50 ダンジョン管理者補佐システム
「ダンジョン管理者補佐システム...?」
光の球体が言った言葉をそのまま繰り返し、頭の中で分析しようとする。
だが考えてみてもよくわからない。なんだそれは?
『解。はい、なんでしょうか。』
俺のつぶやきに球体が反応する。会話が可能なのか?
「ダンジョン管理者補佐システムとはなんだ?」
『解。ダンジョンの管理者を補佐するためのシステムです。』
「...ダンジョンの管理者とはなんだ?」
『解。ダンジョンの設定・運営を行う者です。』
こちらの質問に淡々と答えていく光の球体。イマイチ要領を得ないが...つまり、ダンジョンには支配人のようなものがいるってことか?
ダンジョンには何者かの意思がある、というのは、世界中の人々がうっすらとわかっていたことだ。だが、こうも唐突にその存在を知らされるとさすがに戸惑ってしまう。
「...あんたが補佐システムってことは、あんたとは別に管理者がいるってことか?」
『解。現在、このダンジョンに管理者は存在しません。』
確認のつもりで聞いたことが、意外にも否定されてしまった。
「...管理者がいないのに運営しているのか?」
『解。現在このダンジョンは、前任の管理者が設定したものになぞらえて、自動システムが運営を行っています。』
前任の管理者?
「前任の管理者はどこに行ったんだ?」
『解。前任の管理者は消滅が確認されております。』
わけがわからない。消滅とはなんだ。そもそも管理者とは人なのか?
「その前任の管理者っていうのは、人間なのか?」
『解。いいえ、違います。』
「...何故消滅したんだ?消滅というのは、立場を放棄したのか?それとも死んだのか?」
『解。消滅理由については、現在のあなたの権限では教えることができません。消滅の定義については、あなたの知識に合わせるならば"死"と捉えて問題ありません。』
...理由はわからないがダンジョンの管理者は死んでしまって、現在このダンジョンには管理者がいない、ってことか。
「...俺をここに呼んだ理由は?新しい管理者にでもなれってことか?」
『解。秘密のオーブの設定を行ったのは前任の管理者です。わたしがお呼びしたわけではありません。前任の管理者がいない今、あなたをここに来させた理由はありません。なお、現在のあなたでは管理者になることはできません。』
なんだそれは。
「前任の管理者は、ここに人を呼んで何するつもりだったんだ?」
『解。不明です。』
「...秘密のオーブの発動条件はなんだったんだ?」
『解。秘密のオーブは初めてアシュファンを倒した存在に与えられるものです。発動条件は、"アシュファンを倒して出現する、ダンジョンの先に続く魔法陣を使用すること"です。』
思ったよりもシンプルだった。単純に、先に進もうとすれば発動するだけのものだったのか。
...そういえば、最初に少し気になることを言っていたな。
「最初、初期状態アシュファンって言っていなかったか?」
『解。はい、その通りです。現在アシュファンは初期状態で運用を行っております。』
「初期状態とはなんだ?」
『解。管理者がカスタマイズを行う前の、創り出されたばかりの状態のことです。現在アシュファンのカスタマイズは消滅しております。』
...100階層のドラゴンが想像より戦いやすかったのは、それが原因か?
「なんで初期状態なんだ?」
『解。前任の管理者の消滅と同様の理由です。具体的な内容は教えることができません。』
「...管理者とは違って、アシュファンは死ななかったのか?」
『解。カスタマイズされたアシュファンは消滅しました。現在のアシュファンは、バックアップから生み出されたようなものだとお考えください。』
管理者だけでなく、アシュファンも何かしらの理由で消滅...死んでしまったということか?ダンジョンの魔物なら、死んでも復活するんじゃないのか?
