62 急な呼び出し
少し遅れました。すみません。
ダンジョン94階層
大雨が降り、地面がぬかるむ。
雨により動きにくく、剣を持つ手も滑りやすい。
灼熱階層と同じく、環境が厄介な階層。それが94階層だ。
:それはなんですか?
:なにその膜みたいなの
だがその大雨も、今の創造スキルであれば対処することができる。
『防御膜』というスキルを創り、自分の体とドローンに水を弾く薄い魔力の膜を覆わせることで、雨に濡れることは防ぐことができた。
ちなみに防御、とはいうが、雨に対する防御であって物理的な防御力は一切ない。
この状態であれば探索難易度はさして高くない。
地面はぬかるんでるし、雨音で周囲の音は聞き取りにくいし、雨粒で視界も若干悪い。
だが全身がびしょぬれにならないのであれば、別に構わない。
それくらい、雨にうたれながらの探索というのは非常に疲れるものだ。
「雨を防ぐ膜だよ。こうしなきゃ探索しにくいなんてもんじゃないからな。」
:なるほど
:一体どんな魔法をどんな風に使えばそうなるんだ?
:魔力壁を上手いこと使えばできるのかな?
たしかに、防御魔法である『魔力壁』でも似たようなことができるかもしれない。だが魔法を操作するよりもスキルで防いだ方が楽だから、俺としてはこっちのほうがいい。
「まあみんなも94階層に来たら色々試してみな。一回濡れながら探索するのもいいかもな。ほんとにしんどいぞ。」
:主がしんどいってどんだけなんだ
:94階層に来たらって、いったいどれだけ先になることやら...
:雨の日に外で運動したことあるけど、バカみたいにしんどかったぞ。そんな感じだろ
:雨にうたれるだけで体力って消耗していくからな
コメント欄が雨トークをしだしたところで、探索を開始する。
この階層も以前は駆け抜けただけなので、ほとんど未探索だ。怪しい場所と言えば...この階層ではなく次の95階層に心当たりがあるが、それでもこの階層もちゃんと探索しておかないとな。
この階層は、いわゆる湿地帯のような見た目をしている。
視界自体は結構ひらけているので、索敵はそれほど苦労しない。
まず目につく魔物は、巨大なスライム。雨により水を吸ったのか、2メートル以上の大きさとなっている。
他には巨大なカエルや、泥でできたゴーレム。この階層にはいないが、次の階層からは飛行系の魔物も出てくる。
:スライムでっか
:でかすぎんだろ...
:でかけりゃ強いってもんじゃないけど、でかけりゃ強そうに見えるよな
やはり巨大スライムは目を引くようで、コメント欄もスライムの話題になっている。
当然だが94階層の魔物だけあって、相応の強さだ。だが、動き自体は通常のスライムと変わらないのでそれほど苦労することはない。
体がデカいので攻撃範囲も広い、というのだけ注意だな。
まあ、通常の魔物は重要ではない。目的は未探索エリアと、そこにあるアイテムだ。
灼熱階層にも隠された空間があったので、この大雨階層にあると睨んでいるが...。
大雨階層は94~96階層だ。97階層からはまた別の環境になるため、あるとすれば95、96階層になるだろうか。
「うーん...なにもなさそう。」
数時間かけて階層の半分ほど見て回ったが、これといったものはなさそうだった。灼熱階層のように地面に違和感がある場所もないし、洞窟のように壊せる壁もない。
「...残りはまた今度かな。」
さすがに一日で階層を全て見て回ることはできないので、残り半分は次回でいいだろう。そう思っていたところで、魔物からオーブがドロップした。
:オーブじゃん
:なんのオーブだ?
:深層はスキルオーブとか修復のオーブ以外のものもあるから、なんだろうな
たしかに深層は転移石の数字を変えるオーブや選択のオーブなどがあるが、それらは特別な場所や魔物から手に入れたものだ。
今回は通常の魔物がドロップしたものなので、おそらくスキルオーブか装備修復のオーブだろう、と思って鑑定してみる。
するとそこには
─────────────────────────────────────
秘密のオーブ・改
すぐに使用して管理者空間に来てください。
─────────────────────────────────────
と書かれてあった。
(...ん?)
