二十二話 電文
アメリカ・ワシントン 12月7日
時間は午後8時、野村駐米大使はアメリカの要人と会食をしていた。日本とアメリカの全面戦争を防ぐべくまずは下地から埋めていこうとしていた。この世界でも日本は中国に進出、多くの国から批判を浴びていた。といってももっぱら言っていたのは列強たちであったのだがー
ガタン、バタンとドアを乱暴に開け一人の男が店に入ってきた。その男は野村を見るや野村に真っ直ぐ向かってきた。その後ろからボーイがその男を止めるかのように羽交い絞めをしてきた、未だにアメリカには多くのギャングがいるのだから店の中で暴れられたら困ると感じたのだろう。
「井口、井口じゃないか。ボーイ、離してやってくれ。彼は私の友人だ。」
野村の声を聞きボーイは井口に申し訳ありませんでした、と言い残し去って言った。
「で、井口何かあったのか?」
「何もかくにもありません、大使今すぐ大使館へご帰宅ください」
めったのことでは慌てない井口が慌てているのだ。野村は相分かった、と返答するしかなかった。
会食をキャンセルして野村たちはタクシーを拾い大使館へ急行した。
タクシーの中で野村は再三井口に何があったのか聞いたが井口は頑として口を開かなかった。そうこうしているうちにタクシーは大使館に着いた。
「皆いったい何があったのだ?」
野村は部屋に入るや否や着ていたコートをハンガーにかけながら問うた。
官僚全員の顔は暗く葬儀が始まるような静けさだった。
「野村君、来ていたかね」
栗栖三郎外交官が部屋の奥にあるソファからゆっくりと立ち上がった。
後ろには彼が火を入れたのか暖炉がよく燃えていた。
「栗栖君、いったい何があったというのだ?説明してくれないか?」
うん、といい栗栖は野村に一枚の紙切れを渡した。
そこには速記で汚いが毛筆で何行にも渡った文字の羅列があった。
アメリカ大使館へ送ル
ワガ大日本帝国ハ十二月八日未明呉海軍基地ニ敵戦闘機・爆撃機ニ依リ壊滅的ナ状態ニ陥レタリ。
~中略~
以上ノ文ヨリ敵国ナルモノハ’’亜米利加’’ト仮定スルナリ。
ソチラニシテハ事態ノ解明、国際連盟ノ採決結果ヲ知ラセ給エ。決シテ上記ノ国ガ決マッタトイフ訳デハ非ズ、慎重ニ行動サレタシ。
日本総理大臣 阿部伸行
電信員 真壁陽一代筆
全てを読み終えた野村はふっ、と息を吐いた。
「井口、すぐに日本政府に再度『詳細知らせ』の電文を!
栗栖君、我々はホワイトハウスに行くぞ!総員キビキビ動け!!かかれ!」
「おう!!」
今日本大使館は動き出そうとしていた。
野村は全員の動きを見て一つ頷き誰にも見られぬよう日本から届いた電文をそっと暖炉にくべた。
そしてそれが燃え尽き灰になるまで野村はちっとも暖炉から離れようとはしなかった。
彼の努力、日本の努力は無駄になったといっても過言ではないだろう。
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次回作は11月10日投稿となります。




