65 情報共有
『話したいことがあるから、日程が合えば彩風三花と会って話したい。多分1時間ほどで済むと思う。』
レイからそんな連絡が来て、さんぽは嬉しさ半分、疑問半分の気持ちでつばきとれんげに相談の連絡を送った。
──────────────────────
三沢 椿:1時間くらいなら、3日後にある探索の前か探索終わりでいいんじゃない?
風間 れんげ:うちもそれでいいと思う。でも珍しいよね、レイから話があるって言ってくるの
花咲 歌:この前配信を急に終わってたけど、それに関係あるかな?
三沢 椿:オーブを見つけてすぐに終わったやつね。それと関係あるとしたら、また霊薬と交換できるオーブを見つけた、とかかしらね?
風間 れんげ:うちがいない時に使ってたやつね
花咲 歌:次からは何かあったらふーちゃんにも言うから!私たちと関係ありそうなことと言えば、霊薬とかになりそうだよね。じゃあ3日後の探索終わり、19時頃って連絡しとくね!
──────────────────────
二人に相談して日程を決めたところでスマホの画面を閉じ、さんぽは少し考える。
わざわざ話したいと連絡をくれるのは、同じ土俵に立てているような感じがして嬉しい。
だが探索状況は大きく引き離されているので、実際は同じ土俵に立てているとはいいがたい。
そんなレイがわざわざ話したいと言ってくるとしたら、用件は自然と限られてくる。
(やっぱり霊薬の件かな?でも、霊薬で話したいことって何かあるかな?)
レイと彩風三花の繋がりと言えば、やはり80階層の変異体での出来事だろう。
その出来事で話があるとしたら、さんぽの腕を復活させた霊薬が真っ先に思い浮かぶ。
(あ、それとも、ドロップアイテムかな?)
他には、変異体からのドロップアイテム関連ということもあり得るかもしれない。
彩風三花がもらったものは、スキルオーブ。そのスキルオーブで何か気になることがあったのだろうか。
(でもそれなら、普通に文面で言ってきてもいいよね。会って話したいってことは、文字だと言いにくいこととか、長い話になるってことだろうし。)
だがスキルオーブで話があったとしても、わざわざ会って話をするような内容になるだろうか?
そう考えると、ドロップアイテム関係ではなさそうな気がする。
(もしくは...)
レイが彩風三花に会って話すような内容。他にあるとすれば...
──────────────────────
「実はこの前、また管理者空間に行ってきた。」
三日後、探索終わりに個室の飲食店にて合流をした後、レイはそんなことを言ってきた。
「ええ...」
それを聞いたさんぽは、困惑の声を出す。
少し予想はしていたが、まさか本当にその内容だとは思わなかった。
そんな気楽に言うような内容でもないのに、なんてことなさそうに言っているのもまた驚きだ。
「あなたね...。事前にどんな内容かくらい言っておきなさいよ。知っていたら会議室とか借りたのに。個室とはいえ、飲食店で話すような内容じゃないでしょ。」
つばきが呆れたように言う。
「大丈夫だ。盗聴の心配もなさそうだし、ここで話しても問題ない。」
「多分そういうことを言ってるんじゃなくて、雰囲気のことを言ってるんだと思うよ。」
れんげはサラダを食べながらなんとなしにそう言う。
驚いているのはさんぽだけで、つばきとれんげは驚きよりも呆れが勝っているようだ。
「それで、話したいことっていうのは?またダンジョンの秘密?」
「秘密というか...今回は、秘密の一部に巻き込まれたって感じだな。」
レイはそう言って、水を一口飲んだ。
「94階層を探索していたら、通常の魔物からオーブが落ちたんだ。そして、『すぐに使用して管理者空間に来てください』って説明が出た。」
「通常の魔物から?この前配信を急に終わった時のやつですかね?」
「そんなことあるの?」
「前に行った時は100階層突破の流れだったわよね。今回はだいぶ雑じゃない?」
