51 101階層
ダンジョン101階層
暗闇
転移を終えたはずなのに、視界は真っ黒だった。
少し体を動かしてみるが、感覚はしっかりある。
だが何も見えないので平衡感覚も危うい。
見渡す限り...いや、見渡すことができない真っ暗闇。それが101階層だった。
すぐさま『暗視』スキルを創造し、視界を確保する。
(...神殿?宮殿?みたいな感じだな)
見えた景色は、石造りのとてつもなく広い空間に、等間隔にでかい柱が立ててあった。
芸術的とも言える光景。思わず見とれてしまいそうになるが、ひとまずそれは後回しだ。
:お?再接続した?
:一瞬切れたよね?
:大丈夫?何かあった?
:いや、まだ画面真っ黒だな
近くを飛んでいるドローンが再起動し、再び配信がつく。
あの空間ではドローンの接続が切れてしまったが、ダンジョンに戻ったことによりちゃんと正常に動き出したな。
「画面が真っ黒なんじゃなくて、この階層が暗闇みたいだな。」
:声聞こえた
:暗闇階層か
:ちょっと配信途切れたのはそれが影響?
暗闇の中でコメントを確認してみると、みんな配信が途切れたのが気になっているようだ。さて、何を話すべきか……。
「転移の時に少し変な感じはあったけど、今は問題ない。配信も戻ったみたいだしな。」
:変な感じ?
:なんだそれ
:気になる言い方するな
:まあ無事ならよかった
管理者空間のことをそのまま話す気にはなれなかった。
ダンジョンの秘密に関わることだし、そもそも自分でもまだ整理しきれていない。
話すにしても、少しづつ伝える方がいいだろう。
「それより問題はこの階層だな。見ての通り、真っ暗だ。」
そう言いながら『暗視』で周囲を見回す。
「石造りの広い空間で、柱が等間隔に立ってる。神殿とか宮殿とか、そういう感じに近いな。」
:配信じゃ何も見えないけど、主は見えてるの?
:101階層いきなりこれか
:暗闇対策ないと詰みでは?
:魔物いたらめっちゃ怖そう
「視界がないだけで一気に厄介になるな。今のところ気配は感じないけど、油断はできない。」
床は平らに見えるが、暗闇のせいで距離感が狂いやすい。
柱の陰に何か潜んでいたとしても、不思議ではないだろう。
:ドローンにライト機能あるはずだよ
:弱いけどライトつけられるはず
「ライトか...。いや、今はやめておく。明りをつけると、敵に居場所を知らせるようなもんだからな。それをするなら万全の状態の時にしておきたい。」
通常でも小さな電源ランプはついているが、目立つほどではない。
だが露骨にライトをつけてしまうと、遠くからでも見つかってしまうだろう。未知の階層でいきなりそんなリスクを取りたくはない。
:た、たしかに
:ごもっともです
:主は暗闇でも見えてるってことか
「俺はまあ、見えるな。だから配信的には良くないかもしれないけど、このまま少し探索してみる。危なそうならすぐに帰る。」
:慎重でいいことだ
:今日は様子見でいいぞ
:100階層突破した直後なんだから無理すんな
コメントに軽く頷き、俺は柱の間をゆっくりと進み始めた。
(...わかりにくいな)
しばらく歩いてみたが、景色がなかなか変わらない。この広い空間はどこまでも続いているように感じられる。
自分の足音が柱に当たって帰ってくる。奥行きがつかみにくい。
このまま魔法陣を見つけたとしても、道順のメモや記録などは取れそうにない。
(もしかしたら、柱に何か目印や特徴があるか?)
そう思って柱を見てみると、柱には小さな装飾がついていたり模様が描かれていたりした。
そのままいくつか確認したところ、柱の模様や装飾はどれも少しずつ違っているようだった。
(一応目印はある、と。でもこれ模様を覚えたりするの大変だな。)
派手な模様や装飾でもないし、似たようなものも多い。これを目印に進むには骨が折れそうだ。
:主生きてるよな?
