66 三つ目のエリクサーの素材
ダンジョン95階層
94階層に続き、相変わらず大雨が降っていて探索がしにくい階層。
補佐システムの話によれば、この階層にエリクサーの素材があるらしい。
それを手に入れれば、エリクサーの素材が3つ揃って作成することができる。そう考えると少しドキドキする気持ちになる。
ダンジョンの乗っ取りや防衛の魔物のことを聞いて、攻略を進めた方がいいという考えはある。だが、焦って攻略をしても痛い目を見る可能性が高い。
しばらく侵略に来ることはないようだし、それなら俺は俺のペースで攻略を進めたい。
義務のような思いで潜っても、やる気出てこないしな。
:この階層も大雨か
:今日はちゃんとトイレしてきた?
:小なら雨で誤魔化せるのにな
「いや、この前のやつもトイレじゃないからな。別の急用だ。」
コメント欄の発言を訂正しつつ、視界系のスキルを創り湖を探す。
巨大な湖。昔この階層を突破した時に見かけはしたが、その時は突破を優先して探索はしていなかった。
気配感知によれば湖の中に結構強力な魔物...当時のレベル80台の俺では勝てるかどうかわからないくらいの魔物がいたので、スルーせざるをえなかった。
今なら正面戦闘すれば勝てるとは思うが、湖というのがネックになってくる。
(地上に出てくるのか?もし水中で戦うんだとしたら、ちょっとスキルを考えないといけないな。)
どんな魔物なのかまではわからないが、ワニのような水陸両用なら地上で戦うことができる。
だがもし完全な魚の魔物で地上に出てこないのであれば、水中で戦わざるをえない。
(スルーして探索できるならそれでいいが、見つかった時のことを考えれば戦う手段は持っていたいな)
補佐システムによれば湖の魔物を倒すのではなく、湖の中にあるということなので、必ずしも魔物を倒す必要はない。
とは言え、襲われたときのために対策は考えておく必要がある。
『水中移動』のスキルを創ったり、最悪帰還の宝玉で逃げ帰ることも頭に入れておかないと。
そんなことを考えている間に、目的の湖に到着。
:なんだこれ、海?
:湖か?
:でっっっかいな
湖はかなりでかい。さすがに水平線が見えるとまではいかないが、向こう岸がかすかに見えるだけ、という程度には広い。
(...あれか)
湖の水面は雨に打たれて波立っているが、その中で一際波が大きい場所がある。
その波の正体こそ、この湖に潜む魔物。
:なんかいる?
:でかい影が見えるな
距離があり、相手が水中にいるということで『鑑定』はほとんど通らない。
ただ、その生物が『水竜』だという情報だけは見えた。
視界を広げ、その姿を観察する。
大きさは4、5メートルほど。 細長いようなシルエットをしているが、その体は「細い」というよりも「引き締まっている」というべきか。かなりの筋肉があるように見える。
細長いというと蛇を連想するが、蛇とは違いヒレがある。ヒレが手足のような位置に付いているが、指があるわけではない。
...おそらく、地上には適応していない、か?
頭部には角があり、歯も鋭い。
そして頭部から側面にかけては硬そうな鱗で覆われ、防御力は高そう。
だが腹側にはそれがなく、比較的柔らかそうに見えた。
(...竜、か)
100階層のアシュファンは龍だった。それとはまた違う表記ではあるが、これもドラゴンの類なのだろう。
アシュファンほどの威圧感はない。だが湖という地の利を得たこいつが、厄介な強敵であることに変わりはなかった。
(まずは隠密で、ダメそうなら戦闘かな)
今の目的は、あくまでもエリクサーの素材だ。戦いを避けられるなら避けたいので、ひとまず隠密を試してみよう。
「湖の中を探索してみる。」
スキルを創造しながら、コメントの人たちにそう伝える。
さすがにドローンは水中に入ってこれないと思うので、伝えるだけ伝えて待機になるだろう。
:え、水の中入るの?
:でけー魔物いるよな?大丈夫なの?
