59 いいところにいたらしい
『最新のドローンが完成したのでお渡しをします。』
佐藤さんからそんな連絡が来たので、ダンジョンに潜る前に受け取りに行くことにした。
「こちらが最新のドローンです。」
そう言って渡されたドローンは、今までのものよりも少し大きくボタンも増えている。
「暗視機能がついております。ここのボタンですね。これを押せば暗視モードになるので、101階層で試してみてください。さらに、耐久性や耐水性も以前のものより増しております。合格値を遥かに上回る値を出した代物です。」
「...そうですか。」
佐藤さんは誇らしげにそういうが、合格値と言われても俺にはその基準がわからないので、曖昧に頷くしかない。
極鋭刃でぶった切ったり、俺が怪力スキルとかを創ってぶん殴っても壊れないと言うのならば感心するんだけど。さすがにそこまでの耐久性はないだろうな。
「どうかされましたか?」
「あー、いえ。ちょうどいいタイミングだなと思いまして。次に行くつもりの94階層は、大雨が降っているんですよ。ドローンは雨にぬれても大丈夫なのかと思っていたので、耐水性があるのなら安心ですね。」
「...一応、耐水特化のドローンもありますので。もしそのドローンがダメならそちらをお渡ししますね。」
佐藤さんは一転して少し不安そうな顔になりそう言った。
もしかしたら耐水性というのは、水魔法の余波で少し濡れる程度の想定だったのかもしれない。
...創造スキルで、雨を防ぐようなスキルを考えておくか。
「暗視機能付きとは言っても、今のところはあんまり101階層に行くつもりはないですけどね。」
「言っていましたね。とは言え、完全に行く気がないわけでもないでしょう?」
「それはそうですね。気が向いたら行くかもしれません。」
「その時になってすぐに行けるようにと思いお渡ししただけですので。決して急かしているわけではありませんよ。」
「はい。わかってますよ。」
佐藤さんは、俺のダンジョン方針に口を出してくることはない。時々これからの予定などを聞かれることはあるが、本当に聞いてくるだけだ。
俺の予定に合わせて、佐藤さん...というか、ダンジョン省が何かしているのかもしれないが、それで俺の探索に影響が出たことはこれまでない。
「そういえば、年末年始はダンジョンに潜る予定はありますか?」
「そうですね...今のところはありませんね。おそらく年末年始の前後2、3日は実家に帰るかと思います。」
「わかりました。もし考えが変わって年末年始も潜るということになったら、連絡をくださると嬉しいです。その辺りはダンジョン省の職員も休みが多いですから、連絡をもらえれば早めに動けるものを確保しておきます。」
「わかりました。」
季節はもうそろそろ冬になろうとしている。大晦日や年明けは、多くの人が休むタイミングだ。
ダンジョンは変わらずに潜れるし職員もいるが、年末年始はいつもよりも人手が少なくなっているんだろうな。
もっとも、「年末年始もダンジョンに潜る!」という人はほとんどいないと思うので、職員が少なくても問題ないのだろう。
「それと...」
佐藤さんは一つ区切って話し出した。
「差支えなければですが、普段は少し変装するなどはできますか?」
「変装?」
「ええ。あなたの顔は多くの人に知れています。ダンジョン関係者ならほとんどの者が知っているでしょう。それゆえ、普段からあなたと接触しようとするものは後を絶ちません。」
「そうなんですか?」
「ええ。最近だと花歌さんぽの腕が治った件について、あなたが関わっていると考えている人も多いです。四肢欠損を治せる手段があなたにはあるとなれば、さらに多くの人が近づいてくるでしょう。」
「...そういった人たちを避けるための変装ですか。」
一応、容姿は少し変えているんだけどな。もっと大スターの変装みたいに、真夜中でもサングラスをかけるようなことをしたほうがいいんだろうか?
「そうです。接触しようとしているものはこちらで止めていますが、今後さらに増えていくと、あなたの後ろをダンジョン省の職員がSPのようについていくことになりかねません。」
「それは...なんか嫌ですね。落ち着かなそうです。」
「そうならないためにも、できれば変装などをしていただけると嬉しいのです。」
「わかりました。さすがにSP体制は抵抗ありますからね。こちらでも人が近寄ってこないようにしてみます。」
「ご協力感謝します。」
そう言って頭を下げた佐藤さんに合わせて、俺も「ではこれで。」と頭を下げて去っていく。
変装か...。変装というか、創造スキルで『変身』や『変化』を作れば別人の顔になることができる。
移動中などは、そのスキルを使って身バレ防止をしておこうかな。
ということで早速スキルを創り顔を変え、ダンジョンに向かって歩いていく。
そしてダンジョンの入り口がある建物の近くまで来たところで、いつもより視線が少ないことに気づく。
...今まであまり気づいていなかっただけで、結構見られていたのか?意外な発見だな。
ただまあ、見られていても見られていなくても大した違いはない。ダンジョンに潜ればどっちみち視線はなくなるしな。
視線が少なく、少し自由になったような気持ちのまま、俺はダンジョンに入る魔法陣に乗り転移をした。
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ダンジョン1階層
最近日課になりつつある、剣術の練習。
今日もまずは1階層でその鍛錬をしていた。
(うん。悪くないんじゃないか?)