「ダンジョンの魔物なのに消滅するのか?復活はしないのか?」
『解。はい、場合によっては消滅します。』
「...今後アシュファンは、ずっと初期状態のままなのか?」
『解。いいえ、到達者が現れたことによりカスタマイズ機能が作動しました。今後は到達者との戦闘に応じて少しずつカスタマイズされていきます。』
その言葉通りに受け取るなら、100階層のドラゴンは戦うほどに強くなる、ということだろうか。
...100階層は、今後ますます危険になっていくのかもしれない。
「...その管理者ってやつは、100階層のドラゴン、アシュファンを初期状態より強くしていたんだな?」
『解。はい。前任の管理者はダンジョンの各種要素に調整を加えていました。』
「何のために?」
『解。現在のあなたの権限では、目的の詳細は開示できません。』
「またそれか。」
『解。はい。』
思わずため息が漏れる。
だが、今の返答だけでも十分に異常だ。ダンジョンの管理者は、魔物の強さや構造そのものを弄れる存在らしい。
「...じゃあ今のダンジョンはどうなってる?管理者がいないなら、この先ずっと自動運営なのか?」
『解。現在の自動システムは暫定運営状態です。』
「暫定?」
『解。はい。正常状態ではありません。本来、ダンジョンは管理者が長期間いないことは想定されていません。』
まあそれはそうだろう。管理者がいないのが正常なわけない。
「正常状態じゃないと、何か不都合があるのか?」
『解。管理者不在の状態では、外部からの干渉に対する防御性能が大幅に低下します。』
「外部からの干渉?」
『解。はい、外部からの干渉です。詳細は開示できません。』
...開示されない情報が多いな。
詳細不明だが、一つ分かったことがある。
ダンジョンは、ただ放っておいても回る便利な仕組みではないということだ。
(...気にはなるが、わからないことはしょうがない。それよりも、俺が知りたいことは別にある。)
「ダンジョンのアイテムについて聞きたいんだが、四肢欠損はアイテムで治せるか?」
『解。ダンジョン内アイテム、"霊薬""エリクサー"を使用すれば、四肢欠損を修復できる可能性は高いです。』
「可能性、か。」
『解。個体差、使用条件、損傷経過時間により結果が変動します。ですが、通常治療および一般回復魔法よりも有効です。』
確定とはいかないが、霊薬でも治る可能性は高いらしい。それを聞き少し安心した。
「ついでに聞きたいんだが、エリクサーは白蛇の鱗とドラゴンの血を調合すれば作れるのか?」
『解。エリクサーは作成のための素材が七つ設定されており、そのうち三つを合わせることで作成可能です。』
流れでエリクサーについて聞いてみたが、想像とは違った答えが返ってきた。七つあって、そのうちの三つ?
「七つもあるのか?そのうちの三つならどんな組み合わせでもいいのか?」
『解。はい、七つあります。そのうち三つならどの組み合わせでも構いません。ただ、同じ種類のものを使用することをできません。』
「白蛇の鱗二つと、ドラゴンの血一つ、とかではダメってことだな。」
『解。その通りです。』
それならまだ作ることはできないな。現状、白蛇の鱗とドラゴンの血の二種類しか持っていない。
「白蛇の鱗とドラゴンの血、それ以外の素材の名前や入手方法は?」
『解。詳細を開示することはできません。しかし、アシュファンを撃破した段階でエリクサーを作成できるようには設定されています。』
「...つまり99階層までに、最低二つは素材が手に入るようになっているってことだな?そして100階層のドラゴンの血も含めて三つで、エリクサーが作成できると。」
『解。その通りです。』
なるほど。となればエリクサーのために、残り一つの素材を99階層までで探す必要があるってことか。
だが、あるとわかっているのなら探す気力も出てくるってものだ。
そういえば、素材がありそうな怪しい場所があったな。ダメ元で聞いてみるか。
「80階層台の隠し部屋、というか、以前87階層で入り口がない空間を発見したんだが、そこには何がある?どうやったらその空間に行ける?」
『解。権限がないためその情報を開示することはできません。』
やっぱりダメか。開示権限?ってやつがないらしい。
「逆に、俺には何か権限があるのか?」
『...』
「どうした?」
急に質問に答えなくなってしまった。
『...情報更新完了。解。あなたはダンジョンレベル100、あなたの認識でいう100階層の初撃破者であるため、限定情報への接触権限を一部獲得しています。』
「限定情報?というか、その言い方的に階層のことはダンジョンレベルって言うのか?」
『解。限定情報は前任の管理者が残した記録、および今後の到達者支援情報です。階層についての名称は、システム的にはそう呼んでいました。今後はそちらに合わせて階層と言わせてもらいます。』
「まあ階層については分かればいいか。それで、その限定情報ってのを見ればダンジョンについて少しは分かるのか?」
『解。はい。ただし、現在は一部のみ開示可能です。』
どうやら何かしらの権限はあるらしい。何が知れるのかわからないが、見てみようじゃないか。
「わかった。開示できる情報を開示してくれ。」
『解。かしこまりました。開示可能ログを表示します。』
その言葉と共に、半透明なウィンドウが空中にうつしだされた。
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難易度2ダンジョン(改変途中)
目的:生物の進化
特殊システム:主の規定挑戦者数が進むごとに減少・挑戦時の魔力体化機能オフ
備考:管理者不在のため改変停止中。外部からの表示難易度は2のまま。
保有ダンジョンポイント:12088
※その他は閲覧権限無
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「...難易度?目的?特殊システム?ダンジョンポイント?」
『解。各種、詳細な内容は現在公開できません。公開できることは、特殊システムとは通常のダンジョンとは違ったシステムのことです。ダンジョンポイントとは、ダンジョンを作成・改変するために使用するポイントです。』
「それ以外のことは秘密か?」
『解。それ以外は現在教えることができません。』
気になる項目がたくさんあるが、肝心なところはほとんど教えてくれないらしい。
「...その権限ってのは、どうすれば手に入れることができるんだ?」
『解。いくつか方法がありますが、今できることであればダンジョンの攻略を進めることです。』
「他の方法は...」
『解。権限不足のため開示ができません。』
「あーはいはい。」
投げやりに返事をする。とにかく、知りたいことがあれば攻略をすすめろということらしい。
(とはいえ、どうするかな...)
