60 野良パで共同探索
ダンジョン27階層
「そんじゃ行こうか―。」
手持ちの転移石がこの階層しかなかったので、今回はきららと一緒にこの27階層を探索することとなった。
「さっき話した通りー、ユウくんが前衛であーしが後衛ねー。」
「ああ。」
転移の前にお互いの戦闘スタイルなどについて話し合ったのだが、きららは魔法主体らしい。
なので陣形はシンプルに、俺が前に出て戦いきららは後ろから魔法を放つ。というものだ。
「20階層後半はさー、敵が見えにくいのがめんどいよねー。」
「そうだな。」
20階層台は、森林階層となっている。深い草木に覆われていて、魔物も植物系が多い。
ただでさえ草木のせいで死角が多いのに、魔物も植物系なせいで見逃しやすくなっている。
ここは、俺が索敵系のスキルを持っていることにしておくか。
「でも大丈夫だ。俺は索敵系のスキルがあるからな。」
「マジー?超便利じゃーん。ユウくん有能~。」
草原など、視界が確保できる場所では索敵系はそれほど必要ない。
だがこういう階層ではあると便利になってくるので、パーティを組むなら一人は索敵スキル持ちがほしいところだろうな。
索敵系を創るついでに、今回のスキル構成を考えておくか。
今回は共同探索のため、俺のソロ専用スキルである「孤高の戦士」が発動しない。さすがにこの階層なら問題ないが、体の感覚がいつもと少し違ってしまうのは面倒だ。
なのでいつも通りの感覚にするために、身体強化系を複数創造しておく。
あとは、いい機会だし今回は自分の剣術の練習にしよう。というわけで剣術スキルはナシ。
その代わりと言ってはなんだが、「見切り」あたりを創造しておこう。相手の攻撃を見切って、そこからどのように動くか。それが大事...だと思う。
索敵スキル、身体強化系を複数、見切り。
これで充分だろう。あと2つか3つスキルを創る余裕があるが...「ドロップ率アップ」でも創っておこう。
「ユウくんはさー、いつもどのあたりの階層を探索してんのー?」
「まちまちだな。少し前は30階層台の探索をしたよ。」
ヤマタノオロチ用に、「巨大爬虫類特攻」のついた武器を確保するためにな。
「30階層越えてるんだー?もしかして探索者歴結構長い感じー?」
「そうだな。5年くらいか?」
「おー、安心できるねー。あーしはまだ1年ちょっとだからさー。ユウくん先輩じゃーん」
:4~5年で30階層越えてるって、結構ベテランじゃね?
:安心できる中堅って感じ
:実は50階層あたりまで行ってたりして?
あんまり言いすぎるとボロが出るかもしれないな。いや別に、素性を隠す必要は全くないんだけど。
なんとなくこのまま「ユウ」としてやっていこうという気持ちだ。
「ストップ。前方にウッドゴーレムがいるな。」
「んー?...おおーほんとだ。よくわかったねー。」
「そりゃスキル使ってるからな。」
そんな会話をしていたところで、魔物に遭遇。
この階層ではオーソドックスな、木でできたゴーレムだ。
「魔法の属性は何を使う?炎か?」
「この階層だし炎だねー。燃え広がらないように気を付けるけどー、ユウくんも燃え移らないようにねー」
「気を付けるよ。」
植物系の魔物は、総じて火が弱点だ。というか、魔物は結構火に弱いやつが多い。
ただ森林階層で火を使いすぎると、火が草木について大惨事になることもある。そうなるとかなり厄介なことになるので、できれば避けたい事態だ。
「おっけー。じゃ、先手もらうねー。」
きららは軽い調子でそう言うと片手に杖を持ち、もう片手を前に出した。
そしてほとんどタメ時間もなく、その掌の先に小さな火球が生まれる。
(早いな。)
魔法の発動が妙に速い。
しかもただ速いだけじゃない。火球は必要以上に大きくならず、熱だけを凝縮したような鋭さがあった。
「いけー。」
気の抜けた声と共に放たれた火球は、まっすぐウッドゴーレムの胴体へ飛ぶ。
命中した瞬間、大きく燃え広がることはなく木の表面だけを焼き焦がした。
「おお、上手いな。」
「でしょー?森で派手に燃やすと怒られるからさー。このへんは結構練習したんよー。」
感心している間にも、ウッドゴーレムはきしむような音を立てながらこちらへ近づいてくる。
俺は前に出て剣を構えた。
「相手の動きを止めるぞ。」
「りょー。じゃあ次は脚ねー。」
ゴーレムの前に立つと、相手はその太い腕を振り下ろしてきた。
その攻撃を横に避けたところで、きららが続けて火球を放つ。
今度はゴーレムの脚の関節部。そこを狙い撃ちされ、ウッドゴーレムの動きがわずかに鈍った。
(ちゃんと連携しやすい位置を狙ってるな。)
軽い調子で喋っているが、しっかりと俺の動きを見ている。
野良パーティ専門と言っていたが、色々な人と組むことで連携が上手くなっているんだろうな。
俺はゴーレムの懐へ踏み込み、続けて振り下ろされた腕を見切って横へずれる。
そのまま胴体へ剣を叩き込み、さらに返す刃でもう一撃。
木が軋み、大きく裂ける。
そこへ、きららの火球が傷口へ吸い込まれるように飛び込んだ。
「ないす連携ー。」
次の瞬間、ウッドゴーレムの上半身が内側から焼け崩れ、そのまま粒子になって消えていった。
「いいねーあっさりじゃーん。」
「きららも強いな。」
「そーっしょー?弱点属性がある相手は戦いやすいからねー。周りの被害は考えなきゃだけどさー。...って、なんか落ちてるじゃーん。」
それを聞き俺も魔物が消えた場所を見てみると、そこにはドロップアイテムがあった。あれは...木の盾か?
