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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳
第8章 一時帰国編

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第90話 悲しい別れ

「ああっ、ポッポちゃん!ポッポちゃああん!」


 フェベ教授の叫びも虚しく、三人の人間を運搬するのにポッポちゃんではパワー不足だった。そもそもこのバスケット、どう見ても一人乗りだ。いくらレース鳩の飛行能力と帰巣本能が優れているとはいえ、無理ゲーが過ぎるだろう。


 ドックにペタリと座り込み、しくしくと落涙する教授を見かねて、秋津の役人が姫を呼んできた。そして姫は快く蟲力飛行船の一つを貸してくれた。


「長距離飛行も何のその! ウスバキトンボのキー坊じゃ!」


「ギチギチギチ」


「「「ポポー!!!」」」


 バサバサバサ。


「ポッポちゃああん!!!」


 巨大なトンボを目の前にして、百羽ほどの鳩が一斉に逃げた。トンボは肉食だから、ちょっと怖いのは分かる。てか、ハーネスが緩かったんじゃなかろうか。しかしまあ、ポッポちゃんでは三人の運搬は無理だったんだ。新しいポッポちゃんとの出会いに期待しよう。ドンマイ。




 前回はマイクロバスほどあったキャビン。今回は、ワンボックスカーといった感じ。ウスバキトンボは中型のトンボだ。まあ、セスナくらいあるんだけど。


「ポッポちゃん……」


 教授はまだめそめそしている。別れが辛いのはどの世界も一緒だ。しかしポッポちゃんたちはキー坊に驚いて飛び去ったあと、一羽として帰ってくる気配がなかった。彼らの関係は、教授の片思いだったらしい。なお、同乗したのは秋津のテイマー一人のみで、後は俺たち三人。姫様も、婚約に向けて何かと忙しいしな。そして半年間足止めをするはずの俺たちの国外脱出を許したのは、ベルント様とお爺様さえ押さえておけば大丈夫だろうという打算もあったのかもしれない。


 ウスバキトンボのキー坊の飛行能力は大したもので、時々着陸して休みながら順調に西へ進んでいく。異世界でいうところの東シナ海を渡ると、龍眼ロンイェン港を擁する龍華ロンファ帝国。半島も姉妹国であり、秋津と友好条約が結ばれている。キー坊を見かけると、竜人たちが陽気に手を振る姿が見受けられる。やっぱトンボはドラゴンフライだからか。


 一度龍華の内陸都市で一泊。その後は険しい山岳地帯を飛行するのだが、キー坊は寒さに弱いらしい。


「温かいところを選んで、できるだけ目立たないように敢えて迂回ルートで飛んでやるんです」


 テイマーは窓華宮広志まどかのみやひろし殿下という。蟲使いは皇族に限られ、彼も末端だが皇族の一員だ。同時に広く地理情報に精通し、各国語が操れる外交エリートでもある。


 ウスバキトンボは長距離飛行に特化した種であるため、他のトンボに比べてボディがかなり軽量化されている。その分、デリケートで扱いが難しい。よって、彼はキー坊の専属テイマーを務めている。他のトンボに浮気なんて、もってのほかなんだそうだ。


 さて、ここから先は直接国交がない国の上空を通過するため、慎重に進まなければならない。飛んで飛んで飛んで、迂回して迂回してだ。そして野営を挟んで三日目、ようやくウダールへ到着。


 ウダールは軍事拠点だ。着地点には港から離れた山地を選んだものの、巨大なトンボが観測されて、地上では厳戒態勢が取られた。しかしさすがは一国の玄関口、軍部の上層部は秋津の蟲力飛行船のことを知っていた。そしてキャビンから真っ先にフェベ教授が降り立ったので、緊張感は一気に和らいだ。


「イルマシェ侯爵、そしてイルマシェ教授と面会願いたい」


 会談の場はすぐに整えられた。いかにも軍人といった風体で口髭を蓄えたイルマシェ侯爵、そしてボサボサの鳥頭を整えられて貴族然とした服装で現れたイアサント様。ちゃんと身綺麗にすればそれなりにイケメンの部類に入ると思うんだけど、猫背で台無しだ。しかも侯爵にお叱りを受けたせいか、ひどく目が泳いでいる。そういえば、平民落ちの危機なんだっけ。


「アルブレヒト伯。このたびはせがれがとんだ無礼を。——イアサント、謝罪を」


「頭をお上げください、侯爵。私どもは気にしてませんから」


 こういう受け答えをすると、ジェラルド様に弱腰だってお叱りを受けるかもしれない。しかし、非公式の場であっても貴族がストレートに頭を下げるのは重大な意味を持つ。そしてイアサント様は、まあ無礼でしつこかったけどそれだけだ。俺たちもさっさと立ち去ったことだし、彼もそれなりの代償を払ったわけだし。


「それよりイルマシェ侯。私はこれよりコルネリウスに移り、魔法陣の研究に取り組みたいのだ。それを通告に参った」


「了知した。フィーレンス教授、貴女あなたは客分であって、我らは貴女の立場を束縛するものではない。アルブレヒト伯が残された魔法陣は実に素晴らしいものだ。励まれよ」


 ここに立ち寄った用件は、ものの数分で済んでしまった。しかし俺たちには、もう一つのエクストラミッションがある。


「というわけで、イアサント殿もコルネリウスまでご一緒にいかがですか」


「「「はっ?!」」」


 俺たち三人を除いて、会談の場にいた全員がハモった。

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