第71話 今後の方針作戦会議
俺たちに用意された邸宅は、瀟洒だが小ぶりな佇まい。宝石絵巻の発掘者アレクシス様が名誉や褒賞などを嫌う性質ということで、離宮の一つが改築されたのだという。まあ小ぶりとはいえ、王都のアルブレヒト邸くらいの広さはある。こっちは平屋だからな。
「さて、クラウスの目的は達成されたようじゃが」
そう。俺たちは外交特使という名目でコルネリウスを飛び出した。目指したのは秋津、目的は国交強化と交易の拡大だ。決してあちこちから手を引かれて逃げ出したのではない。ということになっている。そして目的を達成してしまった今、俺たちは宙ぶらりんだ。一応、秋津国としては俺たちはいつまで居てもいい、むしろ居てくださいって感じなんだが、秋津はともかくエルフが邪魔だ。かといって、次に向かう目的地も思い浮かばないしな。
とりあえず、各人の希望を聞き出してみると、お爺様は秋津で刀が欲しいらしい。出来れば諸国漫遊して、悪を成敗したいそうだ。お爺様、それはフィクションだから。そしてベルント様はお爺様に帯同。そして忍者に会って、忍術を極めたいとのこと。いや、忍者のお仕事って意外に地味だからね?チャクラのパワーで手裏剣とかないから。てか、チャクラって秋津のテクノロジーじゃないから。
ディートリント様は帰還一択。当初は米・味噌・醤油の国と聞いて秋津訪問に乗り気だったのだが、秋津に着いてからの色々、特に蟲力飛行船で一気に受け付けなくなった。一方、アロイス様はあの巨大トンボを甚くお気に召して、ずーっと「ぶんぶん」「ぶんぶん」とおっしゃる。また乗りたいらしい。男児は乗り物が好きだからな。
そしてアレクシス様だが。
「クラウスには悪いけど、本音を言うとエルフには興味があるかな」
ウダールからここまで、出会ったエルフは二人。彼らの対応はお粗末で、俺としてはお近付きになりたくない連中だ。だがしかし、彼らは彼らで魔術やスキルなどの知識の蓄積を有しているわけで、魔術バカのアレクシス様としてはどうしても無視できない相手だ。それは分かる。彼に引き取られてから、かれこれ6年の付き合いだからな。
そして傲慢で礼儀知らずのエルフたちだが、彼らが俺たちの編み出した魔法陣や宝石絵巻に興味を示すのも分かる。彼らはアレクシス様と同類、知りたいと思ったら衝動が抑えられないタイプの生き物だ。問題は、その対人スキルの低さというか、モラルの欠如なんだが…。
仕方ない。彼らは排除しようと思えばいつでも排除できる。ディートリント様を除いて、俺たちはしばらく秋津に留まることに決めた。
翌日。俺たちは、それぞれ解散して別行動を取ることにした。まず俺は、ディートリント様を出島に送り出す…という体裁で、姫様に空の輸送便を飛ばしてもらった。京から鎮守府へは頻繁に高官が移動しているので、偽装は問題ないとのこと。同様に、鎮守府と出島の間も。こちらは普通に輿が行き来していて、更に問題ないらしい。そしてディートリント様が出島に到着予定の二日後、グローリア号は出島を出航。ジャチント船長は、自分たちだけでギルランダに戻るから平気だと言っていたけど、時々転移して超高速航海術「びゅんびゅん」をしてあげようと思う。
もちろんディートリント様は、出航を待たずにとっととお帰りだ。彼女は彼女で忙しい。なんせお母様のギルベルタ様が東方との交易に乗り気で、グローリア号がギルランダに戻り次第、改めて龍眼と秋津に脚を運ぶ予定だという。彼女は今、先々代ガルヴァーニ夫妻と一緒にデルブリュックに戻っていることになっているからね。ディートリント様は、当面彼女の補佐として、転移を担当してくださるそうだ。
当初龍眼と秋津との交易は、アイテムボックスを使って自力で細々とやる予定だったんだけど、デルブリュックとガルヴァーニの看板を背負ったギルベルタ様にお任せした方がいいかもしれない。楽ちんだし。
アレクシス様は、秋津の研究者やエルフたちとの学術交流のため、一人で大内裏へ足を運ばれた。俺たちは、魔法陣やタブレットに関して、何がなんでも秘密にしておきたいわけじゃない。無闇に公開したら騒ぎが起きるのと、成果物をもっと寄越せとせがまれるのが厭わしいだけだ。知識に関しては、彼の判断で好きなようにシェアして構わないと合意している。もともと魔法陣は古代エルフのものだし、タブレットにしたって錬金術はこの世界にもともとあったスキルだからな。
そして残るは男4人。と、通訳の船員さん。
「ここが刀剣工房じゃ。頼もう!」
ジュナ姫様の案内で、京の外れ、とある鍛治工房にお邪魔することとなった。カンカンと小気味よい槌音、威勢のいい掛け声。勝手知ったる姫様は、ずんずんと工房の中に足を進める。
「あー、姫さん、今忙しいんだ。何用だ?」
白い作務衣の鍛治師が忙しく立ち働く中、監督しながら檄を飛ばす親父さん。小柄だけど筋骨隆々。間違いない。
秋津で刀を打っているのは、ドワーフでした。




