第74話 テラスハウスの一夜
ディートリント様をアロイス様の待つデルブリュック城に送り届けた後、俺とアレクシス様とはテラスハウスに戻ってきた。お爺様とベルント様は、秋津の酒と肴で一杯やるそうだ。
手に土を出して粘土に変え、ルビーとサファイアにしてから魔力を込める。そして同量ずつ手にしながら、酸化アルミニウムとクロムなどの不純物を鉄に置き換える。ちょっと集中を要するけど、慣れてしまえば流れ作業だ。黙って没頭する俺に、アレクシス様がぽつんとつぶやいた。
「今日、フィル大使に会ってきたんだけどさ」
そっか。彼は彼で、大内裏に足を運んだんだっけ。アレクシス様は、クリーンのスキルの噂を聞きつけて、辺境まで足を運ぶ魔法馬鹿だ。無遠慮で距離感がおかしいフェベ教授とフィル大使。俺は非常に苦手だが、アレクシス様にとっては知的好奇心の方が勝るのだろう。
「何から話したらいいかな。この間、応接室で大使が気絶していた間、教授と話していただろう?」
「ああ、そんなことがありましたね」
「その時に、心当たりのある名前があったんだ。フェンケっていうんだけど———」
「ああ、言ってましたね。お、出来た」
「はは。ヒヒイロカネも、君の手にかかったら造作もないね。———ってそれは?」
「はい。鑑定したら、『魔鉄』ですって」
「魔鉄だって???!!!」
ちょっとした出来心だったんだ。火属性のルビーと、氷属性のサファイア。これを鉄にしたらヒヒイロカネだろう。ならばアメジストに闇属性を込めて鉄にしたら、何が出来るかなって。
「まったく、君の突拍子のなさには脱帽だね!しかし、魔鉄がこんなに簡単に手に入るなんて」
そう。イ=ソノ親方に会った時、ベルント様が聞かれたんだ。彼が作った不恰好なアルミの日本刀もどき、これを綺麗に打ち直してもらえないかって。そしたら、
「馬鹿言っちゃいけねェ。刀ってなァ、鋼って決まってるもんだ」
それで納得した。どうしてヒヒイロカネの刀はあるのに、ミスリルの刀や、アダマンタイトの刀のことは聞いたことがないんだろうって。地金が鉄なのが条件なんだ。
火・氷属性のヒヒイロカネの刀があるんだ。じゃあ、他の属性の刀って作れないのかなって。聖属性の魔力を込めたダイアモンド。これがアダマンタイトで、炭素を銀に置き換えればミスリルになる。ならば、銀じゃなくて鉄に置き換えたら?
結論は、「聖鉄」という物質になった。だけど鉄と聖属性の相性が良くないのか、聖属性魔力の定着率が低い。ミスリルに比べて20パーセントくらい。ちょっとは残ってるけど、後の8割は流れ出ちゃうっていうか。
じゃあ、火属性単体ならどうだろう。魔力を込めたルビーだけを鉄に置き換えたら、炎鉄。サファイアだけだと氷鉄。どちらも聖鉄と同じ、ミスリルと聖属性ほどの相性の良さは見られなかった。ヒヒイロカネが火と氷の両方の属性を秘めているのは、それが鉄と馴染むから。ちゃんと理由があったんだ。なお光、土、風、水においては、魔力の残存率はゼロ。相性のいい別の金属を探さなければならない。
そして最後、闇属性を試してみたら、「魔鉄」が出来たというわけだ。魔鉄、黒光りしていて格好いい。魔王とか暗黒騎士とかが持ってそうだ。込める魔力のレベルによって、付与する状態異常が異なりそう。待って、スリープを込めれば「いざ⚪︎いの剣」になるのでは?!
真剣な話を生返事で流されていたことも忘れて、アレクシス様は大興奮で紙とペンを取り出し、それから二人して実験に没頭した。いくつかの金属を試してみて、土属性はタングステン、風属性はアルミやチタンなどと親和性が高かった。どうも土は硬い金属と、風は軽い金属と相性がいいらしい。いずれも鉄じゃないので日本刀にはならないが、他の武器防具なら作れるだろう。光は、金とプラチナ、それからチタンも多少。安定していて光沢を失いにくいのがいいんだろうか。それから、水属性は不明。逆に雷属性は、電気を通す金属ならなんでも相性が良かった。
雷属性は、トパーズに魔力を通して作るオリハルコンから錬成できる。だけどオリハルコンって、俺の記憶では真鍮説が有力だった気がするんだけど。そう思ってトパーズを真鍮に加工すると、なんと名称はオリハルコンのままだった。トパーズ状態でも真鍮状態でもオリハルコンなんだ。だけど鉄に加工すると、「雷鉄」と名前が変わる。雷属性の刀が打てるのは嬉しいけど、属性と金属との組み合わせで名称が変わるのは奥が深いな。しかも対象が合金まで広がると、ちょっとやそっとではコンプできそうにない。しかし、
「すごいねクラウス!可能性は無限じゃないか!」
さすがに無限ではないと思うが、アレクシス様が楽しそうなので、いいか。その夜俺たちは、ひたすら徹夜で錬金大会を繰り広げていた。
「で、申し開きは?」
「「ございません」」
翌朝。ディートリント様がテラスハウスにお越しになって、徹夜明けでハイになっている俺たちと夥しい魔法金属を発見。もれなくハリセンの餌食となった。そして秋津では、ヒヒイロカネと純鉄以外の供出は固く禁じられた。雷神剣なんか、絶対ロマンだと思ったんだけどな。こうなったら自力で鍛治スキルを上げるしかないか。
「クラウス、お前なにか良からぬ考えを巡らせていますわね?」
ぎくっ。




