26.「4箇所目」殺し殺される営み
この作品はフィクションです。
勇者、と、魔王。
どちらが先に生まれたのかは、定かではない。
だが、それは、どちらでもいいことだ。
勇者も、魔王も、立場が違うだけで、役目は同じ。
勇者は人間の。
魔王は魔物の。
それぞれの、崇拝の対象。そして、人間と魔物が殺し合うことを、営みとして正当化するための存在。それが、勇者と魔王に与えられた役割。
勇者がいることで、人間は魔物を悪として認識し、
魔王がいることで、魔物は人間を悪として認識する。
そして、そこに疑いを持たない。
まさか、
勇者と魔王が人知れず家族ぐるみの付き合いをしているなどと、誰も思わないだろう。
「…そういえば、以前その屋台に呪をかけてから、暫く時が経つが、その後問題ないか?」
「あぁ。問題ない。…多少の口論はあるが。」
「ふむ…、どうやら、効力が弱まっているようだな。やはり永続するものではない、ということか。改めて呪をかけ直しておくか?」
「そうだな…。頼む。」
魔王が屋台に短く言葉を投げかける。
見た目には、何も変わりがない。ただの、木製の古びた屋台。
しかしそこには、魔王の呪がかけられている。
それ故に、
この屋台の前では、人間も魔物も、何人たりとも相手を傷付けることは出来ない。たとえ、どれだけ憎い相手であろうとも。
「ふ〜む。なら、我が一族の加護も、改めてかけておくか?その方が安心だろう。」
「そうだな…。頼む。」
勇者が屋台に向けて印を切る。
見た目には、何も変わりがない。相変わらずの、木製の古びた屋台。
しかしそこには、勇者の加護が授けられている。
それ故に、
この屋台の前では、人間も魔物も、平等に互いの言葉を理解できる。知識や文化による差別など、存在しない。
「はっはっは!今日も実に旨い食事であった!礼を言うぞアルジ。」
「馳走になった。」
「どうも。今回は、呪と加護をお代としていただいておくよ。」
「うむ!では、またな。」
「…失礼する。」
「あぁ、毎度。」
「なぁ、」
「…ん?」
「前から疑問だったのだが、何故アルジは、屋台に呪と加護をかけさせたのだろうな?」
「…さぁな。」
「殺しの営みを目の当たりにしたくないのなら、自分自身がそうなった方が確実だと思うのだがなぁ。」
「…なにか思惑でもあるんだろう。」
「どんな?」
「知らん。」
「おいおい。」
「…どんな思惑があろうと、営みを外れたとはいえ、平穏を望むあの男が、世界を乱すような事はせぬだろう。旨い飯をいただき、呪と加護を返す。それだけでよい。」
「ま、そうだな。」
表現したいこと、と、表現できること。
なるべく距離を近づけたいけど難しいですね。