思わず眉を顰める。
秘密のオーブ。使用すると補佐システムのいる管理者空間に行けるようになる、ダンジョンの秘密を知ることができるオーブ。
補佐システムが、秘密のオーブはまたどこかで手に入るようにはなる、というようなことは言っていた。
だが、こんなにも唐突に秘密のオーブが渡されるのか?それに、今すぐ使用しろっていうのはなんだ?
:どうした?
:すごい顔してるな
:なんかオーブに見覚えでもある?
「...いや。すまん。ちょっと急用で、配信は終わりだ。」
:え、何があった
:険しい顔して、急に何があったんだ?
:険しい顔して配信終わるなんて、理由は決まってんだろ。うんこだよ、察してやれ
:ゆっくり出すもん出せよ
変なコメントがあったが、それに構わず配信を終了しオーブを拾う。
理由はわからないが、すぐに使用しろというのであれば行くべきだろう。
以前の秘密のオーブは、100階層突破という大きな節目で発動した。
それが今回、94階層の通常魔物から出た。
それだけで、ただならぬ事態だと分かる。
オーブを使用した俺は、光に包まれてその場から姿を消した。
─────────────────────────────────────
広くも見えるし、狭くも見える。
白くも見えるし、黒くも見える。
丸にも見えるし、四角にも見える。
不安定に見えるが、不安な感じはしない不思議な空間。
以前と変わらぬ管理者空間。そこに俺は転移をした。
そして目の前には光り輝く球体。
この空間の「核」である、ダンジョン管理者補佐システム。
その球体に俺は近づいていく。
「...何があった?」
何か起こったことは前提とした問いかけ。まさかこんな急に呼び出しておいて、『何もありません』とは言わないだろう。
『解。よく来てくれました、ダンジョンに挑みし者。緊急事態です。あなたに排除してもらいたい者がいます。』
「排除?」
また物騒な物言いだな。
『解。外部からの干渉者です。自動システムが防衛していますが、自動システムだけでは問題があります。誰かが直接排除に行かねばなりませんが、現状で行けるのはあなただけです。』
「...外部からの干渉者?」
『解。詳しい内容は、干渉者を排除すれば権限が一部解除され話すことができます。今言えるのは、干渉者というのは地球の...この世界のものではない、ということだけです。』
「いやいや...」
突然「この世界のものではないやつを排除しろ」と言われても困る。というか普通に怖い。
「せめて何かしらの情報はないのか?」
『解。今回の対象は、前任の管理者の時にも干渉してきたものです。よって、データはあります。』
補佐システムがそう言うと、目の前にウィンドウがあらわれた。
そこに映し出されたのは...見た目はケンタウロスのような、四本足で上半身は人間のような見た目をしている生物だった。
『補足。今回の対象は二体。鑑定情報によるとレベル133と135。スキルは一体が身体強化、命中、破壊。もう一体が身体強化、硬化、俊足となります。』
「...情報はありがたいが、それを聞いて勝てる気がしないんだが。」
見た目はドラゴンのような圧倒感はないが、問題はレベルだ。133と135は、格上もいいところ。しかもそれが二体。
スキルがシンプルなのは助かるが、シンプル故にレベル差が重くのしかかる。
『解。問題ありません。あなたのダンジョン内での記録を見たところ、勝てると判断しました。それに自動システムが相手を消耗させているので、あなたが全力を出せば間違いなく勝てます。』
「ああそうか。自動システムってやつが戦ってはいるのか。」
『解。映像を見せます。』
ケンタウロスの姿が映った静止画のウィンドウが、別の映像へと切り替わる。
今度の映像は、白い空間で戦っているケンタウロスが二体。戦っている相手は...
