第81話 危ない危ない
ここへ来て、やっとエルフとの話し合いが出来そうだ。教授も大使も大概だけど、思い返せばエルフに対する忌避感の何割かは、ウダールのイアサント様のものだったかもしれない。あの後フェベ教授は、とっととウダールを発って秋津を目指したから、彼のその後はよく知らないそうだ。だけどイルマシェ侯爵家はもうすぐ長兄へ代替わり、何らかの功績がなければイアサント様は平民落ちの危機らしい。イルマシェ侯爵家は軍人の家系、実力主義で知られている。彼は武芸の才がなく、大学で教鞭を執ることで辛うじて面目を保っていたが、外国の要人に無礼を働いてとっとと出国を許したことで、大きく株を下げている。侯爵家で保有する準男爵や騎士爵を与えられる予定だったのが、御破算になりそうなんだと。まあ、仕方ないよね。
一方フェベ教授は、自分たちが関与しない形で新しく魔法陣を作る知識を持った俺たちを、非常に警戒していたとのこと。そのせいで、密航という大失態。そして秋津に先回りしたはいいものの、取引を持ちかけて玉砕。まあ、イアサント様にしろ教授にしろ、敗因は礼儀の問題だと思う。俺たちだって、最初から礼儀正しく接してもらえれば、それなりの礼儀でもって対応したし、情報交換だってやぶさかじゃなかった。
しかし、今になってどうしてこんなに低姿勢に転じたのか。
「秋津を目指す迷い人には、共通点があってな」
フェベ教授によれば、秋津に集う迷い人———恐らく日本人は、大抵平和的で温厚な人物が多いとのこと。しかし大人しく従順に見える一方で、礼を欠いた態度で侮ると手痛い報復が待っている。この現象は「ざまあ」と呼ばれ、エルフの間では特に恐れられてきたんだそうだ。
「今回は早々に気付いて良かった。我らは貴殿らに無礼を働いて、「ざまあ」されるところだった」
教授は「ふう、危ない危ない」みたいな顔をしている。これまで教授には結構な無礼を働かれた気がするし、俺も手錠を掛けたり石を投げたり、結構な報復を行った気がする。だけど彼らの基準では、これらは「無礼」でもないし「ざまあ」でもないみたいだ。一体これまで、どんだけの無礼を働いて日本人をブチ切れさせてきたのか。
彼らの対人スキルの低さは理解した。これは仕様だ。文化的ギャップを認識し、「彼らはこういう生き物だ」という前提さえ踏まえれば、対話は可能かもしれない。
その後俺たちは、小一時間ほど対談した。主に、魔法陣解読の経緯と鑑定スキルについて。しかし鑑定スキルの取得の流れについては秘匿した。水色のウィンドウとインベントリは、この世界の住人には馴染みがなさそうだったので。これは未だに俺だけの秘密だ。鑑定は、物心付いた直後に使えるようになった。偽書に鑑定をかけたのは、たまたまだった。誰にでも簡単に生活魔法を組み合わせたスキルが使えるように、魔法陣を開発した。嘘は言っていない。
「なるほど、アルブレヒト伯の説明と齟齬は無し。真実のようだ」
フェベ教授が納得している。嘘発見機みたいなスキルを使ったんだろうか。まあ、俺だってちょいちょい勝手に鑑定を掛けている。なぜか彼らには鑑定が通らないが、お互い様だ。
ここまでで約二時間。ちょうど話のキリも良いところで、大使が再起動する前に、今回の会談はこれでお開きにした。
こんな感じなら、俺でも全然大丈夫。というわけで、俺は週2回の午前中、こうして教授と話し合いの場を持つことで合意した。秋津にはあと半年ほど留まる予定になっているから、有意義な情報収集が出来そうだ。俺だってこれまでの転移者や転生者がどういう風に過ごしたか、テイムスキルや他のスキルはどうやって生やすのか、知りたいことはたくさんあるしね。
問題は大使だ。このキモいオッサンはどうにかならないだろうか。魔封じの拘束具、もしくは特定の人物を弾く結界。この辺についても相談してみたいところだ。