身軽な恰好で剣を振り、自分の動きに少し納得をする。
最初はいつも通りの装備をつけて練習していたのだが、装備というのはそれなりに重いものだ。
剣術スキルや武器理解の付与があればそれでもあまり関係なく動けるのだが、素の技術だと装備の重さや可動域の制限のせいでなかなか上手くいかない。
なので、まずは装備を身軽にしてから練習をすることにした。これで満足のいく動きができるようになれば、次第に装備をつけていくつもりだ。
現状の動きとしては...悪くはないが、満足というほどでもない。やはりスキルや付与があるときに比べると拙い。
装備をつけて本番用に練習するのはもう少し先だな...と思っていたところで、少し離れた場所に人がいることに気づいた。
ここは深層ではなくダンジョン1階層だ。人がいることもあるだろう。
目的の階層に直接行く人も多いが、準備運動のためにまずは1階層に来る人もいる。あの人もそうかもしれない。
そう考えていたら、その人が近づいてきて声をかけてきた。
「いいところではっけーん。ねえねえ、お兄さんさー、1人?よかったらあーしと一緒に探索せん?」
声をかけられたので見てみると、その子は若い女の子だった。
少し焼けたような肌に、金髪を二つに結んでいる...ツインテール?というやつだろうか?
いわゆるギャルっぽい見た目をしている子だった。
...もう冬が近いのに、焼けているような肌。日焼けサロンでも通っているのだろうか?
横にはドローンが飛んでいて、どうやら配信をしているらしい。...が、角度は変な方向になっている。
「1人だけど...探索仲間なら、ダンジョン前の受付で申し込んだ方がいいんじゃないか?」
「それも悪くないけどー、こうやってダンジョン内で見かけた人と組むのもおもろいぢゃん?一期一会?みたいな感じ?」
「...それは受付で組んでも変わらない気がするけどな。」
話しかけられるなんて滅多にないことだな...と思っていたが、そこで気づいた。俺は今、顔を変えたままだ。ダンジョンに入ってそのまま鍛錬をしていて、顔を戻すのを忘れていたんだった。
もしかして最近話しかけられることがなかったのは、顔が知られていたからか?
「あーし野良パーティ専門で探索配信してるんだけどさー、最近詰まってるんよねー。配信に乗るってなったら嫌がる人もいるしー。顔とか映す許可も取らなきゃ炎上しちゃうからさー、そもそもパーティ組むのもちょっと苦労するっていうかー。」
ドローンが変な方向を向いているのは、俺の顔を映さないためか。
「探索中に他の探索者の顔が映るなんてよくあることじゃないか?」
「そりゃ探索中は仕方ないけど―、こうして映さなくてもいい場面で不用意に映すと騒がれるんよねー。お兄さん、配信はあんま見ない感じ?」
「...そうだな。あんまり見たことないな。」
配信することはあっても、見ることは少ない。見たとしても、そんなマナーとかを気にして見ることはないし。
「いーねー。そういう配信慣れしてない人と組むの楽しいんよねー。カメラ意識しちゃったりするところとか、かあいいよねー。」
「...可愛いって言ったのか?」
「そー。かあいいよねーって。でもたまに戦闘中でも気にする人がいるから、そういうところは危ないんよねー。」
なんだか随分とマイペースな子だな。こんな子が戦えるのか?この子の方が危なそうだけどな。
「お兄さん、さっきの動き見たところ素人じゃないっしょ?その感じなら危なくなさそうかなーと思って声かけたんよねー。どー?一緒に探索せん?それとも配信はNG?」
「うーん...」
少し考える。別に配信に乗るのは構わないが、一緒に探索する理由が...。
いや、探索者同士の交友関係を考えるなら、そんなメリットデメリットばっかり考えていても仕方ないか?
たとえ深層探索者じゃなかったとしても、俺の知らない知識を持っていることはある。春野たちのサークルメンバーがそうだったようにな。
それを考えると、探索者同士の繋がりを増やすというのはそれだけでメリットになりえる。
ならば共同探索を受けてもいいんじゃないか。
「何階層を探索するつもりだ?」
「おー組んでくれる感じ―?30階層までならどこでもいーよー。でもできれば10階層よりは上がいーかなー。一桁階層はうまみ少ないからさー。逆にお兄さんはどこまでいけんのー?」
「俺は...まあ30階層までは行けるよ。いいよ。一緒に探索しようか。」
「いえーいやりー!今日のメンバーかくほー!しかも30階層まで行けるとか当たりじゃーん。」
俺の言葉に女の子は手を上げて喜んでいる。30階層までってことは、20階層台か。それならこの軽装でもいいだろう。
...ああ、もしかして装備が軽装なのも関係していたかもな。浅層~中層くらいの見た目だし。
:よかったねー
:今日はスムーズに見つかったな
:この前なんて1日中見つからず、結局1階層で雑談するだけの配信だったもんな
:お兄さんよろしくね
「とりま自己紹介しよーかー。あーしの名前は桃川きらら。きららんって愛称だよー。」
「きららんか。」
「真顔で言うのウケる―。呼びにくかったらきららでもいーよー。お兄さんはなんて呼んだらいいー?」
きららは握手の手を差し出しながらそう聞いてきた。
名前か...。
レイだとバレるか?別にバレてもいいんだが、なんかここまで来て「実は顔を変えてました」っていうのも言いづらいしな。なんか別の名前のほうがいいか。
うーん、パっと思いつくのがない。オレ、ワタシ、はさすがに名前じゃないな。
英語だとアイ、マイ、ミー。あい、まい、みい。ダメだどれも女の子っぽい。
ユー、ユア、ユー。ゆう、ゆあ。...ゆあも女の子っぽいな。じゃあ残されたものは...
「俺はユウだ。よろしくな、きらら。」
『高速思考』を使って頭をフル回転させ、わずか1秒で名前を考えた俺は、差し出された手を握りながらそう答えた。
予定が変わってしまったが、今日は野良パーティで20階層台の探索といこうか。
...野良パーティなんて、探索初期以来だな。
暗黙の了解というか風潮として、「有名探索者に声をかけるのはダメだが、無名なら多少は構わない」というものがあります。




