41 名前は必要?
「それで?まさかお礼だけ言いに来たわけじゃないだろ?」
「まあね。会ってみたかったっていうのも理由だけど、さすがにそれだけじゃ来ないよ。単刀直入に言うと、情報交換が目的だね。」
当然他にも目的があると思ったが、情報交換か。文句や手合わせよりも真っ当で良かった。
「さっき情報交換できるならしたいって言ってたし、受けてもらえるかな?」
「内容によるな。」
「ほしいのは、70階層主の情報だね。特徴や戦い方、当時の君の装備、どうやって勝ったのかとか。」
それもいずれ配信するつもりだが、天譚九曜としては今その情報がほしいってことだろう。情報が少ないまま何度も挑みたくはないだろうしな。
「代わりに僕から差し出すのは、60階層台の隠し空間のこと。知ってるかい?」
「隠し空間?」
「うん。知らないのなら、交渉成立できると思うよ。」
隠し空間というものは知らないな...。60階層台は長居したくない階層なので、早々に突破してしまったし。
というか、ダンジョンにそんなものがあるのか?
「...わかった。交渉成立だ。」
「おっけー。じゃあ僕から情報提供するね。まずはこれを見てほしいんだ。」
そう言って影山は懐から手のひらサイズの石を取り出した。綺麗な石で、中心がうっすらと光っているように見える。
「これは探魔石ってアイテムでね。魔物が近づくと強く光って接近を教えてくれるんだ。これは60階層の隠し空間...隠し部屋って言うべきかな?そこで手に入れることができるよ。」
「...その石のことも、隠し部屋のことも知らなかったな。隠し部屋って言うのは?」
「60階層台は洞窟の迷路だけど、行き止まりに見えて実は奥に空間がある場所があるんだ。そこだけ壁を壊すことができて、隠し部屋に入ることができる。」
行き止まりの奥にそんな場所があったのか...。進めないと思ったらすぐに引き返して別の道を行っていたし、ダンジョンは壊せないという固定観念があったから、壁を壊して奥を調べるっていうのは考えたことなかったな。
「ちなみに僕らが見つけたのは65階層。61~64階層もある程度調べてみたけど、そこでは隠し部屋は見つからなかったね。そして66~69階層も、探索はほどほどに次に進むことを重視していたから見つけられていない。」
「確実にあるって言えるのは65階層か。」
「そういうこと。そして頭に入れておいてほしいのは、こういうのが70階層台や80階層台にもあるかもしれない、っていうことだね。」
影山の言う通りだ。65階層だけ特別というよりも、他の階層にも隠し部屋、空間はあるが、まだ見つけられていない。と考えるのが自然だ。
「もし他の階層の隠し部屋も見つけられたら、攻略が楽になるかもってことだな。」
「うん。一応聞くけど、70階層台や80階層台では見つけられてないかな?」
「見つけてないな。でも建物らしきものとかはあったし、そこの壁とかをくまなく探せば、もしかしたらあるかもしれない。」
70階層台では鬼の魔物たちの根城のような建物。80階層台では巨大な遺跡があった。
遺跡は中にアイテムがあったが、もしかしたらどこかの壁の奥に別のアイテムもあったのかもしれない。
「なるほどね。それらしき場所はあったと。...君って、ゲームとかあんまりしない?こういうのって、行き止まりに見える場所にアイテムがあったりするものなんだけどね。」
「あんまりしないな。子どもの頃にブロックを積み立てて崩すゲームとか、村を発展させるゲームとかをやったくらいだ。」
「RPGは経験ないんだね。僕は61階層の洞窟を見たときにピンと来たよ。『これ、絶対行き止まりに見えて隠しアイテムとか置いてあるやつだ』って。ハズレの道が当たりってやつだね。」
「ハズレが当たり...?哲学か何かか?というか、ゲームと一緒にするのもどうかと思うけどな。」
ダンジョンはたしかにゲームっぽく見えるかもしれないが、実際は命がけだ。
人によっては、『ゲームと同じにするな!』と怒る人もいるくらいだ。
「よく言われるけどね。でも僕からしたら、レベルやスキルや魔法、アイテム、属性相性。こんな要素があってゲーム的に見ないほうが難しいと思うよ。」
「そういうものか?」
「そういうものさ。まあダンジョンについての議論は長くなっちゃうから、ここではやめておこう。現時点で答えはないし、ぶっちゃけ僕はダンジョンの詳細とかはそんな気にしてないからね。」
「俺もそうだ。原理とかは不明でも、実際にそこにあるならそれが答えだと思ってる。」