三人の反応に、レイは小さく頷く。
「そう、いきなり配信を終えたときのやつだな。三羽の言う通り、俺も前回と大分違うなと思った。だからただ事じゃないと感じてすぐに行ったんだ。そしたら補佐システムに『緊急事態です。排除してもらいたい者がいます』って言われた。」
「排除...?」
「なにそれ怖い。」
「嫌な予感しかしないわね。」
『排除』という言葉に、全員が眉を顰める。少なくとも、穏やかに済んだ出来事ではなさそうだ。
「相手は異世界から来た干渉者だった。別世界のダンジョンにいる、サイドって立場のやつららしい。」
「サイド?」
「管理者の使徒みたいなもの、って言えばいいのか。挑戦者が条件を満たすとなれるらしい。」
そこまで聞いて、つばきが待ったをかけた。
「ちょっと待って。異世界のダンジョン?使徒?干渉者?情報量が多いわ。」
「うん、うちも同じ気持ち。」
「その異世界の人たちがなんでこっちに来たんですか?」
いきなりの情報量に混乱するが、ひとまず話を全て聞こうとさんぽが続きを促す。
「ダンジョンは管理者の力に直結するらしい。だから他所のダンジョンを乗っ取れれば、その分強くなれる。今回のは、その様子見みたいなものだそうだ。」
歌は言葉を失い、れんげはサラダを食べる手を止めた。
「...それ、思ってたよりだいぶ大きい話なんだけど。」
「それで、どうしたんですか?」
「最初に言われた通り倒したよ。補佐システム曰く、サイドを倒したことで抑止力は見せつけられたから、しばらくは大丈夫らしい。ただ、今後もう来ないとも言えないらしい。」
「...もしまた来て、ダンジョンを乗っ取られたらどうなるの?」
つばきの疑問に、レイはさらっと答えた。
「ダンジョンを乗っ取られたら、ダンジョンの内容が急変したり、魔物が地上にあふれたりする可能性があるらしい。」
その言葉に、全員の動きが止まった。
「それって...」
最初に口を開いたのは、つばきだった。
「もうダンジョンがどうこうって話じゃないじゃない。災害とか、そういう次元の話でしょ。」
「俺もそう思う。」
レイは淡々と頷く。
「だから補佐システムも、今回はかなり切羽詰まってた。俺が倒さなかったら、今後もっと本格的な干渉が来る可能性が高かったらしい。」
「いやいやいや、なんでそんな話をレイさん一人が背負ってるんですか?」
歌が慌てたようにそう言う。
「現状、100階層を越えてるのが俺だけだからだそうだ。」
「つまり、100階層を超えなきゃそれらと接する資格すらないってこと?だからレイが呼ばれたと。最悪ね...。」
「うちも同意。」
れんげがこくこくと頷く。
「で、防ぐ方法は?」
つばきの問いに、レイは少しだけ言いづらそうに視線を逸らした。
「...ダンジョンを攻略して、防衛に使える魔物を増やすことらしい。」
「は?」
「え?」
「どういうことですか?」
ダンジョンを攻略する、というのはわかるが、防衛に使える魔物を増やす。という意味がわからずに、三人は首を傾げる。
「ダンジョンの魔物は、異世界からの干渉者と戦わせることができるらしいんだ。実際、俺が行った時も90階層主のヤマタノオロチが戦っていた。」
「そんなことできるんだ...」
「でも、ダンジョンから動かすためには挑戦者に倒される必要があるらしい。」
「なんで??」
「理由まではわからない。でも、そういう仕組みらしい。だから今は100階層までの魔物しか防衛に使えない。」
魔物が防衛するというのは驚きだが、それはつまりレイだけで戦わなくてもいいということ。そのことに少し安心する。
「なるほど...。攻略すればするほど、強い魔物を防衛に使えるってことですね。」
「というか魔物を戦わせられるなら、レイが行かなくてもいいんじゃない?」
「最終的には魔物だけでなんとかなるかもしれないが、今はまだ無理だろうな。なんせ今回の相手はレベル130とかだったし。それが様子見ってことは、後ろに控えてるやつはもっと強いって思っていいだろ。」
