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汝人間なりや否や  作者: killy
礼状
31/31

04

1月11日記

本日は、4話同時更新です。

よろしければ、前の話たちもご笑覧くださいませ。

 目ざめた空我は、ゆっくり体を起こすと、無表情で周囲を見回した。

 パソコン、テレビ、各種ゲーム機が乱雑に散らばっているそこが、自分の部屋だと確認した彼は、ベッドわきの床に立方体状に積まれた札束に無感情な一瞥をくれると、そのまま部屋を出た。


 広い家には空我以外誰もいない。


 仕事に忙しい彼の両親は、空我が中学にあがる頃に、それぞれの仕事場近くに仮眠のためのマンションを買っており、最近ではこの「自宅」にはほとんど帰ってこない。

 1日おきに、昼ごろにやってくるハウスキーパーは、契約通りに空我の部屋以外の場所を掃除し、洗濯籠に入れてある洗濯ものを洗い、二日分の食事を作って冷蔵庫に入れると、帰ってゆく。

 空我が何をしていようと、何もしていなくても、ハウスキーパーは気づかないし気にしない。


 3日間、空我が家を空けていたことに気づいたものは、誰もいなかったようだ。


 空我は台所に入ると水を飲み、冷蔵庫を開けてハウスキーパーが作り置きして云った献立を眺め、……結局何も取りださないまま冷蔵庫を締めると、棚からカロリブロックを取りだしてもそもそかじった。

 粉っぽいビスケット状の食品をかじりながら、空我は、この3日間の出来事を思い返す。


 幽閉されたという特殊環境下で、自分が生き延びるために、人狼を探し出して殺せと命じられ、混乱する人々。

 それを超然と見物する主催者。

 異常な状況におかれても、どうにか自分を保とうとする人たち。

 対照的に、我欲をむき出しに動く人々。


「面白かったな」

 ぽつり、呟いた声が、無人の台所に響いた。


 これまでやったどんなゲーム、どんな遊びよりも、あの環境は空我を興奮させた。ビデオゲームを進めるふりをして広間に陣取った空我は、わくわくしながらあの『ゲーム』の展開を眺めていたのだ。


 ただひとつ、空我に不満があるとすれば、

「何で、実際に殺させなかったんだろう」

 全員が集まるミーティングルームか、特別それ用に作った処刑室に首つり台を設置して、犠牲に選んだ人間を、参加者自身の手でつるさせる。

 もちろん人狼に選ばれた方にも、夜間に自分でいけにえを殺害させる。

 その方が絶対に、もっと面白い展開が起きたはずなのに。

「俺だったらそうするな……」

 空我は、「自分だったらそうする」という『ゲーム』ルールを頭の中で組み立て始める。


 どうせなら『ゲーム』をさせられるのは、自分が生きることにどん欲で、かつ社会のルールを順守することに慣れ切っていない、10代始めから半ばの少年少女が良い。

 今回はまったく知らない者同士が集められたけれど、仲の良いクラスメイトを集めたらどうなるだろう。

 自分が死なないために、自分の親友を殺す『ゲーム』

 自分が生きるために、自分の友人を騙しつつ、自分の友人が自分をだましていないか腹を探り合う『ゲーム』。

 彼らはどんなふうに『ゲーム』をするのだろう。

 「ごめんなさいごめんなさい」なんて泣きながら友人の首を絞めるのだろうか。

 「こんなことをするのは、全部このゲームのせい。ゲームに命じられたから、殺すんだ。私が悪いんじゃない」などと云い訳しながら自分の親友を殺すのだろうか。


「……面白そう」


 やってみようかな、と空我は思う。

 金はある。今回獲得した10億が。

 計画をたてる時間も、ある。どうせ何もしていない暇人だ。


「……よし」


 空になったパッケージを握りつぶして、空我は頷いた。

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