大学の講義でもダンジョンについての話はたくさんあるが、分野によって仮説が全く違ったりするからな。深く考えても仕方ない。
「ま、とりあえず僕からはこんなものかな?」
「ああ、貴重な情報をありがとう。じゃあ次は俺の番だな。まず70階層主について、どこまで知ってる?」
隠し空間のことを教えてもらったので、次は俺が70階層主の情報を渡す番だ。
だが情報を渡すにしても、相手が何を知ってて何を知らないのかを把握しないといけない。
「海外からの断片的な情報くらいだね。知っているのは、まず70階層主はリッチ。魔法が主体で、アンデッドを召喚もしてくる。他には───」
「ああ。大体合ってる。さらに付け加えるなら───」
こうして70階層主についての話をし、十分ほど経ったところで大体の情報は伝え終わった。
「...なるほどね。ソロならではの方法もあるけど、いくつか僕らのチームに組み込めそうな戦略もあったよ。」
「参考になったか?」
「大助かりさ。特に相手の戦法が知れたのが大きいね。海外の映像だけだと、どうしても詳細なところまではわからないからね。」
影山は満足そうに頷く。
どうやら交換した情報には、それなりの価値を感じてくれたらしい。
「こっちも隠し空間の情報を渡した甲斐があったね。」
「そういえば、隠し空間は海外でも見つかってないのか?」
「僕らが調べた限りでは無いみたいだね。もちろん秘匿してる可能性もあるけど。もしかしたら僕らが初めて見つけた可能性もあるよ。」
そんな情報をくれたのか。もし本当に天譚九曜しか発見していないなら、かなり価値の高い情報だ。
まあ70階層主の情報も隠し空間の情報も、いずれは広まるだろう。だが早いうちに知っておくにこしたことはない。
他の階層にも隠し空間があるかもしれないという考えも得られたし、ありがたい情報だった。
「じゃあこれで用件は済んだかな。帰る前に、もし何か聞き忘れたこととかあったときのために連絡先交換できるかな?」
「連絡先?」
「うん。今回みたいにダンジョンに来るかわからないのを待つのもあれだからね。」
他の探索者と連絡先交換なんてしたことないが、みんなしているのだろうか?
まあ別に不都合があるわけでもないし、構わないけど。
「もしくは、配信チャンネルのDM機能を開放してくれればそこに送るよ。その場合は無制限開放だと色んな人からメッセージ来ちゃうだろうから、僕ら天譚九曜のチャンネルを登録してもらって、設定で『相互登録のみのDMを受け付ける』にしてもらえれば...」
「む、難しいな。そんな設定あるのか?」
配信に関してはボタンを押すくらいしかしていないので、細かい設定など見たことがない。見るほうの設定なら少しは分かるんだが...
「...なんか君って変わってるよね。興味が偏っているというか、興味ある事以外は無頓着というか。」
「ダンジョンに潜ることと日常生活に精いっぱいで、他に目を向ける余裕がなかっただけだ。」
「ふーん...。というかチャンネル名もそうだけどさ、活動名を付けたら?」
「活動名?」
天譚九曜、彩風三花、烈煌四雅みたいなやつか?一人でそういうのを名乗るのは、なんだか違う気もするが。
「ハンドルネームというか、活動上の名前だよ。僕の影山だって別に本名じゃないからね。隠密で気配を消し、影のように動く、だから影山。わかりやすいでしょ?」
「そう言われるとたしかにわかりやすいな。」
「君のことなんて呼んだらいいかわからないし、みんな『例の探索者』とかって呼んでるからね。そろそろ活動名を付けてもいいと思うけど。」
「...考えてはおく。とりあえずこれが連絡先だ。70階層主で聞きたいことがあったらまた連絡してくれ。」
正直名前なんて意識していなかったし、そんなに大事なこととも思わない。ひとまずその件は保留にして、影山と連絡先だけ交換しておく。
「おっけーありがとう。君も、隠し空間で気になることあったら言ってきてね。多少の検証とかはするから。あと名前の相談も受け付けるよ!」
「気が向いたらな。」
そう言って手を振る影山に背を向けて、俺はダンジョンに入る魔法陣へと向かった。
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「75階層」
配信に映るように階層を宣言し、瞬迅斬の付与素材がとれる75階層へと転移をする。
:今日はちょっと配信始めるのいつもより遅かったな
:75階層?
