42 再生封じ
(こんなもんかな)
ダンジョン1階層で付与を終えた俺は、その出来栄えを確認する。
ひとくちに付与と言っても、素材や腕前によって効果に強弱がつく。なので付与を終えた後は毎回確認が必要だ。
つけた付与は予定通り『瞬迅斬』と『重量軽減』
どちらも問題なく機能しているし、効果も最大限まで引き出せていると言っていいだろう。
瞬迅斬は、付与効率が悪いとタメが必要になってしまう。素早く斬る技なのにタメが必要になってしまうと意味がないので、特に気を付けなければいけない付与だ。
(それじゃ、明日はこの剣を使って90階層に挑んでみるか)
影山から教えてもらった隠し部屋のことも気になるが、現状隠し部屋のアイテムはすぐに欲しいものではない。
なのでまずは当初の目的だった『巨大爬虫類特攻』が90階層主に効くかどうかを試すことにして、隠し部屋はその後に探すことにしよう。
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そして次の日。
予定通り90階層に転移をし、ヤマタノオロチを目指して進んでいく。
:今日は90階層か
:なんか対策思いついた?
:ひとまずもう一回戦ってみる?
「今回は試してみたいことがあるから、その検証のための戦いだな。」
:ほう。どんなこと?
:何をするの?
「この前知り合いに教えてもらったんだけど、30階層台の装備には『巨大爬虫類特攻』っていうのがあって───」
今回試してみることを説明すると、コメント欄も驚いた様子だった。
:そんな性能あったのか
:知らなかった
:知ってはいたけど、90階層主にも効くかもって発想はなかったな
「そうだよな。そんなに前の階層の装備が通じるかもなんて発想は、なかなか出てこないことだ。視野が広いというか、柔軟な発想してるなって感心したよ。」
:その知り合いって探索者?
:ダンジョン研究家みたいな知り合いがいるとか?
:それに気づく知り合いすげーな
「厳密には知り合いの知り合い、だな。探索者繋がりで紹介してもらったんだよ。結構納得できる仮説だったし、このまま90階層主に挑み続けるのもちょっときついからな。試してみようって思ったんだ。」
こういう考えを知れたりするから、探索者同士の繋がりはあったほうがいいんだろうな。俺も、もう少し積極的に周りと関わっていくべきなんだろうか。
そんなことを考えているうちに、ヤマタノオロチの前に到着した。
マジックバッグから今回使う剣を取り出し、最終確認で少し素振りをする。
(大丈夫そうだな。いつもと違うことをするっていうのはちょっと緊張するけど、まあ今回は検証だ。効果を確認したら撤退すればいい。)
何度か深呼吸をした後に、ボスの間に足を踏み入れる。
ヤマタノオロチはいつものように八つの首から魔法を放ってくるが、俺は『魔法切断』効果のついた剣を使い対処する。
切断された魔法が辺りを爆破していく中、俺とヤマタノオロチは同時に前に出る。
そして襲い来る複数の頭。黒、赤、黄の頭が噛みつきをしてきて、他の頭は遠距離攻撃をしてくる。
噛みつきを盾で防ぎ、横に避け、赤の頭にほんの一瞬の隙ができたところで。
(瞬迅斬)
俺は瞬迅斬を叩き込んだ。
その斬撃は赤の頭に半分ほど切れ込みを入れたが、一撃で斬り落とすには至らなかった。
血を撒き散らしながら、赤の頭は大きく身を引く。
(30階層台の装備にしてはよく効いてる。ってくらいか?)
中層の装備でこれだけ傷を与えられるのはすごい。だがこれなら、普通に深層用の剣を使ったほうがいいかもしれない。あっちなら、上手く入れば瞬迅斬一撃で首を斬り落とせるし。
そう思いながら飛んできた魔法を躱し、噛みついてきた黒の頭の噛みつきを防ぎ、剣で斬り返す。
その斬撃は、黒の頭にも半分ほどの切れ込みを入れた。
(お?黒の頭にもこれだけダメージが入るのか。)
黒の頭は物理特化で、防御力が非常に高い。そのため斬り落とすには強力な技が必要で、通常の斬撃では深層用の剣でもほとんど通じない。
だがこの30階層台の剣は、ただの斬撃で黒の頭に半分切れ込みを入れた。
(どの頭にも一定ダメージ、みたいな感じか?)
頭の色に関係なく、切れ込み半分の傷を与えられるのかもしれない。もしそうなら、黒の頭に対してはこの剣のほうが有効だろう。
(でもそうなると、三本の剣を使いまわすことになるんだよな...)
