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スキルが生えてくる異世界に転生したっぽい話  作者: 明和里苳
第6章 秋津編

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第73話 京の様子

 親方との取引は、とりあえず保留してきた。伝家の宝刀、「アレクシス様に相談します」だ。デルブリュックでは、蒸留の仕組みも純鉄も、アレクシス様の研究の成果として親方には伝えてある。とりあえず邸宅に戻り、判断を仰がなければ。


 しかしデルブリュックの親方、ナカジマ「殿下」って呼ばれてたな。希少金属で出来た剣を何振りも持ってる謎の人物だと思っていたが、やっぱり身分の高いドワーフだったみたいだ。しかし親方は親方でも、今ではすっかり蒸留所の所長。大量の酒を買い付けては工場をあげてガンガン蒸留、そして蒸留したそばから飲んで騒ぐ。蒸留所はダメ親父の巣窟そうくつ、そして親方はそのボスになってしまった。一抹いちまつの製造者責任を感じる。


 一方同行したお爺様とベルント様は、玉鋼の刀が打ってもらえるとホクホクだ。お爺様は立派な太刀を、ベルント様は打刀うちがたなと脇差を。ドワーフが刀匠をやってるだけあって時代考証がめちゃくちゃだけど、彼らは秋津の武術を身に付けるというよりは、時代劇で見たカッコいいお侍さんや忍者になりたいだけだから問題ない。


 というより、時代考証がめちゃくちゃ。それは秋津国全体に言える。


 秋津は半鎖国、俺たちは目立つ。そう思って、ジュナ姫様には牛車を出してもらった。移動速度は落ちるけど、中は見えない。俺たちは前後の簾や、左右の物見と呼ばれる小窓から、みやこの街並みをうかがった。


 ここに来るまでも、違和感は満載だった。玄関口の出島はまるで時代劇村みたいなのに、鎮守府はまったくの西洋建築。飛行船のキャビンは、外は豪華な輿こしのような———正確に言えば、ぶっちゃけ霊柩車みたいな外見でいて、中はリムジンのような、マイクロバスのような。そして大内裏も、建物は神社みたいなのに、中は俺たちの馴染んだ西洋文化と何ら変わりがない。


 京の庶民の生活様式もまた、俺が想像したのと全然違った。


 街並みは、和風というか何というか、観光都市の美観地区のような感じ。だけど見る人が見れば、時代考証はめちゃくちゃなんだろう。建物の中で一番違和感があったのは、看板だ。大体がイラスト。これは、識字率のことを考えれば仕方ないのかもしれない。しかし、次に多いのが漢字、そしてアルファベットだ。


 そう。秋津の公用文字は漢字とアルファベット。例えば呉服屋の看板は、衣服のイラストと「服」という文字。それから、「Fuku」「Clothing Shop」と併記してある。そう、第二公用語が英語なのだ。どゆこと。


 そして様子がおかしいのは、言語だけではない。


「今日どーよ?」


「んーチョベリバって感じ!」


「なんだよ〜機嫌直せって。イタメシても食ってこうぜ!」


「アッシーしてくれるならいいよ!」


 通りを歩く、男二人と女二人。背中に大剣や弓、杖を背負っているので、冒険者と思われる。しかしその服装だ。男冒険者の服はダボダボのズボンに柄シャツ。そして女性に至っては、肩パッドの入ったタイトなスーツ。ボディコンって奴だ。武器とは別に、ふわふわの扇まで装備している。彼らはそのまま、Luida’s Tavernという看板の建物に消えて行った。


 ここは一体、何時代なんだ。


 そういえば、フェベ教授が言っていたな。俺の書いた魔法陣が、古代秋津語で書かれてるって。ここはカタカナがとっくに滅び去った世界線なのか。少なくとも、俺が知る日本という国とは、まったく別物のようだ。




「「というわけで、早速刀を打ってもらおうと」」


「馬鹿じゃありませんの?!」


 スパコーン。


 秋津京のアルブレヒト邸に、ディートリント様のハリセンの音とツッコミの絶叫が轟く。一日お休みになって、元気になられたようだ。やっぱり彼女はこうでなくてはならない。


「まあまあ、ディー。ちゃんと保留して帰って来たんだから、ね?」


「そもそもアレク、なんでこの三人で放流したんですの?!馬鹿ですの?!」


「あっはい」


 まあしかし、ここは秋津。本国コルネリウスから遠く離れた極東の島国だ。いざとなったら拠点も何も捨てて、とんずらすることだってできる。旅の恥はかき捨てって言うし。


「ああ憎たらしい。自分は関係ありません、みたいな顔して。大体の元凶はあなただという自覚はあって?!」


 デルブリュックの親方から秋津の親方に、既に情報が伝わっていたのは致し方ない。しかしヒヒイロカネの出どころがアレクシス様だと知れたら、秋津朝廷が敵に回る可能性があると。今のところイ=ソノ親方は、ナカジマ親方とともに知らぬ存ぜぬを貫いてくれているが、蒸留器の一部に組み込まれているからには、遅かれ早かれアレクシス様に行き着くだろう。ううむ、デルブリュックで良かれと思ってやったことが、まさか秋津で問題になろうとは。


「まあ、今更足掻いても仕方なかろうて。過去のことは仕方ない、これからじゃ」


「そのことなのですが御老公。いっそ一定量のヒヒイロカネを提供して、刀を一振り打ってもらい、帝に献上してはどうでしょうか」


 お通夜状態の中、ベルント様の一言で全ての視線が彼に集まった。


「———思いつかなかった。ベルント、それはいいかもしれないね」


「なるほどね。もう「ある」ということはほぼ確定しているわけだから、「ない」と主張するよりは、出どころだけをボカして一定量を供出することで黙らせるのもありだわ」


 お、何だか丸く収まりそうだ。ヒヒイロカネを作って提供するだけなら、すぐ出来る。


「ヒヒイロカネを供出すれば、我らの分も同様に打ってもらえましょうぞ」


「ベルント、でかした!」


「「「そっちかーーー!」」」


 そして振り出しに戻る。




 しかし他にいい案も浮かばず。親方と朝廷に、玉鋼とヒヒイロカネを一定量の供出。その代わりに口止め。そしてお爺様とベルント様のヒヒイロカネ製の刀はお蔵入りになった。


「作ったら絶対見せびらかしますわ。そしたら大騒ぎになるのが目に見えてるじゃありませんの」


 だそうだ。58歳児と30歳児は涙を飲んでいた。彼らの刀は玉鋼製になりそうだ。アレクシス様だけじゃなくて、ディートリント様にも判断を仰いでよかった。彼らの手綱を握れるのは彼女しかいない。


「だからどうしてお前が他人事みたいな顔をしているのです!ああ憎たらしい!」


「ふふ。ディーは面倒見がいいよね☆」


 俺もそう思う。ちょっとスパルタだけど。

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