家事代行始めます
久しぶりの新連載です
宜しくです
「今月もお金がない!」
俺は家族の通帳を両手で握り、印字された残高16,248円をじっと凝視する。
次の振込まであと残り5日。なんとか持ちこたえねば!!
二宮はじめ16歳、可愛い妹二人と絶賛貧乏生活中だ。
両親が事故で死んでもう3年になる。毎月、遺族年金をもらって生活をしている。毎月のお金管理は俺がしているが、やはり妹達も年頃なのだ。上は中学2年生、下は小学3年生。部活代、オシャレ代、遊び代など……お金がかかるかかる。
「はあ、バイトでもすっか……」
そして俺は家事代行のアルバイトを始めた。
◇◇◇
ここは県立北高校。県内でも屈指の進学校だ。俺はそこの理数科に在籍している。校内には満開の桜が咲いて、花が校庭のそこかしこに舞っている。ここに入ってもう二年目の春を迎えた。
「は~じめちゃん」
と親友の松下が声をかける。顔はイケメン、髪はツーブロック。そして長い方の髪の毛をいつもいつも鏡の前で気にしてるおしゃれな男だ。そんな何mmを気にしたとて、んな変わらないと思うが……。
中学までは俺と同じで、サッカーしてはよく泥んこになっていたのに、高校になって突然色々と髪型やら服やら気にするようになった。まったく人間変われば変わるものだ。
今も前髪をいじりながら俺に話しかけてくる。
「文ちゃんは元気?」
文は上の妹だ。
「変わらず元気だよ。最近、バトミントンで遠征やら、練習試合とかで費用がかかって仕方ない」
「なら、穂南ちゃんは?」
穂南は下の妹。
「穂南は小三だからまだ部活はやってないが、でも服には力が入ってて、友達とデパートでうろうろする時も服を見つけては、後で俺に買ってとねだるから、これはこれで出費がかかる」
「お前と話すと、すぐ金の話だ」
「お金がないと生活できないぞ」
「高校生なんだからさ、もっと女子の話しようぜ。恋愛の話しようぜ。花の高校生なんだからさ、もっと青春しないともったいないぞ?」
「んなこと言ったって青春で腹はふくれん」
「なら俺のこの前のエモい彼女との話を聞いてくれ。いかにも年頃の男女で起こる涙なしでは語れないすれ違いな物語を」
「ん?フラれてもう元カノになったとか言ってなかった?」
「おい。もう良い思い出と化したんだ。傷を抉るな」
「ん、分かった」
ぐずぐずに涙を垂れ流しながら、おいおいと辛そうに泣く親友の失恋話を聞いてると、廊下から歓声が上がる。
「日野さんだ」
「おー、今日も綺麗だな~」
ちらっとしか見えなかったが、黒髪ミディアムの女子が廊下をすっと通ったのを見かけた。
「あれは……」
「あれが日野本さんだよ。ほら、日野本化学工場やら日野本アグリカルチャーやら日野本研究所を統括してる日野本グループ社長のご令嬢だよ」
「ふーん。あれがか……」
「あれが、とはなんだ!」
と新たに話に入ってきたのが山田である。黒縁メガネでド近眼、アイドルオタクで好きな話になると止まらないが、いたってマジメな奴だ。
「全くなにも知らないやつだ! いいか、彼女は去年のミスコンで1年生ながら、他の先輩方をごぼう抜きにして圧巻の優勝を果たした美少女なのだ。それだけじゃない。そもそも日野グループは野菜と医療品の大手メーカーで、品種改良や薬品を研究も惜しまず日々新たな製品を作っている県下有数の大企業なのだ。この会社のお陰でいかに我々の住んでいる成戸市が潤っているか。これは噂なんだが、成戸市のど真ん中にすごい塀に囲まれた一軒家に住んでるとかないとか……」
「ふーん。んな金持ちなら私立の高校に行けばいいんだよ」
「あらあら~。やさぐれてますぜー。松下の旦那~」
「そりゃそうですよ山田さ~ん。浮いた話より嫌な話なんですから。お金持ちの話は~」
「だー、やかまし!! チャイムなるぞ! はやく席に行け!!」
「「はーい」」
ふん。まったく好き勝手言いやがって。恋愛なんて、俺にはもう無用の長物だよ。
学校を終えた俺はいつものバイト先に向かう。そこは一人暮らしのおばあちゃん。10年前に旦那さんに先立たれてから一人で切り盛りしていたが、高齢になったので家事代行として俺を雇った。気さくで話しやすいおばあちゃんだった。
「へ?入院?」
「ええ、そうみたいです」