俺の目的は、寿命をのばすことだ。100階層まででエリクサーが作れるのならば、無理にそれ以上攻略を進める必要はない。
100階層までを周回してエリクサーをたくさん作れば目的達成だからな。
しかし100階層主...アシュファンは、戦うほどに強くなるように設定されているらしい。となると、今は倒せてもいずれ倒せないようになってしまうかもしれない。
そうなるとエリクサーの七つのうちの別の素材を求めて、攻略を進めることになるかもしれない。
(...これまでよりはゆっくりと探索を進めればいいか。)
現状、先を急ぐ理由はない。ダンジョンの秘密も気にはなるが、別に今すぐ知りたいというものでもない。秘密を知らなきゃ死ぬとかならともかく、そうでもないしな。
ならば100階層までを細かく探索しつつ、時々階層を更新していく、くらいでいいだろう。
そう考えていたところで、球体が声をかけてきた。
『報告。そろそろ時間です。』
「時間?」
『解。管理者でないものがずっとこの空間にいることはできません。管理者ならその設定も変更できますが、補佐システムであるわたしにその設定を変えることはできません。』
「そうか...。結局、なんのためにここに来たのか不明だな。」
『解。前任の管理者が設定したことですので。わたしも目的は不明です。』
前任の管理者は、100階層を突破したやつを呼んで何をしたかったのだろうか。死んでしまった今となっては分からない。
もしくは、権限を手に入れたらそれも知ることができるのだろうか。
何のために呼ばれたのかはわからないが、管理者やシステムのことなど、ダンジョンの秘密の多くを知ることはできた。同時にさらに多くの謎もできてしまったが...。
俺の足元に魔法陣が浮かび上がる。この魔法陣によってダンジョンに戻されるのだろう。
「俺はこのままどこに送られるんだ?」
『解。101階層へと転移をします。なおこの場所はあなたのいた場所と時間の流れが違うため、向こうではおよそ10秒ほどしか経過していないはずです。』
「...なんでもありだな。」
時間の流れが違うなんて初めて聞いた。ダンジョンは常識外れとは言え、時間の概念まで崩されてしまうとはな。
戻る前に聞いておきたいことと言えば...。ああ、そうだ。
「もう一度ここに来ることはできるのか?」
『解。基本的に管理者以外が来ることはできません。しかし現在の管理者不在の状況や、あなたが一部権限を得ていることを考慮して、いずれまたここに来るオーブが手に入るように設定しておきます。ただしわたしは補佐システムでダンジョン改変の権限が少ないため、実施には時間がかかると考えておいてください。』
「いずれ、ね。」
いつかはわからないが、またここに来ることはできるらしい。
ダンジョンの秘密も、知れるなら知りたいからな。その機会がありそうでよかった。
そうして魔法陣が起動し、光が俺を包んでいく。
最後にもう一つ、俺は気になることを質問した。
「101階層に転移ってことだが、ダンジョンは何階層まであるんだ?」
これもダメ元だった。おそらくまた権限がないと言われると思っていた。
『解。このダンジョンは改変途中だったため、未完成です。現在も前任の管理者の設定になぞらえ、自動システムが少しずつ階層を増設しています。』
だが、予想に反してその答えは返ってきた。
『現在の最終階層は、183階層です。完成時は216階層を予定しています。』
その言葉を聞くと同時に、俺はその場から姿を消した。




