77 頼れる相手
「...どうしたの?」
俺が差し出したものを見て、三羽つばきが怪訝な顔をする。
横にいる歌と風雅れんげも、首をかしげている。
「70階層台、80階層の攻略に使える武器や付与素材だ。これを使って早く80階層を突破して、追い付いてきてくれ。」
「いや、いきなり渡されてもね。今までそんなことしてこなかったじゃない。どういう心境の変化?」
未来視を使用した数日後。俺は彩風三花に連絡を取り、攻略に使える物を渡そうとしていた。
あの時視えた未来。あの謎のバケモノと戦うかもしれない未来。
あの未来は回避したい。あんなバケモノと戦うなんて御免だ。
そのためには何をすればいいか。いくつか考えたが、そのうちの1つが後続のサポートだ。
100階層突破者を増やせば、ダンジョンの防衛に加わることができる...はずだ。
補佐システムは『100階層突破者があなたしかいないから、あなたに頼むしかない。』と言っていたので、他に100階層突破者がいれば、その人たちも異世界からの干渉者と戦うことができるはず。
あのバケモノがこのダンジョンを乗っ取りに来たとして、その時に少しでも戦力を増やせるようにしておきたい。
もしくは防衛の人手を多くすることで、『あそこのダンジョンは手ごわくて乗っ取るのは難しそう』と思わせて、侵略に来させないようにしたい。
「前に話した、異世界からの干渉。その防衛に力を貸してほしいんだ。」
彩風三花には、管理者空間や異世界からの乗っ取りのことは話してある。
なので、そのまま正直に力を貸してほしいと伝えることができる。
「たしか、しばらくは来ないって言ってなかった?何か状況が変わったの?」
「...今から話すことは、他言無用で頼む。」
佐藤さんや鈴木さんから未来視のことはできるだけ伏せるように言われているが、正直今はなりふり構っていられない。
「実は先日、ダンジョン省の人と話す機会があってな。ダンジョン省の中に、『未来視』っていう未来を視ることができるスキルの人がいるんだ。」
「未来視...?それ、とんでもないスキルじゃない?」
「ギャンブルに使えそう」
「ふーちゃん、真っ先に浮かぶ言葉がそれなの?」
いやまあ、未来視と聞いてギャンブルが思い浮かぶのは別に不思議ではないが、風雅が言うとなんかギャップがあるな。
「それでその人に、『魔物が地上に出てくる未来が視えたんだけど、深層探索者のあなたなら何か心当たりはありませんか』っていう風に聞かれたんだ。」
「...それって、未来でダンジョンが乗っ取られるって話?」
「多分そうだ。」
「ってことは、レイが負けたってこと?」
「いや、俺も地上で魔物と戦っていたらしいから、多分侵略に来たタイミングでダンジョンにいなかったんだと思う。そういう事態を防ぐために、100階層の突破者を増やしておきたいんだ。」
「よかった、そういうことですか。てっきりレイさんが死んじゃう未来が視えたのかと...」
歌がホッとした表情でそう言う。
鈴木さんが視た未来では俺に命の危険はなさそうだったが、俺が視た未来ではそうじゃない。
その未来のことも少し伝えておこう。本当は俺自身が見た未来だが、そこは鈴木さんが視たってことにしてな。
「俺が死なないとも限らない。視えた未来によると、俺が地上で戦っていたのはとんでもないバケモノらしいんだ。」
「バケモノ?どんな魔物よ。」
「魔物とも言えないようなやつだ。輪郭がぐちゃぐちゃで、手足も顔の位置も定かじゃない。俺の予想としてはサイドか、もしくは異世界の管理者本人だと思う。」
「...」
その言葉を聞き、三人が考え込むように黙った。
「...魔物に加えて、異世界の生物まで地上に現れるなら...。世界は大混乱でしょうね。」
「ああ。そんなバケモノを地上に出させないためにも、100階層を突破して協力してほしい。」
「私は元々協力をするつもりでしたけど、レイさんから直接言ってくれると更にやる気出てきますね...!」
「その未来、いつのものかわからないの?」
風雅の質問は、俺も思ったことだ、やっぱりいつのものか気になるよな。
「残念ながら時期まではわからないらしい。それに、絶対に訪れる未来とも限らないんだってさ。ただ俺の装備が今とは違うかったらしいから、直近ではないって予想だ。」
「なら、なんとか間に合わせないとね。」
「それを間に合わせるための、武器とか素材の提供ってわけね?」
「そうだ。」
そして最初の話に繋がる。武器や素材集めに時間がかかるくらいなら、それは俺が提供するからさっさと攻略をしてほしいという気持ちだ。
「投資のようなものかしら。あなたはわたしたちに投資をする価値があるって判断したわけね。」
「そうだな。実力があって、探索の最前線にいて、ダンジョンの秘密も共有している。周りに協力を仰ごうと思った時に、一番最初に思い浮かんだ相手だったな。」
「絶対追い付きます!任せてください!」
「未来視って、その未来が訪れるとは限らないって言ってたよね。じゃあ、外させよう。」
歌と風雅がやる気を出したようにそう言ってくれる。
バケモノが来ると伝えたのに恐れずに協力しようとしてくれるのは、ありがたいな。
「二人ともやる気を出してるけど、レイが出してくれたものは本当に受け取っていいのかしら?パワーレベリングみたいにならない?」
「それなら大丈夫だ。ちゃんと80階層までで取れるものだからな。101階層の装備とか渡して攻略しても、実力は身につかないっていうのはわかってる。」
「それなら、大丈夫なのかな?」
「探索の手間を省く代わりに、さっさと攻略しろってこと?」
「言い方がよくない気もするけど、そうだな。」
装備集めや素材集めというのは、時間がかかるものだ。出ない時はとことん出ないし、それで1か月以上かかるってこともある。そこにあまり時間をかけてほしくない。
「とは言っても、どっちみちレベル上げもあるから多少の探索はしなきゃだけどね。その間に装備とかが出たなら、レイに返すわよ。」
「別にいい...って言っても納得しないよな。」
「そうね。『装備や素材提供の代わりに異世界からの侵略者と戦う。』って条件なのかもしれないけど、別にそんなことしなくても普通に協力するわよ。」
「レイは、メリットデメリットというか、損得勘定で考えすぎな気がする。仲間なんだから、何もなくても協力するよ。」
「そうですよ!協力してもらうために何を渡そう、とかじゃなくて、ただ協力してくれって言ってくれるだけでいいんですよ!」
...そういうものなんだろうか。いや、仲間っていうのはそういうものなんだろうな。ずっとソロでやってきたから、そういう考えは頭から抜けていた。
実際、仲間...というか後輩だが、湊や結がピンチだった時、俺は見返りとか何も考えずに助けに行った。きっとあの感覚が仲間なんだろう。
「...そうだな。じゃあ改めて頼む。100階層を突破したら、異世界からの干渉を防ぐのに力を貸してくれ。」
「ええ、もちろんよ。」
「当然です!」
「任せて。」
そしてその後は武器や素材の説明をして彩風三花に渡し、解散となった。
彼女たちはまだ80階層だし、実力は足りてないかもしれない。少なくとも今は、まだ。
だが遠くないうちに、きっと力になってくれるだろう。そんな確信があった。
あとやれることは...やはり俺自身が攻略をすすめて、防衛の魔物を解禁することだな。




