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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳
第8章 一時帰国編

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第91話 道連れ

 イアサント様とアレクシス様、ディートリント様は、コルネリウス貴族学院からの同窓生だ。事情によりアレクシス様は飛び級を重ねてとっとと卒業してしまったが、その後イアサント様はディートリント様と共に大学院を卒業。そしてウダール大学で教鞭を執っている。しかし、ウダールでは麒麟児と呼ばれた彼も、コルネリウスでアレクシス様に後塵こうじんを拝し、ディートリント様からはついぞ首席を奪えず、内心は面白くなかったようだ。だからって、外国の使節団として立ち寄ったアレクシス様に無礼を働いていいわけじゃないけど。


 俺とアレクシス様は、事前に話し合った。フェベ教授を人柱……研究者として招致するなら、イアサント様も巻き込もうと。フェベ教授は確かにちょっとアレだけど、ウダールではどっちかっていうとイアサント様の方がウザかった。そして二人とも、そんなに魔法陣の秘密が知りたいなら、どうぞコルネリウスで活躍してくださいっていうことだ。


「えっ……いいのかい……?」


 イアサント様は小刻みに震えながら、しかしさっきまで死んだ魚のようだった目がキラキラしている。


「ははっ、君と僕との仲じゃないか。もしコルネリウスで教授と一緒に研究してくれたら、とっても助かるんだけど。どうかな」


 この申し出に、イアサント様は一も二もなく飛びついた。そしてイルマシェ侯爵は豪快に呵呵大笑かかたいしょうした。本来は、こういう感じの人なんだな。


 善は急げということで、イアサント様は早速身支度を整えに退出していった。残された俺たちは、侯爵邸で一晩泊めていただくこととなった。


「いやはや、噂の英雄アルブレヒト伯とこうして酒を酌み交わすことになるとは」


「いえ、その」


 ユボーの軍事の要を預かる侯爵様は、渋めのイケオジだ。彼は将軍職であると同時に、一大交易都市ウダールを預かっている。小国ユボーにおける屈指の権力者。だがしかし、酒が入ると厄介な香りがする。


「謙遜は要らんぞ。軍部からの情報によれば、うちに着くちょっと前にクラーケンを倒したそうじゃないか」


「あっ、あれはえっと」


「雷一閃で仕留めるとは、さすがドラゴンスレイヤー。義父上にも是非お会いしたかったのだがな!」


 そこから延々と軍事談義。しかしほとんどは侯爵の一人語りと、アレクシス様に対する詰問だ。よかった。あの時イアサント様を振り切って、とっととウダールを立ち去って。もたもたしていたら、きっと今度はお爺様が捕まって、ここでもブートキャンプが開かれていたはずだ。


「今度は前デルブリュック公も是非! ——ところでお義父様のサインをいただくことは可能だろうか」


「はぁ……」


 国境を越えたお爺様の人気が半端ない。ドラゴンスレイヤーという肩書きとともに、脳筋を惹きつけるフェロモンでも放っているのかもしれない。まあ、アレクシス様に粘着されなかっただけ良しとしなくては。


 なお翌朝。港を一望出来る山から少し奥まったところ、ウスバキトンボのキー坊のキャビンを目の前にして。


「ギチギチギチ」


 バリッ、バリッ。


 出発前のお食事タイムに遭遇し、イアサント様は泡を吹いて倒れた。そして彼は、別途陸路でコルネリウスを目指すこととなった。




 ユボーとコルネリウスは、険しい山脈を挟んでお隣さんだ。寒いので直接突っ切ることはできないが、キー坊ならば多少迂回してもあっという間に王都を捉える。


 王宮には事前に転移して、キー坊の到着を伝えてある。キー坊より先にコルネリウスに到達する手段があると知られたくないので、まずは王都外れの陵墓の丘に着陸し、それから近衛の訓練場に移動する手筈だ。


 そう、なぜ俺たちが秋津の蟲力飛行船でコルネリウスに移動したかというと、転移陣を使わずに帰還したかったためだ。魔法陣をことさら秘匿するつもりはないが、全てとは言っていない。今のところ転移陣の存在を知っているのは、王家とアルブレヒト伯爵家、デルブリュック家、そしてガルヴァーニ家のごく一部に限られる。秋津朝廷にはディートリント様の帰還の際、船とはまた違う移動手段を持っていると匂わせただけだ。彼らはベルント様と縁続きになるため、いずれは転移陣の存在をシェアするかもしれないが、エルフとも親しくしているため、今すぐにとはいかない。


 湯を沸かすとか大麦を栽培するとか、そんなものは誰に知られたって構わない。しかし転移だけは、本当に信用出来そうな人物にしか明かすわけにはいかない。よしんばバレたところで全属性必須だから、そう易々と悪用はできないわけだが、なんせ相手は魔術の番人を自称するエルフ族だ。しかも他民族に対して異様にモラルが低い。エルフ族、アウト。バットがあったら尻叩きしたいほどだ。


 姫が即座にキー坊を派遣してくれたのは、罪滅ぼしの意味もあるだろう。ちょっと厚かまし……いや図々し……しかし長年朝廷に協力的だったエルフ族が、まさかあんな馬……浅慮を仕出かすとは。厳密に言えば秋津の責ではないが、引き合わせたのは姫だ。国としてのメンツもある。


 転移陣を使わず、迅速にコルネリウスへ。運搬人は秋津の皇族、しかも目立つ蟲力飛行船で。さらにウダールのイルマシェ侯爵家まで巻き込んだ。少なくともウダールの民衆は、フェベ教授とイアサント様が晴れてコルネリウスで魔法陣の研究を始めると認識した。


 奴らの退路は断った。言い逃れは出来まい。

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