:80階層台でも、60階層台の解説でもないのか
:何か素材集め?
「ああ。付与素材がほしいから、中ボスを倒しに行く。」
コメントの質問に答えながら、久々に戦う鬼の魔物を倒して奥へと進んでいく。
その途中で、ふと気になったことを視聴者に聞いてみた。
「...みんなに聞きたいんだけど、活動名ってつけたほうがいいと思うか?」
:どうした急に?
:とうとう名前に触れるのか
:最初は名前あったほうがいいと思ったけど、今はもう必要ないかも
:今から名前つけても、逆に違和感だな
:自分は、あったほうがいいと思います
コメントの反応としては、必要ないという意見が多かった。少し悩んでいたが、みんなもいらないというなら別に無理につける必要もないだろう。
「じゃあいらないか。さっき『活動名をつけたら?』って言われたから少し考えてたんだよ。」
:誰に言われたんだよ
:コメントでも最初の方に時々言われてたけどね
:まあ最初の方はコメント見てなかったからな
:雑念は持ち込むな。ここはダンジョンだぞ
なんだか厳しいコメントがあるが、その通りだ。余裕のある階層といえども、あまり気を抜きすぎると大怪我するかもしれない。これから相手するのは中ボスだしな。
「そうだな。余計なことは考えないでおこう。ちょうど中ボスも見えてきたし。あれがそうだよ。」
ドローンを飛ばして中ボスを映像に映す。
そこにいるのは、一見すると鎧を身に着けた侍だった。
「からくり武者って呼んでるやつだ。多分、鬼を斬る侍がモチーフなんだと思う。」
思うっていうか、鑑定にそう書いてあったんだけどな。ちなみにこいつが鬼と戦っているのを見たことは無い。あくまでモチーフなだけらしい。
:ジャパニーズSAMURAI!?
:ダンジョンは日本推しなのか??
:からくりってことは、機械みたいなもの?
「ああ。鎧の中に生物が入っているわけじゃない。って言っても普通に人型の生物みたいに動いてくるから、あんまり関係ないな。」
むしろ中身がからくりだからこそ硬くて厄介だ。生身の生物の方がまだマシだったかもしれない。
「でも80階層主や90階層主に比べたら大したことない。ちょっと気を付ければ勝てる相手だ。」
:大したことない(当社比)
:他のチームだと相当気を付けないとダメなんだろうな...
:この配信見てると感覚おかしくなる
そんなコメントを眺めつつ、戦闘スキルをいくつか創造して、からくり武者との戦いを始める。
気を付けるべきは『居合切り』だ。おそらく瞬迅斬の元となっているその攻撃は、純粋にめちゃくちゃ早い。『高速思考』や『反射神経強化』がなければ反応できないほどだ。
だがわかっていて対策を練っていればいくらでも対処できる。居合切りを剣で受け止め、その後は技や力押しで相手を削っていく。
:相手、いつ武器を抜いた?
:はっっや。見えんかったわ
:というか武者の武器、剣じゃなくて刀だな
:剣と性能は違うのかな
重い鎧を身に纏っているのに機敏に動くからくり武者だが、傷をつけていくにつれて中身も壊れて、次第に動きがぎこちなくなっていく。
:主に名前つけるとしたら何がいいと思う?
:例の探索者だから、レイくんとか?
:深層探索者だから、シンくんだろ
:安直すぎる
終盤は特に見どころもなく壊していくだけだったので、コメント欄も雑談をし始めていた。
そうしてからくり武者を倒して瞬迅斬の付与素材を手に入れたあと、俺は一階層へと転移をした。
素材は必ず落とすわけではないが、余裕があったので『ドロップ率アップ』スキルを創造していたおかげで一回で入手できてよかった。
あともう一つの付与は...無難に重量軽減かな。
次回は3月26日(木)更新です




