49 謎の空間
目の前でドラゴンが粒子となって姿を消していく。
そして姿が消えた場所に残されたのは、魔法陣や魔石やオーブなど...。ボスを倒したときに出てくるドロップアイテムだった。
(...?)
俺は剣と盾を構えたまま辺りを見渡す。追加の魔物が来るわけでもなければ、ドラゴンの第二形態が襲い掛かってくるわけでもない。
(...終わりか?)
まさか本当にこれで100階層突破なのか?
確かに強敵ではあったし、余裕の勝ちだったとは言えない。
だがブルーオーガやヤマタノオロチよりも苦戦したかと言われると、そんなことはない。
レベル100になって能力が強化されて、過剰駆動を長時間使用できるようになっていることを差し引いても、あっさりしすぎている気がする。
しかしそのまま数十秒、一分が経過しても、状況は変わらない。
俺はもう一度周辺を見渡して異常がないことを確認すると、過剰駆動を解除してボスが消えた位置まで歩いていった。
:え?マジで突破?
:初見突破すげえええええ
:ヤマタノオロチの方が強くなかった?
:見てるだけじゃわからんけど、やっぱドラゴンの方が強かったんだろうな
ドローンが近づいてきて投影されているコメントを見てみるが、やはりコメントも「これで終わり?」という気持ちのようだ。
俺も同感だがどうやらこれ以上は何も起こらないようなので、釈然としない気持ちのままドロップアイテムを確認してみる。
ドロップアイテムは、魔石、転移石、何かのオーブが二つ、瓶に入った赤い液体だ。
(魔石はいいとして、転移石は100階層のものか。これで100階層に直接来れるってことだな。)
転移石は通常の魔物を倒して手に入れるのが普通だが、この階層はおそらくドラゴンしかいないのでボスのドロップとして出てきたのだろう。
毎回99階層を突破するのは面倒だし、転移石が出てくれてよかった。
そしておそらく本命である、オーブ二つと赤い液体。
そのままでは何かわからないので、『鑑定』を創造してみる。
(...ちゃんと創れるな。)
以前までなら過剰駆動を使用した後は、反動でスキルが創造できなかった。だが強化された今なら、創れる数や効力は下がるが多少は創造することができる。
そうして創造できた鑑定スキルで、まずはオーブを確かめてみる。
一つ目のオーブ
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選択のオーブ
霊薬、万能薬、スキルオーブ、付与素材、調合素材、装備
の中から一つ選んで入手することができる。
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そのままもう一つのオーブも見てみる。
二つ目のオーブ
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秘密のオーブ
特定条件下で自動発動する特殊オーブ。
発動条件・効果は開示権限不足により不明。
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(...んん??)
思わず首を捻ってしまった。
一つ目のオーブは、まあいいだろう。霊薬や万能薬が何かはわからないが、選択肢の中から欲しいものが手に入るということだ。
問題は二つ目のオーブ。なんだこれは。
何かをすれば自動的に発動するらしいが、その何かがわからないのではどうしようもない。
開示権限、というものがあればわかるのかもしれないが、その権限も何か不明だ。
...レベルか?一定レベルに達すると使用される、とかだろうか。効力は全く予想できないが...。
:オーブ見つめてどうした
:何か書いてあったりする?
:スキルオーブ?ではなさそう?
ひとまずこれは保留だな。ドロップ品だし、まさか呪いのアイテムとかではないだろう。
オーブは置いといて、最後の赤い液体だ。
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ドラゴンの血
ドラゴンから得られる素材。
極めて高い生命力と魔力を内包しており、伝説の霊薬、エリクサーの素材となる。
単体では効力を発揮しない。
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来たか...!エリクサーの素材!
読み通り、やはり100階層で手に入った。他の事を後回しにしてここに来てよかったな。
...とはいえ、ヤマタノオロチの素材とこれの二つだけでエリクサーが作れるかはわからない。
作れるかどうかは調合系のスキルで試す必要があるが、さすがにそれは過剰駆動の反動が抜けてからの方がいいだろう。中途半端に試して素材が劣化したり使い物にならなくなったりしたら嫌だしな。
というわけでこれもひとまず保留、というか仕舞っておく。
あと気になるのは、選択のオーブの霊薬と万能薬についてだ。それぞれ調べてみよう。
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霊薬
あらゆる傷を癒やし、いかなる状態からでも使用者を回復させる。
ただし病気や呪いには効果が無い。
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万能薬
あらゆる万病を癒し、如何なる呪いも解除する。ただし外傷には効果が無い
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(これは...)
エリクサーの効力を分離したものだろうか。傷に効く薬と病気に効く薬の二つだ。
...もしかしたら、エリクサーでなくとも霊薬で四肢欠損を治せるか?
エリクサーも似たような文章だったから、可能性はあるな。
これで歌の腕が戻るなら、それでいい。
エリクサーだろうが霊薬だろうが、治るなら何でも構わない。
:おーい
:大丈夫?
:食い入るようにドロップ品見つめるじゃん
一通り調べ終わったところで、コメント欄を見てハッとする。そういえばずっと黙ったままだったな。
「ああ、悪い。ちょっと色々考え事してた。本当にこれで100階層突破なのか、とかな。」
:100階層突破おめでとうございます!
