79 あなたも視てしまいましたか...
ダンジョン106階層
106階層からようやく構造が変わって、通路や部屋がある室内マップになっていた。
:いつもの風景じゃない!?
:さすがにあれは単調だったもんな。変わってよかった
:つっても相変わらず暗いな
暗いのは変わらないが、それはこれまで通りなので問題ない。
探索の感覚としては、洞窟階層に似ているだろうか。通路にある部屋からいきなり敵が出てこないか、曲がり角の先に敵はいないか。そういった基本的な注意をしていれば大丈夫そうだ。
魔物も変わり、大型の犬の魔物が出てくるようになった。「魔犬」という、見たまんまの種族だ。
見た目としては、黒紫の体毛に角がついている大型の犬。魔鬼と同じく、角から属性攻撃を出してくる。
あとは、噛みつきに毒が付与されているのが特徴だな。
:ワンちゃんだ
:ちょっと禍々しいけど、犬か
:狼じゃない?犬なのか
:犬と狼の見た目の違いがあまりわからん
魔鬼よりもすばしっこいのが厄介ではあるが、さすがにこの階層まで来て『四足歩行でやりにくい』という理由で手こずることはない。
囲まれたら苦戦するかもしれないが、幸いにも106階層では単体でしか出現しないようなので、この階層はそれほど問題なく突破できそうだ。
と、思っていたのだが。
ガコン、と。通路を歩いていたところで、足元から音がした。
「ん?」
見てみると、足元の石畳が凹んでいた。まるで何かのスイッチを押したかのように...
そして前方から、ゴゴゴゴ...という音がする。
前を見てみると、一体どこから出てきたのか、通路にぴったり収まるサイズの巨大な丸い岩が転がってきていた。
:これは!!
:漫画とかでよく見るやーつ!
:岩が転がってくるトラップだ!!
:古典的だけど普通に危なくねえか!?
そう、漫画やアニメでよく見かけるようなトラップが作動していた。
一瞬たじろいでしまうが、少し後ろに部屋があるので落ち着いてその部屋の中へと駆け込む。
そして部屋へ入ったところで、先ほどまで俺がいた通路を巨大な岩が転がっていった。
「...終わりか?」
岩が転がっていったあとは、いつも通りの静寂が訪れていた。
:ここまできて岩が転がるだけの罠て
:っていうか、トラップって珍しくない?これまでほとんどなかったよね?
:言われてみれば。これまで罠と言う罠は見てない気がする
106階層という深層にしては単調な罠だと思ったが、コメントを見て俺も気づいた。
たしかにダンジョンは、これまでトラップというものがほとんどなかった。
擬態する敵がいて、不意打ちをされたりすることはある。
だが、岩が転がってきたり矢が飛んできたり落とし穴があったり、そういった無生物が襲い掛かってくることはなかった。
「これから先は、トラップもあるってことか?」
:なんでわざわざ106階層から
:こういうのって、普通は10階層か20階層で設置しとくもんじゃね
:いや、全然なくていいんだけどな。危ないし
トラップが古典的、というかわかりやすいものだったのも、初めてのトラップだったからかもしれない。
まあ罠とは違うかもしれないが、101階層の時点から『光を使うと敵に襲われる』っていうことはあったからな。ここからは環境にも注意をする必要があるかもしれない。
(トラップは、鑑定で見破ることができるのか?)
罠と言うのは、基本的には何かしらで見破ることができるようになっている...はずだ。
そう思い歩きながら『鑑定』を使用していると、トラップを発見することができた。
今度は壁にスイッチがあり、それを押すと矢が飛んでくるらしい。これもまた古典的だな。
(となると、今後は常時鑑定を発動させておく必要があるか...)
トラップは、鑑定で見破ることができる。
なら対策としては、鑑定をずっと発動しておくことだ。
(鑑定、ずっとやってると疲れるんだよな。いろんな情報が入ってくるし。)
とはいえ、さすがに何も対策なしで進むのは危ない。多少疲れるにしても、リスクは回避していかないと...。
(いや違う。既存のスキルに縛られるな。)
そう思っていたところで、別の考えが思いつく。
鑑定でトラップを見破るのが疲れるなら、それ以外の方法で見破ればいいじゃないか。
ずばり、『罠感知』スキル。もしくは『罠看破』でも『罠発見』でもいい。とにかく、そういった類のスキルを創れば負担は少なくできるんじゃないか。
(...何かあるな)
そしてそれを試したところ、見事的中。
道中で違和感と言うか、スキルが反応する感覚。それによって罠を発見することができた。
(よしよし、これだな。柔軟な発想が大事だ。縛られないようにしないと。)
:なんか主ご機嫌だな
:さっきから壁とか床とか注意してるね
:トラップマニアなのか?
「いや、スキルの応用で罠を見破れることがわかったから。それがちょっと嬉しくてな」
:出た、スキルの応用
:ほんとはスキルじゃなくてもスキルの応用って言ってそう
:それ言われたら、そうなんかとしか言えない
この階層くらいの罠であれば、最悪かかったとしても逃げたり防いだりすることはできる。
だがさらに深層に行けば、即死級の罠がある可能性もある。なので罠の対策はこのあたりの階層で慣らしておきたいな。
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罠を発見する慣らしということで、106階層からは少しペースを落として進んでいた。
そしてもうすぐ110階層に到達するというところで、珍しく佐藤さんから連絡が来た。
用件としては、『鈴木のことで会って話したい』ということだった。もしかして、また何か未来が視えたのだろうか...。
さすがに気になるので、その日のうちに佐藤さんと面会をした。
「お疲れ様です。急に連絡をして申し訳ございません。」
「いえ、構いませんよ。...鈴木さんは?」
今回は以前と違い、小さな部屋を借りての話し合いとなっている。
だがこの部屋には俺と佐藤さんしかおらず、肝心の鈴木さんがいない。
「それがこれから話す内容にもなるのですが...。まず、鈴木が倒れました。」
「え?」
佐藤さんは目を逸らしながら、苦い表情でそう言った。
「...体調不良、とかではなさそうですね。もしかしてスキルがバレて狙われたとか?」
「いえ、そういったものではないですね。精神的な疲労...という言葉では足りませんね。軽い精神崩壊に近い状態です」
「崩壊?」
なんだか不穏なワードを聞き、俺も眉を顰める。
「簡単にいうと、未来の映像を見てショックを受けて倒れた、という感じですね。」
「...どんな未来ですか?俺に関係あるんですよね?」
わざわざ俺に連絡をしてきたということは、そういうことだろう。
「ええ。精神的に参っており、話を聞きだすのに苦労しましたが。時間をかけて、なんとか絵に描いてもらいました。」
佐藤さんはそう言って、鞄から一枚の用紙を取り出して俺に渡してきた。
俺はその用紙を見て、額から汗が流れてくるのを感じた。
「鈴木は、それとあなたが対峙している場面を見て、それの恐ろしさに発狂して倒れてしまいました。」
そこには、歪な形で手足とも呼べないものが複数本のびている、異形の存在...。
俺も未来視で見た、あのバケモノが描かれていた。




