85 雪は普通に重いと思うんだ
ひとまず『寒さ軽減』『雪上移動』『罠感知』を創り、少し歩いてみる。
:お?動き滑らかになったな
:雪の上歩いてない?さっきまで沈んでたよね?
:何があったんだ
「いつも通りスキルの応用。とりあえず移動に関しては何とかなりそう。あとは戦闘が問題かな」
:出た万能ワード
:なんのスキルをどう応用してるのか教えてくれ
:主が大丈夫ならそれでヨシ!
:どんな魔物がいるのかな
環境対策はできたので、さっき遠くに見えた魔物を目指して移動していく。
そして数分後、はっきりと魔物が見えるところまでやってきた。
「あれは...氷の鎧?」
そこにいたのは、氷でできた大きな重戦士のようなやつだった。
身長は2メートルオーバー、分厚い鎧を着ているような輪郭をしていて、両手に氷の大剣を持っている。
:なんか氷像アートみたい
:怖いとかよりも、綺麗だな
たしかに一見すると綺麗な作り物のように見えるが、その実態は普通に魔物だ。
鑑定スキルには、こう記載されていた。
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種族名:グラキアルマ
個体名:なし
状態:正常
レベル:111
スキル:剛力・冷気噴射・圧飛斬
難易度2ダンジョンの111階層以降に生息する魔物。
力が強く防御力もあるが、動きは遅い。
斬撃は効きにくく、打撃・魔法が有効である。
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(圧飛斬持ちか...)
圧飛斬は、斬撃を飛ばす中距離攻撃だ。
見た目は騎士のようで近距離タイプに見えるが、離れた相手への攻撃もできるみたいだな。
そう思っていたところで、相手も俺に気づいたようで大剣を構えてきた。
まだ距離は10メートル以上ある。それでも、相手は大剣を大きく振って来た。
(いきなりか!)
空気を切る音が聞こえて、空間の歪みのようなものが迫ってくる。
俺は落ち着いて盾を構えて防ぐが、盾から伝わる衝撃は思いのほか重かった。
飛ぶ攻撃は、基本的に距離が離れるほど威力は落ちる。
それに圧飛斬は俺も使っていた時期があるのでわかるが、10メートル以上離れているこの距離なら、威力は激減するはずだ。
それなのにこの威力。鑑定の表記通り、力は相当強そうだ。おそらく、大剣での直接攻撃を盾で防ごうとしたら吹き飛ばされるだろう。
:なんだ?なんか飛んできた?
:飛ぶ攻撃かな?飛斬とか飛打とかってあったよね
:結構射程距離あるな
氷戦士は大剣をもう一度構え、振る体勢に入る。このまま圧飛斬を連発してくる気か...。
なら、こっちも遠距離攻撃だ。魔法に弱いらしいので、無難に火魔法で攻撃を仕掛けてみよう。
マジックバッグから火魔法の杖を取り出し、創造スキルで『魔法威力増加』を創る。
そして相手の圧飛斬を再び盾で防いでから、炎の牙を出す『炎鋭牙』を放つ。
燃え盛る鋭い牙が氷戦士に向かっていき、当たると思った直前。
ビュオオオオ!と、氷戦士から吹雪のようなものが噴出され、俺の魔法は一気に縮小した。
そして小さくなった炎鋭牙は、大剣でいとも容易く受け止められてしまった。
:吹雪!?
:あの魔物がなんか出した?
:吹雪を起こす魔法、みたいな感じ?
(あれが冷気噴射か)
スキル欄にあった、冷気噴射。それで炎魔法は防がれてしまう、ということか?
なら炎以外の魔法...雷を使ってみるか。雷も、冷気噴射で防がれてしまうのかどうか確認だ。
杖を持ち替えて、空から雷の槍が振ってくる魔法である『天雷槍』を放つ。
氷戦士の真上から、ゴロゴロと音がなる。
その音に反応したのか、氷戦士は上を見て大剣を構えた。
そして雷の槍が落ちてきたタイミングに合わせて、大きく大剣を振る。
すると、スパアアアン!と、雷の槍が二つに割れた。
:えええええええ!?
:魔法を割ったぞ!?
:どんな剣術だよ!
:いや、さすがに何かのスキルじゃない?
「マジかよ...!?」
思わず声に出して驚いてしまう。そしてすかさず、鑑定を発動。対象は魔物ではなく、持っている武器に対してだ。
(やっぱりか...魔法切断がついてる)
魔物が持っている大剣には、魔法切断の付与がされていた。
これまでは、通常魔物の装備に付与されている物は『頑丈』や『耐久アップ』『斬撃強化』など、シンプルな防御・攻撃系がほとんどだった。特殊な付与がされているのは、ボスくらいのものだ。
だがこの階層は、通常魔物の武器に魔法切断の付与がされている。ここからは、相手の装備にも気を付けなければいけない、ということだろうか。
(魔法攻撃を選んだのは失敗だったか?)