:マジでこれで終わりなん?
:結構簡単に勝てたように見えたけど、実際のところどうですか?
「俺も疑ってたけど、本当に終わりっぽい。俺的にはヤマタノオロチの方が苦戦したな。ドラゴンも強かったけど、特殊な能力を使ってこなかったから戦いやすかったな。」
:普通にブレスとか薙ぎ払いしてくるだけだったもんね
:ドロップアイテム何ですか?
:アイテム見つめてたけど、何かわかった?
「ドロップ品は...。わかったこともあるけど、まだ全部わかったわけじゃないな。この後色々試してみて、ちゃんとわかったら言うよ。」
:わかってるところだけでも教えてくれ!
:不確定情報言うわけにもいかないから仕方ないね
:主が今度って言ってるから、俺たちは素直に待てばいいんだよ
エリクサーや霊薬、万能薬については、開示するか難しいところなので一旦伏せておく。
もし霊薬が四肢欠損を治せるなら。もし万能薬が不治の病も治せるなら。
大きな騒ぎになるだろうし、色んな人や企業が接触してこようとするだろう。
ダンジョン省が他からの接触を防いでくれるとはいえ、それにも限度はある。これらのアイテムが知られれば、ダンジョン省でも守り切れないほどの接触者が来るだろう。
なので開示するにしても、他のチームが到達してからのほうがいい。それまではできるだけ開示しない方針だ。
「どうするかな...。」
ドロップ品を回収してから、ぽつりと呟く。
このまま帰るか、少し先に進んでみるか。
選択のオーブやエリクサーの素材があるし、ヤマタノオロチ同様にこの100階層も繰り返し訪れることになるだろう。
なのでこのまま帰って後日何度か100階層を周回し、しばらくしてから先に進むという選択もある。
歌に霊薬を渡すつもりだから、さっさと帰って渡した方がいいという考えもある。
だが、100階層の先がどうなっているのか気になるという思いもある。
101階層があるのか、それとも100階層で終わりで、この魔法陣は外に出るものなのか。
(...使ってみるか。)
もし101階層とダンジョンが続くのであれば様子見はしておきたいし、転移石も入手できるならしておきたい。
とはいえ過剰駆動の反動があるので、魔物を倒すのは難しいかもしれないが。
いざとなれば帰還の宝玉で帰ることもできるし、様子を見て危なそうだったらすぐに帰ればいい。
:お?そのまま進む?
:まだダンジョンって続くんですかね
:101階層のお披露目か?
「行くだけ行ってみるよ。先に続くのか、これで終わりで外に出るのか気になるし。」
:俺も気になる!
:ダンジョン研究者はみんな気にしてるよな
:研究者じゃなくてもみんな気になるだろ
やはりみんなこの魔法陣がどこに続くのか気になっているようだ。
...まさかとは思うが、転移先でドラゴンとの第二ラウンドとかないよな?
そんなことを考えながら魔法陣の上に立ち、起動準備に入る。
そしてしばらく経って魔法陣が起動しようとしたところで...
ピカッ!と、懐が光った。
「なんだ?」
突然の光に驚いていたところで、目の前にウィンドウが現れる。
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条件を満たしました。秘密のオーブが使用されます。
秘密のオーブの効力により、転移先を変更します。
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「...は?」
思わず呆然としてしまう。
秘密のオーブって、さっき入手したやつだよな?
もっと先で使うものかと思ったのに、もう使用されるのか?
というか、転移先を変更...!?どこに連れていかれるんだ...!?
驚愕するが、かと言ってどうすることもできず。
俺は光に包まれてその場から姿を消した。
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「どこだここ...?」
光が収まってすぐに、俺は辺りを見回す。
そこは不思議な空間だった。
広くも見えるし、狭くも見える。
白くも見えるし、黒くも見える。
丸にも見えるし、四角にも見える。
はっきりと空間を捉えることができない。だが不思議と不安な感じはしない。
不安な感じはしないが、しかし俺は油断せずに懐から帰還の宝玉を手にして、いつでも使えるような態勢を取った。
何かあれば、すぐに引き返す。
だが、引き返す前にせめてここがなんなのか知っておきたい。
そう考えたところで、ふと目の前に光り輝く球体があることに気づいた。
空間が曖昧で気づかなかったが、目にした瞬間にこの球体がこの空間の「核」だと一目で理解できた。
素早く『危険感知』を創造。反応は...ナシ。
(危険なものではない、か。)
危険感知は反応しないので、正体を確かめるためにゆっくりと球体に近づいていく。
その途中で気づいたが、ドローンが落ちていて稼働を停止している。この特殊な空間のせいだろうか?当然、配信もついていないしコメントも流れていない。
この空間、球体。次はそれらを『鑑定』しようとしたところで。
唐突に球体から声が聞こえてきた。
『レベル100、初期状態アシュファンの初撃破を確認。秘密のオーブの使用を確認。』
中性的な、機械のような声。
その言葉は日本語ではないはずなのに、何故か意味が理解できた。
そして球体は続けてこう言った。
『管理者空間へようこそ、ダンジョンに挑みし者。わたしはダンジョン管理者補佐システムです。』