「ウッドシールドってやつか。」
「木の盾ねー。見た目が貧弱って言われてるやつだー。この見た目でちゃんと10階層のやつより性能いいのがウケるよねー。」
すごく簡素だし安物っぽく見えるが、性能はしっかりと20階層台に相応しいものだ。それを拾い上げ、きららに渡す。
「とりまあーしが持っとくー?分配は最後にしようかー。」
「そうだな。」
20階層台のドロップ品は別に必要ないが、だからと言って「全部上げます」というのも変な話だからな。有用そうなものはきららに渡すが、魔石とかは少しもらっておくか。
「いきなりアイテムドロップは幸先いーねー。そんじゃ続けて探索いこーかー。」
そしてその後もしばらく探索を続ける。
途中気になってきららを鑑定してみたが、スキル構成は
【属性変化・魔法発動短縮・魔法制御】
となっていた。がっつり魔法系だ。
(属性変化が、結構すごいスキルだな。)
注目すべきは、固定スキルである属性変化。これは、攻撃の属性を変化させるというものだ。
つまり「ブリザード」のような氷の嵐を炎の嵐にすることもできるし、「水刃」のような水の刃を、雷の刃にすることもできる。
これならたしかに、相手に弱点属性があるなら弱点が突き放題のため、戦いやすいだろう。
便利な分、魔力はかなり使ってしまうみたいだけどな。
「なんか今日すごいドロップするねー。」
しばらく戦闘を続けて終わった後に、きららがそう言った。
これまで20体ちょい魔物を倒しているが、今のところドロップ率は3割ほど。
すでに7個くらいのドロップアイテムがある。
ちなみに、この階層なら普通は1割行くかどうかといったところだ。
(...ドロップ率アップのせいか?)
スキル枠が空いたのでドロップ率アップを3つほどつけたのだが、おそらくそれの影響だろう。
以前は気休め程度の効果だったと思うが...やはりレベル100になりスキルの効果が上がっているせいか。
孤高の戦士が発動していない状況でこれなら、孤高の戦士が発動すればほぼ確定ドロップになるんじゃないか?
...とはいっても、深層になるほどドロップ率は下がるので、深層だとそんなに落ちないだろうけど。
(まあ、それも今度試してみるか。)
そういえばレベル100になってから、スキルの検証はあまりしていなかった。
『いつものスキルが強力になっている』くらいの確認だけですぐに100階層に挑んで、そのまま色々あったからな。
昔はレベル10毎に色々と試していたが、創れるスキル数が変わるくらいしか変化がなかったので、レベル60くらいからその手の検証はしていなかった。また検証してみるかな。
「きららは運がいいんだな。」
「いやー、ユウくんでしょー。普段こんなに出ないってー。」
「俺も出ないぞ。」
「じゃー、あーしら2人だと運がよくなるとかー?幸運コンビじゃーん。」
俺はこの階層のアイテムや装備はそこまで必要ないが、きららからすると嬉しいだろう。心なしかテンションも少し上がっているように見える。
「マジー?これスキルオーブぢゃない?」
そしてそろそろ探索も終わろうかと言うところで、なんとスキルオーブまでドロップした。
スキルオーブは、ドロップ品のなかでもさらに出る確率が低いと言われている。売れば数万、数十万...下手したらそれ以上するし、もちろん自分で習得してもいい。
:スキルオーブマジか
:確率すごくないか?普段の倍じゃすまないくらいドロップしてる
:ユウくん、なんか幸運スキルとか持ってない???
「ちょ、マジでさー、今回やばすぎー。絶対おかしいってー。」
「こういう日もあるだろ。」
「いやいやー。ていうかなんでユウくんは平然としてるのー?絶対ユウくん何かしてるよねー。」
俺も驚いてはいるが、原因に心当たりがあるからな。
しまった、もっと大騒ぎするべきだったか。
「...うおおおお、すげー。スキルオーブだー。」
「抑揚なさすぎー。真顔だしー。大根役者じゃーん。」
「...よっしゃ!すごいなきらら!チートデイだ!」
「なんか違和感すごー。チートデイの意味も全然違うしー。」
騒ぐのって慣れてないんだよな。
なんかこう、一時的に性格を変えるスキルとか創れないだろうか。もしまたこういう機会があればやってみよう。
「まあ、運が良かったってことにしておこう。」
「答え言ってるようなもんだけどねー。そういうことにしとこうー。というか、配信のせちゃって大丈夫だったー?」
「大丈夫。どうにでもなるよ。」
たしかにアイテムがたくさんドロップするとなれば少し話題になるかもしれないが、この「ユウ」という探索者は存在しないしな。変身するにしても、この顔にしなければいいだけだ。
それにドロップ率アップ系のスキルを実際に持っている人も、探せばいるだろう。だからそんな大騒ぎになったりはしないはずだ。
その後しばらく、「ユウと組むとやたらドロップする」という噂が一部で広まったらしい。
もっとも、当のユウが見つかることはないのだが。
そしてユウは「幻の幸運探索者」として、ほんのいっときだけ探索者界隈を賑わせたんだとか...。