「130!?」
相手のレベルを聞いて、歌が思わず大きな声を出してしまう。
「...レベル130の相手と戦ったの?あなたのレベル、100ちょっととかでしょ?」
「ああ。今レベル102だな。相手はレベル130ちょいが二体だった。」
「二体!?」
「レベル差が絶対とは言わないけど、30レベル上の相手を二体相手するのは...正直勝てる気しないわね。」
その話を聞き、歌は悔しく感じてしまった。
自分たちが知らない間に、そんな危険な目にあっていたなんて。
力になれない自分に、力が足りない自分に腹が立った。
「そんな相手が来るなら、たしかに100階層までの魔物じゃ太刀打ちできないわね。」
「うちらで言えば、40階層とか50階層の魔物を相手するようなもんだもんね。」
「...それって、私たちが100階層超えたら手伝うことってできるんですかね?」
歌のその発言に、全員が視線を向ける。
「できるんじゃないか?俺はただ100階層超えただけで、管理者でもサイドでもない。歌たちが100階層を超えたら、俺と条件は同じになるわけだからな。」
「歌。気持ちは分かるけどダメよ。実力が伴ってないのに無理して進んでも、迷惑かけることになるわ。」
「また歌ちゃんに何かあるのは、ダメ。」
「わ、わかってる。でも、もし私も手伝うことができるなら、攻略のやる気も出てくるからさ。」
最初にレイを知った時は、この人は苦戦なんてしないと思っていた。
でも違った。この人だって人間だし、できないことはある。
それでも、この人は1人で先に行ってしまう。例え危険だとしても。
それがなんだか放っておけなくて、少しでも手助けをしたいという気持ちが歌にはあった。
「ありがたいけど、無理しなくて大丈夫だぞ。防衛したら報酬がもらえるように交渉したし、俺1人でもやる気はある。」
「報酬?」
「どんなの?」
「アイテムとか情報だな。今回は素材の在処を教えてもらった。」
「やる気があったとしても、やっぱり1人じゃ危ないですよ。手伝えるようになったら、私も手伝います!」
報酬があったとしても、命に変えられるものではないはずだ。
(今はまだ、力を必要とされていないだけ...。もっと強くならないと...!)
「なんの素材の在処を教えてもらったの?」
歌がひっそりと決意をしたところで、れんげが報酬について聞いていた。
「さすがにそれを聞くのは悪いわよ。命懸けの情報よ?」
「別にいいぞ。というか、教えるつもりだったし。実は87階層の隠し部屋に、ヤマタノオロチに効く武器があるらしいんだ。」
「隠し部屋?」
「ああ。遺跡みたいなところに、入り口がない空間があってな。そこに武器があるらしいんだけど、その部屋への入り方がわからないんだよな。」
「入り方までは教えてもらえなかったのね。」
「そうだ。だから、その入り方は見つけてもらう必要がある。というか、もしわかったら教えてほしいくらいだ。」
「なんとか見つけます!」
歌が身を乗り出して、勢いよく答える。
レイはその勢いに少し驚きながらも、頼んだと返した。
「あとは95階層にエリクサーの素材があるらしいけど、それは今度自分で探しに行くよ。」
「前もエリクサーって言ってたわね。そんな重要なものなの?」
「俺がダンジョンに潜る目的と言ってもいいアイテムだな。」
「そういえばレイさんの目的とか聞いたことなかったですね。」
「知りたい。」
「そんな面白いもんでもないけどな。」
情報を話した後は、話題はレイ個人のものへと移っていった。
その後も何度か異世界やサイドの話に戻り、食事をしながら時間をかけて、ようやく歌たちは話を飲み込むことができた。
ただ、飲み込めたからといって、納得できたわけではない。
ダンジョンの先には、自分たちが思っていたよりもずっと大きなものが広がっていた。




