第105話 テラスハウス緊急会議
その夜、久しぶりにテラスハウスに外交特使組が集結した。俺とアレクシス様、お爺様にベルント様、そしてディートリント様だ。アロイス様はデルブリュック城でお留守番。
「間違いありませんわね」
「えっ」
「馬鹿げた魔力、怪しげな術。あなた以外に考えられませんわ」
大使が告げた星読みの預言とは、「その者、類稀なる異能を持ち、次々と配下を増やして強大な帝国を築く。怪しげな術を用いて世界を一変し、人々を惑わせ、堕落させ、支配するだろう」だった。
「類稀なる異能、怪しげな術。クリーン村でツボ農法と投擲術を広めたのもお前ね。あれを放っておいたら、今頃デルブリュックは大惨事でしたわ」
えっ。だってコンソール画面が見えるのは俺のせいじゃないし、飯は腹一杯食べたいよね?
「しかも次々に料理だの酒だの編み出して、危険分子ったらありゃしませんわよ」
「いやでも、魔力でいえばアロイス様だってワンチャン」
「黙らっしゃい! あの子はお前みたいに「脳汁」なんて悪魔の所業を生み出さなくてよ!」
ええ……。ポテンシャルは絶対アロイス様の方が上だと思うんだけど。
「ともかく、クラウスが魔王であることは隠し通す必要があるじゃろうな」
「場合によっては大使に手を下すことも考えなければなりません」
「まあ待てベルント。大使のことは後からどうにでもなるだろう。それより、彼らの対魔王対策だ。始末するのは、敵の手の内を知ってからでも遅くない」
お爺様、俺魔王確定? そしてベルント様とアレクシス様が物騒な発言を……!
「ああもう、お前はどうしていつもそんな他人事みたいな顔をしているのです!」
「まぁまぁ、ディー。どうせ僕らが守るんだから、ね?」
「本当にクラウスは、我が子ながら危機感ってものがまるでないのですわ!」
なぜか怒られてるけど、どうも心配をかけているみたいだ。なんかごめん。
とりあえず、決まったことは二つ。
「まずは今回の魔王討伐計画を聞き出すこと。それから、クラウスの能力の秘匿と防衛だね」
「場合によってはこちらから討って出ることも考えねばならんの」
「ちょっ、そこまではいいっていうか」
いやいや、俺は元々普通に平民だし。いくら義理の家族っていったって、俺のせいで国際問題はまずいだろう。
「黙らっしゃい。これは決定事項よ」
しかしディートリント様は聞き入れなかった。他の大人たちもだ。
「前回の討伐は、既に地下世界を支配していた魔王に対して勇者を送り込んだみたいだね」
そう。前回の魔王も元は人間だったけど、既に魔王として君臨していたから特定は簡単だった。彼は更に配下の魔王を地上世界に送り込んで侵攻を始めたから、討伐されたらしい。他には、もっと前だと竜族が魔王だったとか、神官に呼び出された破壊神だったりとか、人外に進化した王様だったとか、いずれも魔王になっちゃってから対処したパターンだ。
いやいや、やっぱりどっかで聞いた話ばかりだ。なんなのこの世界。てか、ちょっと時代考証が前後してねぇか。
「とりあえず、昨日聞いたところによれば、エルフ族は監視。小人族は情報収集。ドワーフ族は希少金属の収集と武器防具の作成。竜人族は、実質的な戦力を担当しているらしい。あと、討伐に適した人物のスカウトもね」
「うむ。デルブリュックのナカジマ親方は、ワシの親父殿に目をつけて移住してきたしのう。そういうことじゃろう」
「ちょっと待ちなさい。行商や冒険者で世界中を飛び回る小人族はともかく、エルフはあの体たらく。竜人族はお父様の熱狂的なファン。ドワーフの大半はデルブリュックで飲んだくれ。——もしかして魔王討伐計画って、既に頓挫しているのではなくて?」
「「「あ」」」
突如広がる沈黙。
「『怪しげな術を用いて世界を一変し、人々を惑わせ、堕落させ、支配するだろう』、か」
アレクシス様の静かなつぶやきと、集まる視線。なぜ。




