此方の条件を提示し受け入れられる状況”を作ることは出来るでしょう。”早期講和”これしか我々の未来はありませぬ。」
高松宮ははっきりと言った。勿論保証など無い、山本にも話していない。
だが今言える言葉はそのほかに見つけることは出来なかったのだ。
「その言葉だけでもなんと心強いか・・・」
裕仁は涙が堰を切ったように流れ出した。百武侍従長は高松宮に目配せをした。高松宮は察し、退席した。
裕仁は数分泣いていたが差し出されたハンカチで涙をぬぐい百武侍従長に、
「百武よ、首相を呼んでくれ。」
と言った。その目にはもはや弱々しい憂いは無く、確かな、何かを覚悟したかのような熱意がこもっていた。
いつもご愛読ありがとうございます。
後書きはまた今度付け足します(汗)