:小さい足音がずっと聞こえるだけだ
:一体何が起きてるんだ
「ああ、大丈夫。ずっと歩いてるだけだ...」
コメントに返事をしかけたところで、空気の奥で何かが動いた気がした。
『気配感知』に反応あり。
数は一体。まだ距離はある。
だが、101階層で初めて遭遇する魔物だ。
「魔物がいた。ちょっと集中する。」
:おお、ようやく魔物が出たか
:気をつけろよ
:緊張してくるな。何も見えないけど
剣と盾を構え、魔物との距離を縮めていく。
『危険感知』は...反応するが、それほど大きくはない。当たり前だが、ボスよりも危険度は低い。
この程度の反応なら勝てると判断して、魔物の姿が見える距離までやってきた。
姿を現したのは、人型の魔物。
だが肌の色は紫で、頭に二本の角、背中には小さな羽が生えていて、両手で三又の槍...三叉槍というやつだろうか?それを持っていた。
暗闇ではあるが、この階層にいる魔物なので当然見えているらしい。相手は俺を見て武器を構えてきた。
そして、剣と槍がぶつかる。
相手の突きに対して、俺は剣で弾く。
だが先端が三又になっているので、弾いたとしても当たってしまいそうになる。
なので弾くだけでなく足も使いながら、相手の槍をかわしていく。
リーチが長い槍に加え、先端の三又。なかなかやりにくい...が、脅威というほどではない。
何度か攻撃を受けてタイミングをつかんだところで『シールドバッシュ』を発動。相手の体勢が崩れたところを斬りにかかる。
だが、接近したところで魔物の角が光ったのが見えた。
そして次の瞬間。魔物の角から電撃が放たれる。
「ッ!!」
至近距離からの電撃。咄嗟に盾で防ぐが、完全には防ぎきれない。
盾から漏れ出した電撃が、俺の体を痺れさせる。
(このまま押し切る!)
だが、痺れて動きが止まってしまいそうになるのを振り切り、俺は一歩踏み込んで剣を振る。
まだ体勢が整っていない魔物はその斬撃をモロに受け、胴体から血を流す。
そのまま『瞬迅斬』でさらに斬りつけ、追加でもう一太刀浴びせたところで魔物は倒れて粒子化していった。
(角から魔法か...。ほとんどノーモーションだったし、要注意だな。)
これまでの魔物は、攻撃の際に何かしらの予備動作があるものが多かった。だがこの魔物の魔法は、そういった予備動作なしでいきなり放たれた。これを初めてで防ぐのは厳しいだろう。
だが、わかっていれば対処できるはずだ。
:終わった?
:なんかバチバチいってたな
:生きてるか?
「ああ、生きてるよ。魔物は倒した。」
:初見で勝てたのか!
:さすがだな
:どんな魔物でした?
俺はドロップアイテムを拾いながら、魔物の見た目をコメントのみんなに伝える。
お、運よく転移石が出た。これで次は101階層からスタートできるな。
:人型か~
:なんか悪魔っぽい?
:創作物の魔族とかそんな感じだよね
魔物の特徴を聞いたコメント欄は、そんなことを言っていた。
悪魔...言われてみればたしかにそんな感じだったかもな。
「真っ暗だし、お城のような、宮殿のような階層だし。ほんとに悪魔の魔物かもな。」
そういえば『鑑定』ができなかった。鑑定出来ていれば、アシュファンの時のように何か情報がわかったかもしれないな。
まあ今は100階層を終えて過剰駆動の反動中だから、あまりスキルを多く作ることはできない。鑑定は次の機会でいいだろう。
「今ので転移石手に入れたから、ひとまず戻ろうか。今の状態で長居は危険そうだ。」
:おお、一発で手に入ったのか
:よきよき。無理せずにすんだね
:もうすでに無理してないか?
「これくらいは無理のうちに入らないから大丈夫。前の変異体のときのようなことを、無理してるって言うんだよ」
:それ引き合いに出すのはずりいわ
:あれに比べたらほとんどのことが無理してないことになるんだよな
:未知の階層だから、より一層慎重にな
:ほんとに悪魔だとしたら不吉だしな。用心しろよ
(不吉か...)
真っ暗な階層。悪魔の魔物。そう思うと、この荘厳だと思っていた光景もなんだか不気味に思えてくるな。
今は、100階層を超えたばかりの101階層。
思い出すのは、管理者空間での最後の言葉。
『完成時は216階層を予定しています。』
まだ半分程度と思うべきか、1000や2000といった途方もない数字じゃなくてよかったと思うべきか。
ダンジョンをどこまで攻略するかは決めていなかった。というか、寿命を延ばす手段が見つかれば、それ以上攻略はしないつもりだった。
だがゴールを知った今なら、いつかは完全攻略を目指していいかもな、なんて思っている。
先日の変異体の時のような危険もあるから、そこまで本気でやるつもりはないけどな。
(まあ、それはともかくとして。今は帰って霊薬を歌に渡すことだな。)
今回の目的は、四肢欠損を治す手段を見つけること。この101階層の攻略は、おまけみたいなものだ。
治る可能性が高いとは言っていたが、もし治らなかったら今度こそエリクサー探しだな。
そう考えながら、俺は一階層の転移石を使用した。