と家事代行会社のスタッフ。どうやらおばあちゃんの娘さんに連絡したら、そう返事が来たそうだ。おばあちゃんは機械オンチなので依頼主はその娘さん。しかし一緒に住んでなかったので、こちらへの連絡が遅れたそう。
失業してしまった。これはまずい! 急いで別の代行先を見つけないと。俺の慌てぶりを聞いてか、運営スタッフも気を使ってか、
「そういえば、まだ担当が決まっていない代行先が残ってました」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。あなたなら、仕事の評価も良いので大丈夫かと思います」
そこは県の中心部、渭東市にある高層マンションの一室だった。しばらく待っていると、向こうも急いでいるのか了承してくれたようだ。
依頼主の情報が届いた。時間は19:30に現地集合。
「名前はモリ・メグミさん」
ど、どんな人だろう? 県下でも有数の高層マンションに住んでいるんだ。しかも女性ときてる。一人で住んでいるのかな? 独身? しかし家事代行なんて頼むのは大体共働きの人だ。両方家事ができないほど忙しい、となるとキャリアウーマンかもしれない。夫婦でキャリア組なのか? 金持ちは好きではないが料金が割高なら話は別だ。是非にもそのうまい話にのろうではないか。
依頼は掃除、片付け、料理となっていた。
部屋は10階の1012号室。チャイムを鳴らす。緊張するな……。出てきた。お、スーツ姿の女性。若い女性だ。髪は後ろで束ね、キリリとした目、柳のような整った眉毛、鼻は高く、メガネをかけており、いかにも仕事ができそうなキャリアウーマン。パンツスーツから分かるお尻から腰のラインは細くスラッとしていた。
「こ、こ、ここんばんは。二宮はじめと申します。宜しくお願いします」
「こんばんは二宮さん。家事代行の運営会社からはすごく好評のスタッフさんと聞いています。どうぞ、中に入って下さい」
「し、失礼します」
綺麗なスーツから基本的には自分でできるのだろう。もしかしたら仕事のために、時間的に少しだけ家事が出来ないのかもしれない。もしかしたら楽な仕事かもっ。
全然そんなことはなかった。シーツからソファから、机から、ベッドから、ものすごい量の服が散乱し、お菓子の袋も散らばっていた。仕事しがいのある一室である。
「よし……やるか!」
森さんに収納する場所を聞きながら、服を収めていったら15分後。問題が起きた。
こ、ここここれは、ピンクのパパパパン……、
僕は、緊張しながらギギギと彼女の方を向くとニコッと笑う。初めて会ったマジメな顔から一転、彼女は優しく微笑んだ。
こ、これが大人の余裕か……。俺はピンク色の可愛らしいパンツを眺めながら、畳んで置くべき収納場所に収めた。
1時間30分後。いちおうすべての部屋の片付けと掃除を終えた。21:04になろうとしていた。
「流石です。お話通りの実力です。時間もぴったりですね」
「いえいえ、後は料理ですね」
「ええ、今から少し仕事がありますので、21:50にまたお伺いします。あまり時間はないですが可能ですか?」
「簡単なものでも良いのなら……」
「問題ありません。具材は冷蔵庫にあるものを使って下さい」
「分かりました」
そして冷蔵庫の具材を見る。魚と野菜と豚肉とバターと牛乳と、カレー粉。
「よし」
そして気づけば50分経過。カレーの良い匂いが部屋中に漂っていた。
「お、これは……」
仕事を終えたのか、別の一室から森さんが出てきた。
「どうしましょう。そろそろ皿に盛り付けましょうか?」
「ええ、お願いします」
フライパンにはマダイの醤油バター焼き、鍋の方はもちろんカレーを作った。ご飯も炊き上がったのでお皿に盛るか。
「よし、テーブルに置きました。マダイの醤油バター焼きとカレーです。温かい内に森さんどうぞ」
「ありがとう。でも食べるのは私じゃいわ」
「え?」
「そろそろ帰ってくるわね」
バタンと奥からドアの音がする。
「ただいまー」
と女の声。少し高めで若い声。森さんの妹か? 俺はその彼女と目が合った。彼女がものすごい驚きの表情をした。
「二宮くん、あなた……! なんでここに……!?」
え? ん? あ!! 見たことあるようなないような……誰だっけ??
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