第78話 鍛治手伝い
親方たちが大人しいのには、もう一つの訳がある。
「じゃあクラウス、頼んだぞ」
俺は蒸留が終わったばかりのタンクに、高濃度のアルコールに、ウォータードレインを照射する。
船旅の間、時々王都のアルブレヒト邸に戻って果樹園の世話をしていた俺。邸のみんなも慣れたもので、「坊ちゃんおかえりなさい」「収穫手伝いましょうか」なんて声を掛けられる。農作物のほとんどは、土魔法でツボを作ってプランター栽培できるけど、果樹はそうはいかない。もちろんテラスハウスにも植えてあるんだけど、果物の下拵えはアルブレヒト邸の料理人たちに任せてあるのだ。
カットフルーツを作ってもらっている間、俺はせっせとドライフルーツを量産する。お肌の調子がいいということで、ディートリント様が常食されているからだ。ディアナ王妃様やエデルガルト公爵夫人、そしてギルベルタ様たちにも配っている。もちろん使用人の皆さんにもだ。貴重な賄賂の一つである。
そのドライフルーツをつまみながら、ディートリント様がぽつりとつぶやいた。
「蒸留で除き切れなかった水分も、こうやって飛ばしたらいいんじゃなくて?」
返す返すも、それをデルブリュックで思いついていれば。しかしそのアイデアが、秋津で役立っている。すなわち、「神の水は実験中に偶然出来たヤツだから再現は難しいけど、ウォータードレインを使えばアルコール度数は上げられるよ」戦法だ。
生憎、ドワーフ族は土の精霊と火の精霊の末裔。水属性とは相性が悪い。水属性スキルをレベル5まで使える魔術師を雇うしかないんだが、そんな魔術師はそうそういない。というわけで、俺は鍛治を習うのと引き換えに、ウォータードレイン係を引き受けている。
「なるほどこれが神の水。カーッ、言い得て妙だな!」
これにはアレクシス様に一枚噛んでもらって、最新の研究結果として彼らの前で事前にデモンストレーションしていただいている。そのため彼らは「これは神の水とほとんど同じもの」だと認識しているようだ。
一通りの鍛治を終え、親方たちは和やかに蒸留酒を酌み交わす。お弟子さんがローテーションで蒸留器に張り付き、一日かけて蒸留したのを仕事終わりに全部飲んじゃう。さすがドワーフ。しかし、蒸留がメインで鍛治を少数ローテーションで回すようになったデルブリュックとは違う。やっぱり「神の水」が手に入るのとそうでないのとでは、彼らの執念の度合いが違うのだろう。イ=ソノ親方からは、ナカジマ親方に向けて書状を送ってもらった。あっちでも水属性の魔術師を雇えれば、デルブリュックでのアルコールブームも一息つくだろう。レベル5が使える魔術師はなかなかいないだろうけど、頑張って探していただきたい。
「水属性に合う金属、か」
お酌をしながら、親方にさりげなく話を向けてみる。あれからアレクシス様と夜な夜な錬金実験を繰り返しているが、水属性にはこれといった魔法金属が見つからない。適合しても、せいぜい水滴が滴るくらい。なんとか自力で見つけたかったけど、ヒントくらいもらったっていいだろう。
「あー、そりゃ聞いたことねェな」
しかし親方の答えは無慈悲だった。嘘をついたり、隠したりしている様子はない。本当に知らないのだろう。そして親方が知らないのなら、多分存在しないか、未発見なのか。
「あー、ガッカリすんな。水属性はな…」
そう言って親方が工房の奥から出してきたのは、巨大な牙だった。親方によれば、魔法金属は一定の魔素が満ちている場所に産出する金属で、例えば聖地の跡でミスリルが採れるとか、魔界の最深部で魔鉄が採れるとか。だから普通、なんらかの属性を持った武器防具っていうのは魔物素材で出来ているらしい。
しかし魔物素材っていうのが厄介で、革を防具にするのはまだしも、牙や爪を武器にするのがこれまた大変なんだそうだ。脆い素材だと武器にならないのは勿論、硬い素材だと研磨ができない。
「槍ならそのままの形を活かしゃあイケんだが、剣となるとなァ」
なるほど。海の眷属が手にする武器といえば「槍」というイメージがあるんだけど、それは加工の難しさが原因なようだ。素材よりも硬い研磨剤の入手コストの方が高くつくし、なんならその研磨素材で武器を作った方がより強い武器が出来るんじゃないかっていうジレンマ。
———いや、硬い素材なら持ってるな。
「親方、アダマンタイトじゃダメですかね?」
「「「ブーーーッ!!!」」」
俺がインベントリからアダマンタイトの石ころを取り出すと、その場にいたドワーフさんたちが一斉にお酒を吹いた。Why。