「ヤマタノオロチ?」
俺も見覚えがある八つ首の蛇、ヤマタノオロチ。
90階層のボスであるそいつが、ケンタウロス二体と戦っていた。
『解。カイヤー、と命名されています。今はカイヤーが防衛していますが、最後まで戦うことはできません。』
「カイヤー...。こいつでは勝てないと?」
『解。その通りです。加えて、消滅まで戦わせることもできません。システム上、ある程度傷を負ってしまえば退散するようになっています。相打ちできるなら一体は倒せるかもしれませんが、それもできないように設定されています。』
「...そうか。」
よくわからないが、話を聞くにヤマタノオロチ級を二体相手しろ、というわけだな?
ヤマタノオロチが消耗させてくれているから、確実に勝てる、と。...ほんとか?
「ちなみに戦うのを拒否した場合や、負けた場合はどうなる?」
『解。引き続き自動システムが防衛を行います。今回は防げるでしょうが、それにより【このダンジョンはシステムしかいない】、もしくは【大した防衛機能がない】と判断されてしまいます。そうなると、本気で干渉に乗り出してくるでしょう。』
「...本気で干渉されるとどうなる?」
『解。自動システムでは防ぎきれなくなります。詳しい内容は話せませんが、その結果地球上に魔物があふれる、ダンジョンの内容が急変するなどが予想されます。』
「...それはまずいな。」
ダンジョンの内容が変わるのもよくないが、地球に魔物があふれるのはもっとよくない。そうなればパニックどころの騒ぎではない。
『それを防げるのは、あなただけです。』
「...やるしかないか。」
小さくため息をつき、覚悟を決める。
さすがに地球の危機、となれば逃げるわけにもいかないし、ダンジョンの内容が変わってしまえば、せっかくこれまで集めたエリクサーの素材やポーションの素材も使えなくなってしまうかもしれない。
ウィンドウに映された映像を見る。ヤマタノオロチとケンタウロス二体が戦っているが、補佐システムの言う通りケンタウロスが押している。
だがそれは、特別な戦い方をしているわけではない。ただ単にレベル差によるゴリ押しのように見える。
それに、圧倒しているわけではない。ヤマタノオロチの黒の頭には攻撃が通らず手こずっているし、他の首の魔法攻撃も時々食らってはいる。
...たしかにこれだけ見ると、勝てない相手ではないように見えてくる。
『補足。あなたはまだ自分の力を過小評価しています。素体レベルが100を超え、特殊なスキルを持ち、スキルの組み合わせもよいあなたなら、あの程度の相手ならすぐに勝てます。』
「...過小評価しているつもりはないけどな。」
まがりなりにも100階層を一番に突破して、後続とは大きく階層を離しているわけだし。自分にそれなりの力があることは理解している。だがそれでも、ダンジョンという巨大なものの前ではまだまだちっぽけだと思っているだけだ。
『報告。一分後にあなたをあの空間に送ります。それと同時にカイヤーも撤退させます。』
「...わかったよ。」
足元に魔法陣が浮かび上がり、少しずつ光っていく。
「あいつらに勝てば、この状況の説明もしてくれるんだな?」
『解。干渉者との接触により、権限が一部解放されます。すべてを話せるとは限りませんが、今よりも詳しい内容は話せます。』
「曖昧だな...」
これで勝つだけ勝ってほとんど情報をもらえなかったら、さすがに怒ってしまうかもしれない。
だが、それもこれも勝てたらの話だ。勝たなきゃどうにもならない。
「もし負けそうになったら、俺を撤退させてくれるか?」
『解。わかりました。あなたに命の危険が迫れば、この空間に撤退させます。』
もしかしてこれを言っておかなかったら、死ぬまで戦わされていたのか?
危ない、言っておいてよかった。
『報告。行く前に、一つだけ要求をさせてください。』
「要求?」
『解。はい。それは────』
補佐システムから、排除に関する要求が告げられる。
「...わかったよ。」
その要求を聞いた後、俺は光に包まれて二体のケンタウロスの前へと転移をした。




