第79話 研磨大会
さて始まりました研磨大会。アダマンタイトなんてなかなか出回らないため、皆さん真剣だ。親方はここぞとばかりに研磨の技術を叩き込み、お弟子さんは真剣に手を動かす。
研磨のいいところは、鍛治スキルだと上手くいかないスキルポイントの獲得が簡単なことだ。難易度の高い素材だって、ゴシゴシ研磨すればガンガンポイントが入る。もちろん貴重な素材を製品にするためには、それなりの技術でもって慎重に研磨しなければならない。しかし、難しい素材を研磨すればレベルが上がるのだから、研磨してるうちにそれなりの腕前が身についてしまうのだ。
「こんな…アダマンタイトが、河原の石っころみてぇに…」
「なんか、発掘を手伝ってたら拾っちゃって…ははっ」
苦しい言い訳だ。親方さんたちもきっと訝しんでるに違いない。しかし、「しつこく突っ込むと逃げられる」という教訓は生かされているようだ。彼らは引き際を心得ていた。この潔さがエルフにもあればな。
アダマンタイト、つまりダイヤモンドを砕いて、破片で素材の牙を大まかに削る。そして細かく砕いたものを研磨剤にして、慎重に磨き上げる。立派な牙なのに、出来上がったのは小ぶりな剣が二振り。やはり牙や爪は、素材の形を活かして槍や爪にした方が良さそうだ。
翌日俺は朝帰り。ディートリント様にはこっ酷く叱られた。そしてアダマンタイトの顛末で、アレクシス様は天を仰がれた。しかし、鍛治スキルが楽々上がるようになれば、人に頼らずとも自分で魔剣が打てる。お爺様もベルント様も、ディートリント様と一緒にお小言をくれているようでワクワクが隠しきれていない。
「ワシはやっぱり、雷の魔剣かのう…」
「俺は魔鉄だな。短刀と暗器をいくつか…」
「お父様。お母様に言いつけますわよ?」
「ぬおっ!リンダよ、強い剣を打ってもらって何が悪いんじゃ!」
「バカおっしゃい!国宝以上の剣が安易に増えては、面倒事しかありませんわよ!」
「まあまあディー。今回はベルントの功績にしてしまえば…ね?☆」
そうなのだ。今回ちょっとみんなのトーンが落ち着いているのは、「当分功績はベルント様に」という暗黙の了解があるからだ。コルネリウスには、既にアレクシス様とセルバンテス元徴税官という二大魔導伯がいるが、彼らにこれ以上功績を積み上げることはできない。しかし、ベルント様が寿奈内親王とご婚約ということなら話は変わる。当面の功績をベルント様のものにすれば、第三の魔導伯が爆誕。しかも秋津に即婿入りだ。表に出せない功績は全てベルント様になすりつけ、ベルント様は入り婿として相応しい地位を手に入れ、更に近年中に出荷予定で魔導伯もダブつかない。三方良しだ。今、世界で一番簡単に伯爵位が手に入る国、それがコルネリウス。
幸い、秋津とコルネリウスは遠い。多少珍しい剣を打ったって、イ=ソノ親方の実績にして、朝廷から下賜されたことにすればいい。俺、良いところに来ちゃったな。やっぱ秋津は、日本人にとって心のオアシスだ。
そうしてレベルを上げつつ一週間。秋津十日目、アレクシス様に連れて行かれたのは、大内裏のとある応接室。
「やあ、クラウス。久しぶり」
「…」
立ち上がって馴れ馴れしく声を掛けて来るのは、フィル大使。一方フェベ教授は、黙ってぺこりと頭を下げた。
アレクシス様には、事前に彼らがいることは聞いていた。そしてその目的が、俺に対する謝罪であることも。だけど彼らの態度、俺に謝罪する気なんかなくね?
「やあ、そんなに警戒しないで。先日はいきなり距離を詰めて済まなかったね。まずはお互いを知ることから、かな?」
「兄上!いや、クラウス殿。先日からの無礼、重ね重ね謝罪する」
フィル大使はともかく、フェベ教授は一応謝罪の気持ちはあるようだ。こないだは、訳の分からない取引を持ちかけられて呆れたところだけど、アレクシス様が言い含めてくれたんだろうか。
ディートリント様は、アレクシス様がエルフたちと交流を始めたと知って、かなりお怒りだった。気持ちは分かる。彼らは長命かつ旧き種で、俺たち人間を下に見ている。敬意を払わない相手に誠意を見せる必要はない。だけど一方で、彼らには古来からの知恵の蓄積がある。アレクシス様が彼らに教えを乞いたいと思う気持ちは当然だ。特に彼らが、知りたい情報を持っていると分かっているならば。
あちらはあちらで、俺たちの持つ情報が欲しいのだ。ならば情報交換はやぶさかではない。後は、気持ちよく取引ができさえすれば、それでいいんだけど。
「フィル大使、アウト」
「がぼっ」
もうお前は水でも飲んでろ。