この剣を使うのならば、深層用、魔法切断用、黒の頭用と、三本の剣を状況に応じて持ち替える必要がある。
どこかで切り替えを間違えて事故が起きそうな気がするし、ちょっと厳しいな。
(悪くはないが、現状だとちょっと選択肢には入りにくいな。)
そう考えながら戦っていたが、大きな変化が起こったのはその少し後だった。
(瞬迅斬)
近づいてきた赤の頭に再び斬撃を入れる。
今度は首が胴から離れ、重い音を立てて地面に落ちた。残った首部分は距離を取るように後退する。
(...?再生しない?)
そしてその斬り落とした側面からは、いつものように肉が盛り上がり新しい頭が生えてくることはなかった。
(もしかして、再生を封じるのか?)
深層用の剣よりも威力は弱いが、相手の再生を封じる。それが巨大爬虫類特攻の効果か?
その後黒の頭も斬り落とすが、こちらも同じく再生しなかった。
おそらく、再生封じの予想で合っているだろう。
(...そうなると話は変わってくるな。再生しないっていうのは大きいぞ。)
ヤマタノオロチは再生の特性上、どうしても長期戦になってしまう。だが再生を防げるのであれば、短期決戦も視野に入る。とはいえ30階層台の剣は威力が低いので、短期決戦で押し切れるかどうかは微妙かもしれないが。
そう思っていたところで、ヤマタノオロチの首の五つが上を向いて魔力を集め出した。
大技だ。
(...一旦撤退するか)
ある程度効果を試すことはできた。戦いながらでは考えがまとまらないし、一度帰って状況を整理しよう。
俺はマジックバッグから帰還の宝玉を取り出し、ヤマタノオロチが大技を放った瞬間にダンジョンから脱出をした。
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:おかえりー
:まさかの結果
:巨大爬虫類特攻の結果出てたよね?
ダンジョンの外に出た俺は、人の少ない場所に移動してコメントを確認する。
「ああ。あの剣だと再生を防ぐことができるみたいだ。これはかなり大きい」
:再生が結構クソゲーだったもんな
:実質体力半分にできるってことか
:30階層台の剣で最後まで戦える?
「うーん...再生しないなら、この剣を使う価値はかなりある。ただ30階層台の武器は耐久力が不安だ。不慮の事故で折れる可能性もあるし、本格的にこれで挑むなら予備を一、二本は用意しておきたいな。」
そのためにはまた瞬迅斬の付与素材が必要だ。
それに帰還の宝玉も使ってしまったからまた取りに行かないといけないし、ドーピングアイテムも集めておきたい。つまり86~89階層の周回も必要だし、深層までの解説配信もある。
「...やることが多くなってきたな。」
:無理するなよ!
:というか普段から潜りすぎ。週4回とか潜ってない?
:大体みんな週1、2回だぞ
:休むのも大事
「...そんなもんなのか?最初は毎日のように潜ってたから、あんまりその辺の感覚は分からないんだよな。」
それに俺は創造スキルで回復系スキルを創ることもできる。そのため1、2日あれば傷も疲れも取れるし、そんなに無理をしているつもりはない。
「ひとまず次の2、3回は準備のための配信になると思う。まあその間も深層の様子とか映せるものは映していくよ。」
:自分優先でいいからな
:後続のことは考えすぎないでいいぞ。他のチームも自力で突破できるだけの力はある
「まあ後続のことというか、巡り巡って自分のためなんだけどな。他のチームが来てくれれば、情報が集まったり素材の交換ができたりするし。」
特に今の状況みたいに、一人で全部やるってなると大変だ。他のチームがいてくれればもう少し楽できたかもしれないんだが。
「休むのが大事なのはわかるけど今日はまだ余裕あるし、86~89階層のアイテムを何個か取りに行こうか。その間にヤマタノオロチの対策とか一緒に考えてくれ。」
最近他の人と話していて思ったが、やはり人との関わりは大事だ。この巨大爬虫類特攻も自分では気づけなかっただろうし。コメント話すことで何か新しい発見もあるかもしれない。
そう考えながら俺はダンジョンに入る魔法陣に立ち86階層へと転移をし、アイテム集めに向かった。
:ボスと戦っておきながら余裕...?
:普通、ボスの間に行って戦うだけで余裕なくなるんですけどね
:というか、もしかしてギミック無視してゴリ押ししてたってこと?そりゃきついわ
なお、コメント欄は少し混乱気味だった。
次回は3月30日(月)更新です




