80 わかったようでわからない
少し短いです
「...どうしましたか?」
紙に書かれている、異形のバケモノ。それに顔色を変えた俺を見て、佐藤さんがそう問いかけてきた。
「...いえ、ただ者ではなさそうだな、と思いまして。対峙していると言いましたが、つまりこいつは生物ってことですよね?」
なんとか言葉を捻りだす。
鈴木さんの視た未来でも、こいつが出てきたのか...。
見ただけで倒れてしまうような、圧倒的な存在。やはりこいつはバケモノだ。
「そうですか。私からすれば、気味の悪いやつだな。くらいの感想だったのですが、見る人が見れば何か伝わるのかもしれませんね。鈴木曰く、生物らしいですよ。」
佐藤さんは淡々とそう言う。
まあそうだろう。こいつの恐ろしさは、絵で見たり話を聞いたりして伝わるものじゃない。
「生物ではありますが、魔物とはまた違うと思うと言っていました。こいつが視えたのも地上らしき場所だったそうです。ですが、こんな生き物が自然界にいるとは思えないので、十中八九ダンジョンから出てきたとは思うのですが...。」
イマイチ腑に落ちないといった様子で佐藤さんは言葉を続ける。
「実は今回のことは、鈴木からお願いされたのです。『どうしてもこのことはレイさんに伝えてくれ』と。こいつが出て来る未来を防ぐ...。それが無理だったとしても、こいつを野放しにしてはしてはいけない、と必死の形相でした。」
...その気持ちはわかる。俺だって、こいつの映像を見てから対策のために動き出した。
「...未来を防ぐ、と言っても、具体的な方法はあるんですか?」
「残念ながらそこまでは...。だから私も言ったんです。方法がわからないなら言っても仕方ないと。」
佐藤さんはやれやれと首を振りながらそう言った。
「ですが一つ鍵のようなものがありまして。以前言った白い女性、その女性が重要になってくるかもしれないとのことでした。」
「白い女性...」
前に言っていた、長い髪で肌の白い女性、か。
「そのよくわからない生物と、あなたと、そして白い女性がいる場面が視えたそうです。それ以外にも、あなたとドラゴンと白い女性がいる場面も視えたとか。なんにせよその女性も特別な存在だと思うので、早急に見つけ出したいと言っていましたね。」
このバケモノの場所に、その女性もいたのか。そして、ドラゴンとその女性...?
意味はよくわからないが、たしかにその女性もただ者ではなさそうだ。
「現在、できる限りで探索者のことを調べていますが、まだその女性は見つかっていませんね。何分、探索者の情報というのはデリケートなものでして。そう簡単にすべてを見ることができないのです。」
「白い女性、と言うくらいなので、海外の探索者の可能性もありますよね。」
「ええ。日本以外となると、調べるのはさらに時間がかかります。正直、見つけるのは望み薄でしょうね。」
多分、日本にはいなさそうな予感がしてる。そうなると海外だが、どういう経緯で俺はその女性と知り合うんだろうか...。東雲や影山みたいに、向こうから接触してくるのか。それなら待つしかないが...。
「ドラゴンと言うと、100階層でしょうか。100階層までたどり着いたその女性が、ドラゴンの情報を求めて俺のところを訪ねてくる。そして一緒にダンジョンに潜る、とかですかね。」
「あり得そうですが、鈴木が視たドラゴンは100階層のドラゴンとは少し違うかったらしいんですよね。似ているものではあったらしいですが。」
「そうですか...」
似ているが少し違う...。そうなると、アシュファンが強化されたということだろうか。
強化されて見た目まで変わるかは不明だが、そう考えるのが一番辻褄が合うな。
「この先の階層でまた違うドラゴンが出てくるのか、もしくはレイさんが訪れていない未探索エリアに、隠しボスのようなドラゴンがいるという可能性もありますね。」
「...結局予測の域を出ませんね。時期がわからないので、なんとも言えません。」
せめて何か月後か、何年後か分かれば...。それだけで全然違うんだけどな。
「他には何か情報はありませんか?」
「情報はこれくらいですね。あとは、光ったり爆発したり高速で動いたりが視えたらしいですが、鈴木の目ではよくわからないとのことでした。おそらくあなたとその生き物が、異次元の戦いを繰り広げているのでしょうが...。」
ふむ...。結局わかったことはそれほど多くない。『あのバケモノが危険』というのと、『白い女性が重要』ということくらいか。
とはいえ、あのバケモノの危険度が上がったのは間違いない。俺は精神が削られるくらいで済んだが、鈴木さんは見ただけで倒れてしまった。
そんなバケモノが地上に出てきたら、野放しになったら。人類どころかあらゆる生き物がパニックを起こすだろう。
あれは、そこにいるだけで災いを振りまく厄災だ。
「いきなりこんな話をして申し訳ございません。イマイチ要領を得なかったとは思うんですが...。」
「いえ、この先、謎の生き物が出てくるということがわかっただけでもありがたいです。」
「鈴木はかなり必死でしたが、私はあまりピンと来ていないんですよね。危険だと言うのはわかるのですが、それは前回の『魔物が地上に出てくるかもしれない』という時点でそうでしたし。あなたはどう思いますか?」
「危険ですね。」
佐藤さんの問いかけに俺は即答した。
「そいつは危険です。おそらく鈴木さんでなくとも、見た人は精神がやられてしまうでしょう。無事なのは、高レベル探索者くらいじゃないでしょうか。」
「...そうですか。あなたがそういうのなら、間違っていないのでしょうね。」
気を引き締めた顔で、そう言ってくれた。
「わかりました。こちらとしてもその認識でいきます。」
「お願いします。こいつの対策のために、協力を仰ぐこともあるかもしれません。その時はよろしくお願いします。」
「...なんでも一人でできてしまうあなたが、そう言うほどですか。それほどの何かを感じ取ったということですね。」
「はい。」
俺は頷いて答えた。
できる限りのことはするつもりだが、こいつは俺一人でなんとかなる存在じゃない。俺以外の力も必要だ。
そのためには、攻略を進めて魔物を防衛に使えるようにもしないと。
次は110階層だな。
...情報のために、また未来視も使ったほうがいいか?精神安定とかのスキルを創れば、なんとかなるだろうか。
怖いが、情報不足でやられてしまうくらいなら試した方がいいかな...。