:主のことだからちゃんと考えはあるんだろうけど、危なそう
:なんでわざわざ入るんだ
コメント欄は不安がっているが、逃げる手段も移動手段も戦闘手段もあるので大丈夫なはずだ。
創ったスキルは防御膜、水中呼吸、水中移動、水圧耐性。これで水中は動き回れる。
そして隠密、隠蔽、無音行動、それに加えて85階層の中ボスからドロップした、深淵擬態の外套を装備する。これで隠密は完璧のはず。...この装備、水中でもちゃんと機能するよな?
これでも見つかるようなら、戦闘に切り替えるしかない。
軽く深呼吸をしたあと、ゆっくりと水の中に入っていく。念のため、水竜が遠くにいる場所から入水だ。
地上は雨の音がうるさかったのに、水中を1、2メートル潜るだけで一気に音がなくなった。静寂の中、俺は水中移動を発動させる。
水中移動は、手足を軽く動かすだけで水の中を素早く進めるスキルだ。だがあまり動きすぎると水流などでバレるかもしれないので、できるだけゆっくりと移動したい。
(...深いな)
湖は、10メートル以上の深さがあった。水竜が4、5メートルなのでこれくらいの深さがあるのは当然かもしれないが、いざ潜ってみるとその深さが実感できる。
(水竜は...来てないな)
遠くにいる水竜を見てみるが、さっきと変わらずにゆっくりと動き回っている。こちらに気づいた様子はない。さすがにこれだけ隠密系のスキルや装備をつけていれば、気づかれることはないだろう。
(湖の中にあるって話だったけど、普通に考えたら底だよな)
エリクサーの素材は、湖の中にあると言っていた。それなら、底に何かアイテムが落ちていると考えるのが自然だ。
その辺に素材が浮いているというのはあまりなさそうな気がする。
ゆっくりと湖に沈んでいき、底に足をつける。
そしてひとまず鑑定を使用し、視界内に何かあるか確認する。
(...この辺には何もなし)
だが、目立ったアイテムはなかった。辺りを泳いでいる魚が食用可能と出てきたが、知りたいのはそんなことではない。
次は、視界を広げてその範囲内に鑑定を使用。精度は落ちるが、アイテムがあるかないかくらいの判別はできる。
(...ん?)
すると、湖の真ん中あたりの底に何か反応があった。あれは...骨か?
一見するとただのでかい骨だが、鑑定によればただの骨ではないらしい。近づいて確認してみよう。
水竜の位置を確認しながら、湖の真ん中までやってくる。
そしてその骨に鑑定を使用。
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太古の骨
太古に生息した生物の骨。
極めて高い生命力と魔力を内包しており、伝説の霊薬、エリクサーの素材となる。
単体では効力を発揮しない。
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その鑑定情報に、俺は思わず動きを止めてしまった。
(...あった)
探し求めていたエリクサーの素材、三つ目。
嬉しい気持ちと同時に、少し拍子抜けしたような気持ちもある。
(思ったよりも簡単に手に入ったな...)
これまでの二つは、90階層主と100階層主を倒したことで手に入った。なので今回もそれ相応の苦労を覚悟していたが、いざ探しに来るとすぐに見つけることができた。
こんなに簡単でいいのだろうか?
(いや、そうか。他の人からすれば簡単じゃないよな。)
俺はスキルがあるから湖を移動でき、隠密もできる。
だが、他の人はどうだろうか?
水中を移動できたとしても水竜に見つかるだろうし、隠密ができたとしてもこの湖の真ん中まで来るのは難しいだろう。
他の人がこれを手に入れるには、水竜を倒し、水に潜れるような道具を持ち込んで潜る必要がある。
本来はそれらの苦労を重ねてようやくゲットできる素材。俺はその条件を無視して無理やり手に入れたわけだ。
(まあ、過程はどうでもいいだろ。今は結果が重要だ。)
実力をつける、経験を積む、という意味では、この水竜とも戦ったほうがいいのだろう。ドロップ品も気になるしな。
ただ、それはまた今度だ。今はとにかくエリクサーを完成させたい。
素材を集めたからといって、これで終わりではない。最後の段階、調合をする必要がある。
遠目に揺れる水竜の影を横目に、俺は気づかれないよう湖を離れていった。




