ちょっと、もー! ダメってばー!!
二話です
宜しくお願いします
「二宮くんがどうしてここに……!?」
なぜか戦慄する女子高生。制服からうちの生徒のようだった。
「えっとー……」
俺は困惑する。俺は彼女のことを知らないが、どうやら彼女は俺のことを知っているらしい。なぜ彼女は俺のことを知っているんだ?
「めぐ、これは一体どういうこと?」
キッと森さんのことを睨む。あれ? 森さんの妹ではない?
「彼が新たな家事代行のスタッフさんです」
「え゛……。うそ」
「でもほら見て下さい。とても綺麗に整頓されています。あれだけの量を1時間半で、私達でもここまでは出来ません。他の方でもここまで早くは難しいでしょう。仕事は確かです」
「そ、そうね。確かに綺麗な部屋になってるわ……。ん、ちょっと待ってめぐ。ここにあった白のパーカーは誰が片付けたの?」
「もちろん、二宮さんです」
「ここに合った赤のワンピースは?」
「はい、二宮さんです」
「え゛……ちょっと待って??も、もしかして……ここに散らかってた、お気に入りのパ……パ、パ、パ、パン……下着たちも……」
「はい、すべて二宮さんが私の指示の下、迅速に片付けてくれました」
「………」
「あれ、でもここは森さんの部屋でしょ?」
「いいえ。ここは私の部屋ですー!!」
ぎゃー! と彼女は大声を上げる。
「二宮くん、悪いけどあなたクビ!!」
えーーー!!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなりそんなこと言われても困る。そもそも君は誰なんだ!? 確か契約者の名前は森さんになっていたはずだ」
「ああ、説明がまだでしたね。この方は日野本グループの総帥のご令嬢、日野本香澄さまです」
あ、思い出した。今日学校の廊下で見た娘だ。
「じゃあ契約者が森さんなのは……」
「日野本は珍しい苗字ですし、そもそもこの辺りで日野本を使ってしまうと、運営会社にここが日野本グループの人間だとバレてしまい、変に意識されても困りますし、万一お嬢様に傷がついてもよくありません。ですのでお嬢様代理で私の名前にしたのです」
「なるほど……」
あらかた内容は理解した。しかし……彼女、日野本さんはキッとこっちを睨んで、ずっとほっぺを真っ赤に膨らましてプルプルと震えている。よっぽど不満なんだな。しかしここで仕事を切られると我が家の生活が困窮する。それは困る。なんとか切り抜けなければ……。
「落ち着いて下さいお嬢様。ここまで仕事ができる方はそうはいません。それに依頼した家事代行の変更はこれで6度目ですよ」
「………」
「お嬢様、ひとまず料理を召し上がって下さい。お口に合わなければ致し方ありません。二宮さんには申し訳ありませんが、今回だけの契約にさせてもらいますので」
「……そうね。せっかく料理まで頼んだのにここで契約解除は申し訳ないわね。分かったわ、食べます」
くっ、渡りに船じゃなかった……。これだから金持ちは自分勝手で困る。
無言で席に座り、少し険しい表情をしながら日野本さんはテーブルに置いていた箸で鯛の身をほぐして小さな口に放り込んだ。そしたら彼女は目を見開き一言。
「美味しいわ……」
そこからはスムーズだった。小さいながらももぐもぐ食べて、あっという間にマダイとカレーを平らげた。
「ごちそうさまでした」
「良かった~。美味しかったのですね」
「え、ええ……。! いいえ! 今は仕事を終えてお腹がすいてただけです。それだけよ、それだけ!」
「はいはい」
森さんと談笑した後、恥ずかしそうにちらっとこちらを見て、すっとマジメな顔になる。
「二宮くんあなた、学生でしょ? 本来なら学業に時間を当てるべき年齢なのに、働いているなんて。何かわけでもあるの?」
「え? いや……別に」
細かくわざやわざ俺のうちのことを言うつもりはなかった。でも彼女の真摯な目を見ていると、
「……。うちは両親に先立たれて、妹もいるから少しでも生活費を稼ぎたいと思ってバイトしているんだ。それだけだよ。それ以上の深い理由はない」
「………」
彼女は森さんと目を見合わせて、俺と交互に見る。そして少し考え、ふうと一呼吸。
「よし、分かったわ。困ってる同級生をそのまま見過ごすなんて、日野本家の名が廃るわ。分かりました。二宮くん、しばらくうちの家事代行を宜しく頼みます」
日野本さんは席を立って俺と握手をする。こ、これが上流階級。所作振る舞いが普通と違う。
「それと、その……その代わり……この部屋のことは私との秘密よ。学校の人たちにはバレたくないから。いい、分かった?」
「え? ああ、そりゃそうだ。守秘義務もあるし勿論だ」
「そう、ありがとう」
「確かにあれはものすごい形状だった」
「え!? ちょっ、もー! バカーー!!」
俺と森さんでふふふと笑った。
「って、あーーーーー!!!」
「なに? 大声だして?」
「今何時?!」
「えーと、22:48……。あ、そうか。まだ学生だから22:00過ぎるとまずいのね」
スマホをチェックすると、運営のスタッフさんから大量の鬼電がかかっていた。
「あ、はい。無事22:00には終わって、はい。もう家に帰ってます」
とペコペコ謝る俺。とほほ、これじゃあサービス残業じゃないか……。
「じゃ、じゃあ帰ります」
「あ、待って。メグお願い」
「分かりました。二宮さん、向こうの会社には内緒でお願いします」
ポンと手に数枚のお札が。数えると10万円。
「ええ、さすがに会社外からはもらえませんよ!!」
「ええ、普段このようなことはしないのですが、時間超過で申し訳ない上、これからもの気持ちを込めて今回だけは受け取って下さい。今後は正規のルートのみの支払いにしますので」
ちらっと日野本さんを見ると、優しく笑っていた。
「二宮くん、これからも宜しくお願いします」
キリッとしつつぱっちりした二重でしっかりした整った眉、鼻筋もスッとして生来の気品と上品さと合わせて、すごい育ちの良い綺麗な美少女だった。
さすがは校内のミスコンで一位になっただけある。多少なりともドキッとした。
帰宅中、自転車のハンドルを握りしめ、あの時に触れた束の感触を思い出す。
お金持ちってすごい良い人たちなんだ。
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