魔法を使っても、大剣で切断されてしまう。
となると、近距離の打撃が正解だったかもしれない。
(でもスキル枠がな...)
現在創っているスキルは、寒さ軽減、雪上移動、罠感知、鑑定、気配感知、魔法威力増加の六つ。
ボス部屋の時に使っていた高速回復はすでに入れ替えたが、そこで入れ替えの制限が来てしまった。
過剰駆動の反動のせいで、今はこれ以上スキルを創ることはできない。入れ替えることもできない。
この状態で近距離の物理戦闘ができるかどうか...。
(動きは遅いって表記があったし、攻撃を避けるのはなんとかなるか)
表記にもあったし、実際見ている限りでも動きはかなりゆっくりだ。その分威力はあるが、避けてしまえば威力は関係ない。
(...ちょっとリスクはあるが、近づくか。最悪、危なくなったら即撤退も視野に入れておこう)
俺は帰還の宝玉をいつでも使えるようにしておきながら、氷戦士に近づいていった。
途中で飛んでくる圧飛斬はしゃがんでかわし、10メートル以上の距離を一瞬で詰める。
氷戦士は大剣を振りかざし、下ろす。しかしその動きは遅く、余裕を持って躱すことができた。
振り下ろした場所から、ものすごい風圧が飛んでくる。それに冷や汗を流しながら、俺は氷戦士に杖をくっつけた。
(魔法威力増加を創ってるから、打撃じゃなくてゼロ距離魔法だ!)
ゼロ距離から魔法を放たれたら、いくらなんでも防ぎようがない。俺は『獄炎縛』という炎の拘束魔法を放ち、氷戦士を炎の渦の中に閉じ込めた。
(炎鋭牙!貫炎槍!大炎塊)
拘束されている氷戦士に向かって、炎魔法を撃ちまくる。周りの雪は溶けて水となり、周囲が熱されていく。
そして炎魔法の連打をくらった氷戦士は、沸きあがる蒸気と共に粒子化していった。
:おおおおお?勝った?
:煙たくて見えん!!
:今粒子出てたよな!?
「ふーーーーー」
魔物が粒子化したのを見届けたあと、大きく息を吐く。
初戦闘とは言え、なかなか手ごわかった。
101階層の魔鬼の時もそうだったが、ここまで来ると通常魔物でもなかなか手ごわい。慣れるまで苦労しそうだ。
「...うわ」
深呼吸した後にドロップアイテムを確認...したのだが、残念なことに転移石は落ちていなかった。あるのは魔石だけだ。
:どうしたの?
:あ、もしかして転移石なし?
:あちゃーーーーーー
:仕方ないとは言え、残念
10階層ごとの最初の階層は転移石が落ちやすいと言われているが、それでも絶対ドロップではない。とはいえ、今回は出てほしかったな...。
次にこの階層からスタートするためにも転移石は確保しときたいので、しょうがないのでもう一体魔物を探すことにする。
幸い見通しはいいので、見つけるのはすぐのはずだ。
「いたいた...ん?」
数分後にまた同じ魔物を発見したので近づいていこうとすると、途中に『罠感知』に反応があった。
反応元は...少し先の地面だ。
(雪に埋もれていて見えないな)
何があるのか確認したいが、雪があるため鑑定が通らない。万全の状態なら透視など創れるんだが、今はそれもできない。
(まあ、炎で溶かせばいいか...いや、それより水の方がいいか)
先ほどは炎魔法を撃ってる際に熱で雪が溶けていたが、ただ溶かすだけなら水の方が手っ取り早いだろう。
ということで適当な水魔法を、罠感知の反応がする場所に放ってみる。
すると、
ガチャン!
という音がした。
:何の音?
:おもむろに水かけだしたと思ったら
:雪の下に何かある?
:うわ、まさかトラバサミってやつ?
水をかけて溶かした場所には、コメントの言った通りトラバサミが置かれてあった。
シンプルな罠だが、普通に雪に埋もれて見えないのは危ないな。水の衝撃で起動したのか。
というか...
「トラバサミって、重さで起動するんじゃないのか?今起動したように見えたけど、それまで雪の重みがあったのに起動してなかったのか?」
素朴な疑問を口に出してしまった
:そこはまあ...
:罠の専門家じゃないのでわかりません
:ダンジョンパワーで雪じゃ発動しないようになってるんじゃない?
「ダンジョンパワー...そうか...」
そういわれてしまえば納得するしかない。そもそも俺の知識が間違っていて、特別な起動方法がある可能性もあるし。
とにかく今重要なのは、『雪に埋もれたトラップがある』ってことだな。
(やっぱり罠は継続か...。罠感知は外せないな)
早いうちに知れてよかった。しばらく罠に出会わなかったら罠感知を外していたかもしれないし、その状態だとこのトラバサミを回避するのは難しかっただろう。
トラバサミなんて絶対くらいたくないぞ。
そうして安堵した後、2体目の魔物を倒したところで無事に転移石を確保できた俺は、その日の探索を切り上げた。




