第104話 大使からの相談
フィーレンス大使から告げられた一言で、俺たちは途方に暮れた。
「我々の星読みによると、この世界のどこかに近々魔王が誕生するという」
「「はっ?」」
確かに、ここは剣と魔法とスキルの世界だ。俺にはコンソール画面やステータスも見えている。なんらかのゲームの世界に転生したと思っていいだろう。魔王くらいいるかもしれない。
「そんな重要機密、僕たちに教えてもいいのですか」
「ああ、そこは問題ない。既に目ぼしい者たちには協力を要請してあるし、もし君たちが喧伝したところで、世迷言と切り捨てられるだけだろう。そして君たちとて、いたずらに世間を混乱させたくないだろう?」
要するに、別に知られても痛くも痒くもないけど? ってことらしい。既に竜族や他種族に働きかけ、犬猿の仲のドワーフ族にまで協力を取り付けてあるそうだ。じゃあ人間族の俺たちは? 俺たちはこれでもコルネリウス王国の中枢に近いはずなんだが、そんな話は聞いたことがない。
「それは、人間族の中から魔王が生まれるからさ」
なんだかきな臭い話になってきた。
彼が俺たちに協力を求めたいのは、その魔王探しだ。
「君たち人間族は圧倒的に数が多い。僕たち他種族では到底全域をカバーすることが困難だ。しかも目立つ。そこで君たちにも内々に探ってもらいたい」
秋津のように大使が駐在して国政に食い込んでいる国もあるが、多くは手付かずだ。俺たちにはそこそこの身分があり、コルネリウスの中枢とも近い。上手くやれば、近隣国との連携も取れるかもしれない。
さらにもっとも大きな理由は、お爺様とアレクシス様がドラゴンスレイヤーだということ。
「相手は魔王だ。強大な力を持っている。不用意に近付いて命を落とすようでは、捜索を依頼することはできないんだ」
確かに、個人単位で腕が立って、しかも権力に近いとなれば、接触対象は限られてくるだろう。なお、俺もそのカウントに入っているらしい。ウォーターボールで黙らせただけなのに、解せぬ。
今のところ、他種族が行っている活動といえば、エルフ族による監視。小人族による情報収集。ドワーフ族による希少金属の収集と武器防具の作成。竜人族には、翼竜の機動力と優れた戦士の招集。そして各々《おのおの》、味方として引き入れられそうな人物にはスカウトをかけること。そういえば、デルブリュックのナカジマ親方はお爺様の父上とパーティーを組んで、そのまま居着いたって言ってたな。
「その、魔王への対処というのは、どのように」
「それなんだけどね」
前回魔王が現れたのは、約五百年前。当時は火山に開いた大穴から魔物が吹き出したが、地下世界に送り込んだ勇者が魔王を討伐して難を逃れたらしい。そんな話、どっかで聞いたことあるような。まあよくある魔王討伐劇というやつか。
そして今回は、前回の反省を踏まえて魔王が成長しきらないうちに保護、もしくは討伐しようという流れなんだそうだ。ん? それもどっかで聞いたことがあるような。
「まさか、子供をさらって塔の地下に閉じ込めたりしなかったろうな?」
「ぎくっ」
やったんかい。
「まあそれは過去の話よ。おかげでエルフはめでたくあちこちで出禁になっておる」
「いいんだよジュナ。人間なんて百年も経てば忘れてしまうし、魔王を探し出すためには多少の犠牲は必要だ」
「ちょっとコイツ絞めちゃっていいっスか」
「待ってください。過去子供をさらって出禁になったということは、もう魔王は大人になってしまっているのでは」
おっとアレクシス様、ナイスツッコミ。
「いかに洗練されたエルフ族の星読みとはいえ、四十年五十年の誤差はあるさ」
やれやれ、そんなことも知らないの? みたいな顔をしている。やはりコイツは絞めておかねば。
「まあ、というわけでほぼノーヒントに近い人探しなのじゃ……」
寿奈内親王は遠い目をしていた。
まあ、乗り掛かった船だ。聞いてしまったものは仕方ない。積極的に協力するつもりはないが、一応、分かっているヒントだけでも聞いておこう。
「残念ながら、具体的な容姿などは分かっていないんだ。魔王というのは、膨大な魔力を持つ特殊個体のことだからね」
エルフの星読みって、てんで使えねぇな。
「具体的な預言というのはこうだ。——その者、類稀なる異能を持ち、次々と配下を増やして強大な帝国を築く。怪しげな術を用いて世界を一変し、人々を惑わせ、堕落させ、支配するだろう」
「ふわふわした預言ですね」
「預言とはまさにそういうものだよ」
「秋津には、外つ世界の異能を持つ迷い人が集まるでな。我らも目を光らせておるんじゃがのう」
一同でむむむ、と唸った後、「まあ一応協力は要請したからね」ということで、その日の会合はお開きとなった。
しかしその夜。
「——僕、考えたんだけどさ。大使のいう魔王って、クラウスのことじゃないかな」
「うぇっ」
お前は何を言っているんだ。




