第76話 模擬戦再び
「螺旋苦無!」
カカカカッ。ベルント様が素早く横移動しながら、ウィンドカッターを繰り出す。うん、イメージとしては合ってると思うんだ。あれは苦無といいながら、風遁の進化系だった。アニメには忠実。だけど苦無ではない。普通にウィンドカッターだ。そして彼が消費しているのは、チャクラのパワーではなくMPである。
黒装束のお兄さんは、ベルント様の猛攻を辛うじて回避で凌いでいる。スキル構成上、彼は元々体術の類を多く取得した格闘家。アクロバティックな身のこなしがめっちゃカッコいい。日曜の朝に大活躍しそうなイケメンだ。
実家の男爵領でお兄さんの補佐をするはずだったベルント様。成り行きでアレクシス様の従者となり、宮廷魔術師団でそれなりの修練を積んだベルント様。彼は元来、文官キャラだったはずなんだ。それをアレクシス様の警護のために多少の剣術を伸ばし、宮廷魔術師として中堅程度の魔術スキルを磨いた。彼は努力の人だ。そしてそんな彼が、上級職ではないにしろ、本場秋津の隠密さんと互角に戦っている。いくらお爺様のもとで修練を積んだからって、大したものだと思う。
「六車炎上拳!」
しかしそれは別作品だ。そもそも忍術ですらない。拳の先にファイアーボールを出してそれっぽく演出する、そのアイデアは凄いと思うけど。そして足元にはウィンドウォールを敷いて高速移動、つまり「しゅるしゅる」。この人、何気に器用だよな。そのうち、やってみたかった技を全てやり切ったベルント様は、黒装束のお兄さんと満足そうに握手していた。
「足元に風遁を展開しながら、同時に風遁を易々と操出し、挙句拳に乗せて火遁まで。いやはや、感服いたしました」
「貴殿の身のこなし、さすがは秋津の忍び。さすがでござる」
ベルント様、口調がおかしい。しかし、若干色々混じってトンデモなオリジナル忍術だったとはいえ、彼はきっちり忍術スキルを上げて来ている。毎日地道に手裏剣を投げ、素振りをし、組み手や受け身まで。忍術は、剣術や体術、魔術に投擲術などを組み合わせた複合スキルだ。上げ方を知らなければ上げるのが難しいスキルであり、またあらゆるスキルを同時並行的に上げないと伸ばせないスキルでもある。これまでコツコツとポイントを重ね、しかもあらゆるスキルを器用に使いこなす、彼のような人物にピッタリのスキルとも言える。
「———ベルント殿、見事であった」
双方の手合わせを、身を乗り出して観戦されていたジュナ姫様が、ベルント様に労いの声を掛けた。
「もったいないお褒めのお言葉、かたじけない」
「その方、妾の婿に来んか!」
ちゅどーん。ジュナ姫様からの爆弾発言。俺の脳裏には、爆炎が巻き起こる採石場がチラついた。
「そちらベルント殿には未だ縁談がないと聞いたものでな」
ほほほ。ジュナ姫様が満面の笑顔でベルント様に寄り添う。御年12歳、貴族のお姫様としては婚約が決まっていてもおかしくないお年頃だ。だけど、遠くタブレット国交しかない小国の男爵の次男と、秋津のプリンセス。歳の差は18だ。人の色恋事に首を突っ込むのは無粋だけど、政略結婚としてはダメなのでは?
「何を言う。政略結婚だからこそよ。それこそ歳の差二十も三十もありふれておる。しかも相手は一騎当千の猛者の直弟子、英雄の類系。玉鋼やヒヒイロカネの出どころとも繋がっておる。これ以上の縁はあるまい?」
「おおう、めっちゃ政略だった」
「拙者、愛のない結婚には興味ござらん」
しかし妙なスイッチが入ったままのベルント様がすげなく断る。
「おやベルント。黒髪のじゃロリ幼妻、君の好きな要素しか見当たらないけど?」
「くッ…!」
あ、ベルント様が屈した。
降って湧いた縁談に、急遽お爺様とアレクシス様が招集された。お爺様が素直に祝福し、アレクシス様が弱点を突いたことで、ベルント様とジュナ姫様のビッグカップルが爆誕。宮中は俄かに騒がしくなった。
「やあ。一昨日ぶりだが、妹をよろしく頼む」
「寿奈殿下に良縁があって良かったですわね♡」
政務の途中で、寿炎帝と皇后陛下まで。秒で公認だがいいのか。
「いかに今は太平の世とはいえ、国内の貴族と縁付くとなると、色々と問題があってなぁ」
「かといって国外に送り出すわけにも参りませんし…」
「大きな声では言えぬが、妾は隠密寮担当じゃ。夫には、利害のない立場で、尚且つ忍びに造詣の深い男が望ましかったのじゃよ。それに———」
ジュナ姫様が、ベルント様の袖をつつっと撫でた。
「妾、大丘越前のような男前がタイプゆえ♡」
姫様、好みが渋い。そして大丘越前からのベルント様、何となく分かる。ベルント様は、これで姫様に陥落した。




