第83話 グラインダー
「っあー、ナカジマ殿下が錯乱したわけだ」
親方がボリボリと後頭部を掻きながらボヤく。巨大な宝石類をゴロゴロ取り出して、初っ端から国に献上級の魔力媒体を爆誕させてしまった。ヒヒイロカネとアダマンタイトだけでお腹いっぱいなのに、だそうだ。ええ、デルブリュックから事前に情報が来てたからって、ドンと構えててくれたじゃん。解せぬ。
この日の酒盛りは、魔力媒体トークになった。秋津では刀匠として活躍する彼らも、本国ではそれなりに鍛治の修練を積んできた職人。親方や兄弟子のスキルを覗き見ると、みんな細工スキルを持っていた。特に細工レベルが高い兄弟子は、手先が器用で、この工房では刀剣を打つよりも鍔を拵えたり柄を調整したり、細かい作業を担当している。
スキルといえば、他には機工師ってスキルも見受けられる。蒸留器なんかの機械類を扱う関係で生えるんだろうか。あと斧術や槌術、盾術なんかもあるけど、これは生産系じゃなくて戦闘系のスキルだろう。魔術系は、みんな火属性と土属性。内心期待していた魔道具師とかゴーレム技師とかはいなかった。それらはまた別系統の工房の仕事なのか、それとも別の種族の得意分野なのか。
それから三日くらい、魔力媒体作りに精を出した。集中力と根気は要るが、宝石を削り出すだけだからそう難しい作業じゃない。研磨剤はアダマンタイト。ダイヤを錬金して砕いてから、魔力を込める。アダマンタイトに加工すると「自動修復」「不壊」が付くからな。ちなみになんで不壊なのに自動修復かというと、刃こぼれ程度の傷なら付かないとも限らない、とのことだ。しかしアダマンタイトに限ればそんな事態は滅多と起きないし、欠けてもすぐに修復されちゃうらしいけど。
ところで研磨剤は優秀だが、グラインダーが欲しいな。ひたすら手で研磨するのは骨が折れる。だけどこの工房には、あいにくグラインダーはなかった。デルブリュックの工房にもだ。グラインダーって存在しないのかな?魔道具とかで。そういえば、せっかく蒸留器が稼働してるんだ。水蒸気が動力にならないかな。一つ懸念点を挙げるとすれば、グラインダーを使ってスキルポイントが入るかどうか。しかしまず、グラインダーを使ってみなければ分からない。
親方たちは、献上分の刀剣を打つのに忙しい。手を煩わせるのも億劫だ。俺は試しにナンチャッテグラインダーを作ってみた。第一号は、ディスクグラインダーを目指した何か。
支柱となるパイプのてっぺんに円盤、そしてパイプの中ほどにプロペラのような羽を4枚。ちょうど、食べると火の玉を吐けるようになる花のような形だ。この葉の部分、4枚羽にウィンドカッターを当てると、風車の要領でディスクが回るというもの。原始的で不恰好だけど仕方ない。俺の浅知恵ではこれが限界だ。機能すれば問題ない。
苦労したのは円盤。砕いたダイヤに聖属性の魔素を込めてアダマンタイトにし、円盤状の粘土に埋め込む。それから円盤部分を鉄に錬金…と思ったら、アダマンタイトの部分も鉄になってしまった。大失敗だ。
しかし失敗作を鑑定して、元々アダマンタイトだった部分はアダマンタイトのまま———鉄状のアダマンタイト、「アダマンタイト鋼」になっていた。ちょうどオリハルコンが、トパーズと真鍮の二形態あるように。
ちょっと待て。鉄のアダマンタイトが存在したのか。聖属性といえばミスリルがあるから、鉄に加工するのを失念していた。俺は馬鹿か。
まあいい。これはこれで使えなくもない。そして後からアダマンタイトに変えるのであれば、最初から砕いたダイヤを用意する必要はない。
まず粘土で土台を作って、その上に砂を振りかけて押し付ける。これを丸ごと錬金術でダイヤに変え、聖属性の魔力を込めて、更に鉄に変換。アダマンタイト鋼の研磨ディスクの出来上がりだ。砂は、土壌改良スキルで荒いのから細かいのまで思いのまま。しかも不壊と自動修復付き。完璧じゃないか?
満を持して、初の試運転。木の机に穴を開け、火の玉フラワーを通す。そこで、下の風車を後から付けた方が良かったと思い当たった。俺は馬鹿か。まぁいい、一度粘土に戻して付け直すだけだ。机の上にアダマンタイトのディスク。そして机の穴からは、下に伸びる茎と、茎に生える風車。ディスクの上には研磨する水晶をセットして、さあ、足元の風車に向けてウインドカッターだ。
———結果は散々だった。
ウインドカッターではディスクが回転するものの、水晶を押し付けると力負けして停止してしまう。ならば出力を上げればいいじゃないかということで、Lv6のジェットストリームを噴射したところ、巻き起こる旋風、舞い上がる粉塵。それどころか、机は木っ端微塵、部屋中のものものが全て吹き飛ばされ、叩きつけられて、無惨な残骸に。ここがテラスハウスで良かった。刀剣工房なら大惨事だ。いや、既にここも大惨事だが。




