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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳
第8章 一時帰国編

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第93話 セルバンテス魔導伯の回顧録(1)

 思えば数奇な道のりだった。


 私の故郷はコルネリウス王国の西隣、グロッシ帝国のさらに西。カレスティナ聖教国、もしくは単に聖教国と呼ばれる。聖人聖女を多く輩出し、いわゆる聖属性魔法の扱いに長けた国だ。国民はみな信仰心に篤く、清く正しい生活を信条としていた。


 ——というのは建前で。


 国というものは、だいたいどこも腐っている。とりわけ、国民に質素倹約を掲げる権力機関といえば尚更だ。うちもそうだった。私は聖属性魔法を研究して国に貢献するという名目で、コルネリウス王国留学を目指した。実際は国外脱出を図りたかっただけだ。幸い、実家はしがない男爵家。私は四男ということで、進路に関しては捨て置かれた。どうせ平民落ちしてあくせく働き死に絶えるなら、奨学制度に賭けてみようと思ったのだ。幸い勉強だけは出来たので、無事コルネリウス貴族学園の奨学生の切符をもぎ取った。


 コルネリウス王国に来て驚いたのは、完全な魔力実力主義だったことだ。もちろん個々の貴族の間ではドロドロしたものがあるそうだが、国は王家、公爵家、辺境伯家、侯爵家の勢力下に大別され、それぞれが政略結婚を結びつつ牽制し合っている。お陰で、身分差や暗黙の了解に悩まされることもなく、学園生活に勤しんだ。


 しかし問題は、その魔力実力主義だ。不幸にも、私には魔術の才能がなかった。辛うじて勉学の成績を頼りに文官を目指し、比較的魔力のウェイトの低い公爵領の試験に合格した。そして更に困難に直面した。公爵領は魔力実力主義ではない代わりに、武力実力主義だったのだ。私は閑職中の閑職、ドイブラー領の徴税官に任命された。


 ところが、ドイブラーののんびりとした空気は私の気質にぴったりと合った。戒律を重んじ、窮屈なカレスティナ。生活に余裕のないセルバンテス男爵家。それから、魔術エリートたちに肩身の狭い思いをしたコルネリウス王都、暑苦しいデルブリュック。それらのどれとも違い、誰にも急かされず、誰とも比べられない。誠実に仕事をすれば順当に評価され、慎ましく暮らすのに十分な給金。そのうち商家の娘と縁があり、家族までこしらえた。ささやかながらも楽しい我が家。やっと安住の地を得た。幸せってこういうことだ。




 毎年秋は、徴税官の最繁忙期だ。ドイブラーの徴税官はわずか三名、それぞれが担当の地域に赴いて収穫高を計算、徴収する大仕事がある。もちろん、領都に近い町や村は先輩たちが、そして一番の若輩者の私は僻地の村々を回る。しかし私は、それが苦ではなかった。開拓村はどこも小さく、食うや食わずの生活をしている。取り立てる麦だって微々たるものだ。乗り込むのが荷馬車だということを除けば、のんびり和やかな旅である。


 ところが、忘れもしないある年の秋。


「シュッとして、ファッとして、サーっとするんでさぁ」


 ドイブラーの最も奥地、最後の開拓村の村長が、信じられないような複合魔法を披露した。しかもどうやっているのか、擬音ばかりで要領を得ない。しかし同行する馬丁ばてい荷役にえき人たちはいとも簡単にマスターし、「こりゃいいや」と衣服から何から洗浄して回る。


 どういうことだ。こんなの貴族学園でも学ばなかった。こんな便利なスキルがあれば、教わっていても良さそうなものだが。


 しかしこれは、村長のみならず村民全員が使えるという。連れてきた使用人たちもだ。彼らは魔法教育を受けた者たちではない。従って、これは才能がなくとも使えるレベルの魔術ということになる。


 私は試行錯誤を繰り返し、歓待も終わろうという頃になってやっと習得した。まさか弱い火魔法しか使えない私が、こんなふうに便利なスキルを扱えるようになるなんて。私も使用人たちと一緒になってはしゃいで、体や衣服、寝藁などに「シュッとしてファー」をかけまくった。そして翌朝、良い土産が出来たとウキウキしながら村を後にしたのだった。




 領都に帰還し、荷を降ろして旅装を解きながら。


「おう、今年もお疲れさん。どうだい成果は」


「まぁボチボチです」


 最初に遭遇したのは次席徴税官だ。末席の俺が入るまで担当していたから、辺境担当の苦労は知っている。何日も荷馬車に乗りっぱなしで、疲労困憊のヨレヨレになる任務だ。


「そういや、一旦家に戻ってきたのか?」


「いえ?……あ」


 いつもなら身繕いもままならず、裏通りの浮浪者のような風情で帰還するのが常なのだが、まるで昨日公衆浴場に行ったかのように小ざっぱりした私。そうだ。役所に入る前に、例のスキルを使ったのだった。


「実は最後の村で、「シュッとしてファー」なるものを教わりまして」


 私は次席の前でゆっくりと披露した。これは覚えたらとても便利だ。我々徴税官は、時に商人に、時に領主や貴族に、とかく人と接する仕事をしている。身だしなみは大事だ。ところが仕事が立て込むと家にも帰れず、仮眠室に寝泊まりすることも珍しくない。そんな私たちにこそ、このスキルは役立つと言える。


「お、お前、それは……!」


 しかしそれから、私の命運は激動に飲まれた。次席は私と違って、魔術師としても優秀だ。「シュッとしてファー」が、複数属性を巧みに同時発動させる非常に高度なスキルだと見抜いた。彼は血相を変えて領主様のもとに走って行き、私はそれから家に帰ることも許されなかった。

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